「日本化」の犠牲者となった選手たち
そこからがまた怒涛の展開だった。サイゴンFCは最終節を終えた当日、スタジアム内の事務所で所属する全ての選手・コーチの契約を解除。この時点でクラブが2部リーグを戦う意思がないことは明白だった。気の毒だったのは「日本化」の犠牲者となった選手たちだ。特に、提携先であるFC琉球とアスルクラロ沼津に期限付きで移籍していた若手選手らは、母国に戻った途端、無所属になるという悲惨な状況に立たされた。
思い返せば、ビン前会長が2021シーズンのキックオフカンファレンスで語った夢物語は、その殆どが実現しなかった。FC東京との提携で進めるはずだったアカデミー・スクール事業はコロナ禍の影響もあって頓挫。現場レベルでは日本から招いた選手と指導者が結果を残せず、もともと評価が高いとは言えなかったVリーグでの日本人助っ人の評価を更に下げてしまった。ベトナム人選手の日本派遣は、有言実行した数少ない事例の一つだが、それもクラブが解散してしまっては何の意味もない。
避けられないクラブ消滅危機
もともとサイゴンFCというクラブは、ハノイFCのセカンドチームがホーチミン市(旧サイゴン市)に移転して設立されたという歴史的背景があり、地元での人気はすこぶる低かった。ホーチミン出身のビン前会長が就任した際は、地元色を前面に打ち出していく方針で、会長の発言に希望を持った人々もいたが、地域に根付く前にクラブは瓦解。また、チーム内では「日本化」に対する不協和音が生じ、スローガンだった「We are one」とは程遠い状況だった。
その後、事実上の解散となったサイゴンFCは、2部出場権をラムドン省(3部ラムドンFC)に売却する計画を打ち出した。しかし、この計画はサイゴンFCの複数株主が反対したことで実現には至らず、サイゴンFCは3月初め、正式に2部リーグ不参加を表明。この瞬間、リーグ規定によるペナルティでアマチュアの4部まで降格することが決まった。もともと市外のクラブであるため、自治体の支援も受けられず、新スポンサー獲得の目処も経っていない状況で、クラブの消滅は避けられないと見られている。
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