Jリーグ 横浜F・マリノス

横浜F・マリノス、伝統的堅守から攻撃的フットボールへ。革新的な戦術で挑む”神奈川ダービー”

第4節浦和レッズ戦 平均ポジション 写真:Wyscout

『ハイライン』
 上図はJリーグ第4節浦和レッズ戦の平均ポジションだ。今季のマリノスは敵陣でのプレータイムを増加させるため、最終ラインを極限まで高く維持。ボール保持者へのプレッシャーが緩い状態でも、DFラインをハーフウェイライン間際まで押し上げる。ハイライン・ハイプレッシャーを基本軸に、昨季では考えられないリスキーな戦いを選択した。

 言を俟たないが、40歳を迎えたDF中澤佑二は決してハイラインの戦術に適した選手ではないだろう。彼の武器は圧倒的な強さを発揮する空中戦であり、若い頃からスピード勝負を得意とするタイプではない。ましてや40歳を迎え、今季限りでの引退を示唆している状況で、ハイラインを志向することは、誰もが得策でないと考えるはずだ。

 ハイラインはCBに掛かる負担が極めて高い。背後に広大なスペースが生じるため、選手個々のカバー範囲は必然的に広くなる。昨季に比べ、スプリント回数、走行距離の両面で高い数字をマークしていることがその証左だ(スプリントは10回以上、毎試合10km以上を記録)。また、一度でもハイボールを後ろに逸らしたら失点、一瞬でもボールアプローチが遅ければ失点、自身のミスはGKとの1対1に直結するという、精神面での負担も増加する。

 しかし、プロ20年目を迎える百戦錬磨のCBは自身をモデルチェンジすることで新戦術に適応した。常に身体の向きを微調整して視野を確保し、細かいポジショニングの修正を90分間連続して実行することで、試合状況を正確に把握。相方CBデゲネクよりも若干背後に陣取ることでDFラインの最後尾となり、ラインコントロールで相手FWに良い姿勢を取らせていない。この際、相手FWだけでなく二列目、三列目からの飛び出しも広い視野で捉え、絶妙にライン設定を変えていることも脅威的だ。

 スピードが衰えたベテランDFにとって裏を取られる恐怖は身体に染み付いているはず。恐怖心に打ち克ち、”勇猛果敢”に味方を前進させる主将は40歳にして更なる成長を続けている。

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