Jリーグは、6月から8月にかけて28試合で実施した声出し応援運営検証の結果を9月5日に発表した。「声出し応援エリア」を設置した試合では多くの観客がガイドラインを順守し、懸念されたクラスター(感染者集団)が発生することはなかったというもの。新型コロナウイルス禍で様々なイベント開催制限がかけられてきた中の検証であり結果だ。
それを受けて8月15日からは、希望する全Jクラブが「声出し応援エリア」を設置できることになっている。しかしながら政府の基本的対処方針に基づく制限下では、飛沫等による感染拡大防止の観点から、声出し応援エリアを設置した場合、収容制限は50%以下。収容人数の制限がなく100%を動員できるのは、声出し応援エリアを設置しない場合に限られている。
今後Jリーグは、収容人数制限の緩和を関係機関へ求める方針を示している。根拠は、声出し応援席でも94.8%以上という高いマスク着用率、十分な換気状況、声出しエリア以外からの声出し応援なし、そしてクラスターが発生しなかったというデータだ。「感染対策を適切に行うことで、声出し応援エリアと声出し応援をしないエリアの併存運営が可能」という専門家チームの助言も合わせ、十分な材料を提示できる状況は揃った。
利用者へのアンケート調査でも、声出し応援席利用者では回答者の95%、声出し応援禁止エリアの利用者では85%以上が声出し応援の継続を希望しており、サポーターが望むJリーグ観戦の形が戻る日は着実に近づいていると言えよう。
素早く着実なJリーグのコロナ対策の歩み
2020年。2月21日にJ1リーグが、23日にJ2リーグが開幕した直後、Jリーグは新型コロナウイルス感染拡大によって大幅な延期期間に突入した。
当初は混乱もあっただろうが、Jリーグはここから、国内主要スポーツ界の先頭を走ってきている。3月に日本野球機構(NPB)と共同で「新型コロナウイルス対策連絡会議」を設立し、専門家チームを置き、感染症対策や公式戦開催などについて検討を開始。6月末に、リモートマッチ(無観客)ながらリーグ再開にこぎつける。
7月10日からは「超厳戒体制」として5000人もしくは最大収容数の50%のうち、少ない方を目安として有観客に。その後「厳戒態勢」に変更されたことで、観客動員数の上限を入場可能数の50%で開催できるようになった。Jリーグは政府の方針に従いながらも、可能な限り選手とサポーターの望む方向を目指して歩みを進めてきた。
そして2022年6月、会場の収容を50%とすることにより大声を出してのイベント実施が認められたことで、上述の声出し応援の運営検証を実施。茨城カシマスタジアムで行われたルヴァン杯の鹿島アントラーズ対アビスパ福岡(6月11日)を皮切りに、声出し応援エリアのみではあるものの、スタジアムにサポーターの声援が、チャントが戻ってきた。
Jリーグ以外では、9月5日に新日本プロレスが約2年半ぶりとなる「声出し可能大会」を開催するなど、スポーツ界に声援が戻りつつある。Jリーグが批判のリスクを背負いながらも、段階を踏みコロナ禍以前のスタジアムの姿を取り戻そうとしてきたことが、形になりつつある。
目指すは欧州スタジアム。100%の観客で声出し応援
Jリーグのファンは、欧州など海外のスタジアムの現状をよく知っている。海外では今やマスクを着用する必要がなく、満員の観客が大声でチャントを熱唱できるという環境だ。そのため、Jリーグの歩みの遅さにフラストレーションを溜めている人も少なくない。
今年5月に浦和レッズの一部サポーターが、鹿島アントラーズ戦とガンバ大阪戦でチャントを合唱しブーイングをするなど、違反行為を行ったのはそういった気持ちの表れでもあるだろう(のちにクラブに、罰金2000万円が科された)。
ただし、Jリーグは公益社団法人だ。「自法人の利益の追求だけでなく、社会にさまざまな好影響を与えることを目的に活動する法人」であり、内閣府からの認定を受けている。税制上の優遇措置などのメリットを受けている以上、政府の方針に大きく背くことは難しいだろう。
また日本社会全体が諸外国と比べ、コロナ対策制限の緩和に向け慎重であることも事実だ。それでもJリーグは、運営検証を行い根拠を示しながら、100%の観客での声出し応援に向けて前進を続けている。日本のスポーツ界全体がかつての姿を取り戻すために、先陣を切り、大きな役割を担っている。
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