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J3高知ユナイテッド、“パワハラ不認定”でも鮮明になった運営の危うさ

Jリーグ 写真:Getty Images

11月11日、J3リーグの高知ユナイテッドSCは、代表取締役社長・山本志穂美氏に対するハラスメント問題を巡る内部調査の結果を公表した。調査委員会は「パワーハラスメントに該当するとまでは認められなかった」と結論づけたものの、同時に重大な雇用上の問題が次々と浮上。クラブは山本氏に厳重注意処分を下し、再発防止策を打ち出したが、その構造的な課題は根深く、「家族的」と呼ばれる運営体質の限界が露呈したと言える。

ここでは、調査報告で明らかになったクラブ運営や雇用管理の課題、再発防止策の内容、そして高知ユナイテッドの今後の展望について整理する。


調査の結果とその限界

高知ユナイテッドは2025年9月、スタッフからの内部通報を受け、取締役および外部弁護士で構成された調査委員会を設置。10月1日から27日にかけてヒアリングを行い、11月4日に報告書を取りまとめた。調査の主な結論は以下の通りだ。

  • 通報のあった15項目の事案について、パワーハラスメントには該当しなかった。
  • 一方で、雇用管理や職場マネジメントに複数の不備が確認された。特に、入社前行事への経費不支給、雇用契約書の未作成・未締結、労働条件通知書の未交付などの問題。
  • 山本氏の地位や役職を考慮すると、彼女の言動がスタッフに与える影響力は大きく、心理的な萎縮が生じた可能性が否定できないという所見も報告書にある。

これらを受けて、クラブは11月10日の取締役会で山本氏に厳重注意処分を決定。 会長である森下勝彦氏は、雇用上の問題をはじめとした コンプライアンス違反の疑いを“早急に是正” すると宣言した。


指摘される雇用違反の法的側面

公表された報告内容の中でも特に重大なのが、雇用契約および労働条件通知に関する不備だ。

  1. 入社前行事への未払い
    スタッフが入社前に会社行事や研修に参加したが、交通費や宿泊費、対価が支払われていない。
    ‒ もしこれらを業務とみなせば、労働基準法における賃金義務の問題が生じる。
  2. 雇用契約書の未締結
    調査報告では、スタッフと正式な雇用契約書を交わしていないケースがあったと指摘されている。
    ‒ 労働基準法第15条では、労働条件を明示する文書(労働条件通知書など)が必要で、雇用契約内容を曖昧にすることはリスクが高い。
  3. 労働条件通知書の未交付
    報告書でも、通知書が交付されていないという実態が明確にされている。
    ‒ 書面での労働条件明示は、労働者保護の観点でも基本中の基本だ。

これらは、単なる運営の不手際というよりも、法令遵守(コンプライアンス)として重大な欠落を示す。


家族的経営の光と影

メディア報道や現地事情を踏まえると、このクラブは長らく「家族的な支え合い」「温かみ」を売りにしてきた。特に山本氏は、かつて寮母的な存在として選手を支えてきたという声もある。 しかし、今回の問題はその “家族経営” がかえってガバナンス不在を生み、職場の緊張管理や法令順守を後回しにしてきたことを露呈している。

こうした「温かさ」が「甘さ」「同族性」につながり、契約・労務管理が曖昧になっていた可能性は否定できない。


Jリーグ参入審査への疑問

高知ユナイテッドは、2025シーズンからJ3昇格を果たした。しかし、今回の調査結果では、クラブ運営の基本部分、特に労務管理やコンプライアンス構造に深刻な穴があったことが明らかにされた。

これを受け、「なぜJ参入審査でこうした経営・雇用リスクが十分にチェックされなかったのか」という批判が浮上しても不思議ではない。報道によれば、再発防止策も打ち出されているが、それが形だけなのか、本質的な体質改善につながるのかは現時点で不透明だ。

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名前:寺島武志

趣味:サッカー観戦(Jリーグ、欧州5大リーグ、欧州CL・EL)、映画鑑賞、ドラマ考察、野球観戦(巨人ファン、高校野球、東京六大学野球)、サッカー観戦を伴う旅行、スポーツバー巡り、競馬
好きなチーム:Jリーグでは清水エスパルス、福島ユナイテッドFC、欧州では「銀河系軍団(ロス・ガラクティコス)」と呼ばれた2000-06頃のレアルマドリード、当時37歳のカルロ・アンチェロッティを新監督に迎え、エンリコ・キエーザ、エルナン・クレスポ、リリアン・テュラム、ジャンフランコ・ゾラ、ファビオ・カンナヴァーロ、ジャンルイジ・ブッフォンらを擁した1996-97のパルマ

新卒で、UFO・宇宙人・ネッシー・カッパが1面を飾る某スポーツ新聞社に入社し、約24年在籍。その間、池袋コミュニティ・カレッジ主催の「後藤健生のサッカーライター養成講座」を受講。独立後は、映画・ドラマのレビューサイトなど、数社で執筆。
1993年のクラブ創設時からの清水エスパルスサポーター。1995年2月、サンプドリアvsユベントスを生観戦し、欧州サッカーにもハマる。以降、毎年渡欧し、訪れたスタジアムは50以上。ワールドカップは1998年フランス大会、2002年日韓大会、2018年ロシア大会、2022年カタール大会を現地観戦。2018年、2022年は日本代表のラウンド16敗退を見届け、未だ日本代表がワールドカップで勝った試合をこの目で見たこと無し。
“サッカーは究極のエンタメ”を信条に、清濁併せ吞む気概も持ちつつ、読者の皆様の関心に応える記事をお届けしていきたいと考えております。

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