Jリーグ 横浜F・マリノス

横浜F・マリノス、伝統的堅守から攻撃的フットボールへ。革新的な戦術で挑む”神奈川ダービー”

 

左が開幕戦、右が第5節の布陣 写真:FootballTribe

 開幕2試合を消化して迎えたJリーグYBCルヴァンカップ第1節FC東京戦。敵将長谷川健太監督は前線からのプレスを徹底してきた。GK飯倉大樹からのビルドアップに対して積極的に阻止を試みている。扇原は激しいプレスに苦戦し、ボールを前進させることに失敗した。

 第3節サガン鳥栖戦でマッシモ・フィッカデンティ監督は、中盤でボールを引っ掛けてシンプルに裏を狙い、FWビクトル・イバルボのフィジカルを活かす戦いを挑んできた。自陣深くでのビルドアップは無難に行われたが、今度は守備面での不安を露呈。スピード不足による守備範囲の問題で次々に起点を作られてしまった。

 課題は明白となった。この時点でポステコグルー監督は改善策を提示する。ルヴァンカップ第2節ベガルタ仙台戦で、中町公祐とダビド・バブンスキーを並列気味(ダブルボランチ)で起用。最もボールスキルが優れるバブンスキーを一列下げて起用することで、敵の1stプレスを搔い潜ることに成功している。だが、弊害も生まれた。自陣でのビルドアップこそ円滑に行われたが、ボールの前進に成功しても、前線にかけられる枚数が減り、選手の距離間が離れたことで、攻撃の迫力不足に陥った。

 次戦、第4節浦和レッズ戦で再びアンカーの位置に扇原貴宏を起用。しかし、ポステコグルー監督は第3節とは異なる細工を施す。GK飯倉からのビルドアップ時にインサイドハーフに入ったバブンスキーとアンカーの扇原がポジションチェンジを(おそらく)意図的に行わせた。効果はてき面、相手の1stプレスはバブンスキーのスキルで無力化に成功。プレッシャーの低い状態で扇原へパスを提供することで、ロングレンジのパスが効果的に配給され、両者の良さを上手く引き出させた。後半から、選手自らの判断で天野純と扇原のダブルボランチに変更したが、1人のアンカーでも機能するという手応えは掴んだはずだ。

 国際親善試合による中断期間を経て、迎えた清水エスパルス戦。ポステコグルー監督は前節と同様、扇原をアンカーに配置しながらも天野のポジションを低めに設定。自陣深く危険なエリアでは天野が中心となってプレスを回避。扇原はやや前方の選手間の隙間でボールを引き出して、効果的なロングボールを供給した。また、バブンスキーではなく大津を起用することで、守備でのインテンシティも確保。前線にかけられる人数が減ったことで攻撃の迫力不足こそ感じられたが、上手く欠点を補いながらシステムが機能したと言えるだろう。

 試行錯誤を経て、ポステコグルー監督は一定の手応えを掴んだはずだ。扇原がロングレンジのパス能力を発揮し、天野が自陣深くのビルドアップを補う、大津が守備面を補う。連携面を向上させていければ面白い組み合わせだろう。

 次節は川崎フロンターレとの「神奈川ダービー」だ。川崎はACLでこそ早期敗退を喫したものの、Jリーグでは3勝1分1敗の3位と好調。中盤2列目、3列目には中村憲剛を筆頭に優れた出し手が揃い、最前線にはDFとの駆け引きを得意とする小林悠や大久保嘉人が陣取る。

 チームは開幕から着実に力をつけている。毎試合のようにポジティブな発見が生まれ、攻撃的フットボールは選手のメンタル的にも良い影響を与えている。リーグ戦2連勝、2試合連続完封と自信をつけた状態で昨季王者相手にどれほど通用するのか。新生マリノスの真価を測る好試合を期待したい。

 著者:高橋 羽紋

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