Jリーグ ヴィッセル神戸

楽天の世界戦略が実現した、ヴィッセル神戸イニエスタ獲得の意味

昨年からヴィッセル神戸でプレーするポドルスキ 写真提供:Getty Images

神戸が開くJリーグ新時代の扉

 一人の大物外国人選手獲得に天文学的な金額をつぎ込むことに対しては、同じ資金で複数の有能な選手を補強した方が効果的なのでは、という皮肉な見方も存在する。確かに理論的には間違っていないかもしれないが、それはフィールド外に波及する付加価値を無視した考え方であり、そもそもこうした資金はスター選手の獲得という目標があるからこそ捻出できるものだ。これまでヴィッセルの効率的な強化に成功してきたとは言えない楽天の三木谷浩史社長だが、既存の価値観に縛られない最近の大胆な投資は、一代で財を成したビジネスマンとしてさすがの手腕を見せたと言うべきだろう。

 ポドルスキとイニエスタの獲得により、ヴィッセル神戸の投資額はJ1の中で群を抜いたものになった。欧州に目を向ければ、主要リーグでは圧倒的な資金力を誇るビッグクラブが他を寄せ付けない強さを見せる傾向が加速している。日本においてはこれまで経済力の差をベースに一つのチームが圧倒的な戦力を揃えることはなかったが、イニエスタの獲得はその点でも大きな変化をもたらすかもしれない。

 タイトル獲得の実績がなく年間順位の最高成績も7位である神戸は、これまで国内トップクラスの選手の引き抜きには苦労してきた。しかしクラブとしてのステータスを飛躍的に高めたことで、今後はそれもより簡単になるだろう。イニエスタやポドルスキと一緒にプレーしたくない選手など、そうはいないはずだ。

 だからこそ今後数シーズンのヴィッセルの成績は、Jリーグの未来を大きく左右するだろう。世界的スターの2枚看板に加えて、日本代表クラスの選手を揃えてJ1を制覇するようなことになれば、既に国際的なブランド力を高めつつあるクラブは一気に日本を代表するビッグクラブに上り詰める可能性を秘めている。そうなれば、JリーグはまさにDAZNの放映権獲得を起点として新時代を迎えたことになる。

 一方で、投資の大きさは成功を保証するものではない。過去にも怪我を含む様々な事情から期待に応えられなかった大物助っ人は多く、チームの歯車が噛み合わない恐れもある。バルセロナとスペイン代表という世界最高の2つのチームでしかプレーしてこなかったイニエスタにとって、ピッチ内外で全くの異世界となる日本の環境に適応するのは簡単ではないかもしれない。

 現時点で間違いないのは、イニエスタの獲得があらゆる意味でJリーグ史上最大の契約であり、現在の神戸ほど国際的な注目を浴びたJリーグのチームは、未だかつて存在しなかったということだ。それだけでも既に、バルセロナの英雄は日本サッカーの歴史に新たな1ページを加えたと言える。今後の数年間に渡って彼が日本の地でどのような物語を紡いでいくのか、期待は高まるばかりだ。

著者:マリオ・カワタ

ドイツ在住のフットボールトライブライター。Twitter:@Mario_GCC

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