著者:Seb Stafford-Bloor(TifoFootball.com)
ピエール=エメリク・オーバメヤンのアーセナルへの移籍は、クラブのファンの期待に応えるものだ。最近の騒動はともかく、オーバメヤンは欧州のスターの一人であり、彼の名声はアレクシス・サンチェスの退団の傷をいくらか癒してくれる。
彼はアーセン・ベンゲルが過去に契約できずに批判されてきたタイプの選手でもある。過去5年間アーセナルは毎年夏に実績のあるストライカーの獲得が噂されながら、最近のアレクサンドル・ラカゼット獲得を除けば収穫を得られていなかった。
またこれはベンゲルの最も例外的な契約でもある。シーズン中の移籍、クラブ記録の移籍金、そして最盛期の終盤に差し掛かった選手であること。オーバメヤンは2、3年後の将来に期待してではなく、即戦力として連れてこられたのだ。
おそらく彼はすぐにその価値を証明するだろう。速く、スマートにフィニッシュできるストライカーである彼はアーセナルのフォーメーションで輝くタイプの選手であり、同じく新戦力で元同僚のヘンリク・ムヒタリアンとメスト・エジルの長所を最大限に引き出すことができる。
しかしこの新たなスターをプレミアリーグに迎えることを急ぐあまり、いくつかの不都合な点が見逃されているかもしれない。一つ目の心配は、最も得意なポジションをオーバメヤンに奪われると思われるラカゼットだ。
彼はセンターフォワード以外のポジションでもプレーできるが、エジルとムヒタリアンが2列目でサポート役を務めるのなら、ラカゼットのポジションと将来は不透明になる。
この問題は「嬉しい悩み」と言えるだろう。選手のエゴをコントロールするのは難しいが、ゴールを奪える選手が多すぎて困るという事はない。
それにこの状況の真の被害者は全盛期だというのに出場機会が少なく、先発からこれまでになく遠ざかるダニー・ウェルベックだ。
無視するのがより難しいのは、文化的な問題だ。アレクシス・サンチェスのアーセナルでの最後は、みじめなものだった。彼の献身性が薄れ不機嫌さが増すことで、チーム全体の雰囲気は悪化した。
サンチェスはアーセナルのためにプレーする気がなく、チームメートは厚かましい無関心さに腹を立てた。最終的には、彼の退団が決まってほっとしたほどだ。彼の選手としての貢献は大きく、退団の穴がないわけではないが、代わりにチームは落ち着いた雰囲気を手に入れて活気づいたように見える。
しかしながら、オーバメヤンも大きな違いはない。彼のボルシア・ドルトムントでのキャリアは、クラブが彼の規律を乱す行動にうんざりし、同様のとげとげしさで幕を下ろした。過去12か月間でドイツのクラブは3度も彼をトップチームから外さざるを得ず、当初は和解を試みたものの最後には愛想を尽かした。
移籍はいつも新たなスタートをもたらすが、ベンゲルは一人の問題児をロッカールームから排除し、別の問題児を連れてきたとも言える。
またアーセナルとドルトムントの過去の栄光と現在地の距離を考えると、その類似性を無視することは難しい。両クラブはそれぞれのリーグで優勝を争えておらず、野心的な選手の期待に沿う戦力もない。理論的にはベンゲルはもっと扱いやすく、やっと改善されたムードを壊すリスクの少ない選手を見つけることもできた。
もちろんいつも一番重要なのは選手の才能だが、反論もある。たしかにオーバメヤンの得点記録は、精神的に不安定だった2017/18シーズンも含めて素晴らしい。しかし身体能力に頼るところが大きくプロとして400試合近くをプレーしている28歳のストライカーの年齢を不安視し、果たしてそんなに堅実な投資なのかと疑問に思うのは合理的なことだ。
他のビッグクラブがアーセナルと争おうとせず、またレアル・マドリードの興味を引いてから1年経っていないにも関わらず、5位から勝ち点6離されたヨーロッパリーグ出場クラブへの移籍を許可されたというのは、事実を語るとともに不安を掻き立てる。
また多くの疑問が浮かぶ。特に、他のクラブのスポーツ・ディレクターはなぜ彼を獲得しようとしなかったのだろうか。
オリビエ・ジルーをチェルシーへ送ったことも、さらに不安を増長させる。ジルーはクラブに重要なタイトルをもたらすストライカーには見えなかった一方で、適度なゴール数とプレーのバリエーションを持ち、バックアップのストライカーとしてはプレミアリーグでもベストの一人だ。その彼を、アーセナルはオーバメヤンを獲得するために放出してしまった。
輝かしいスポットライトの一方で、これは根拠に乏しい信頼なのではないだろうか。長い間貢献してきた選手が放出され、もう一人(ラカゼット)は出場機会を失う。全ては衰える可能性のある能力に依存した20代後半のストライカーのためだ。たしかに彼は抗うことが難しいエキサイティングな新戦力だが、そこには大きなリスクが潜んでいる。
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