
1993年のJリーグ発足以来、清水エスパルスのホームスタジアムであり続けた「IAIスタジアム日本平(旧称「日本平運動公園球技場」)」。今2025シーズンは、ホーム開幕戦の第2節アルビレックス新潟戦(2-0)をはじめ、7月20日の第24節横浜FC戦(2-0)、8月16日の第26節横浜F・マリノス戦(1-3)、8月31日の第28節鹿島アントラーズ戦とホーム戦3戦連続で前売りチケットが完売するなどした。
同スタジアムは、幾度にもわたる改装を経て収容人員を2万人にまで増やし、特にその芝はJリーグアウォーズで「ベストピッチ賞」を9回も受賞するほどの質を誇っていた。しかしスタンドの老朽化はどうしようもなく、ALC(AFCチャンピオンズリーグ)の開催基準を満たす施設にするための背もたれ付き観客席増設を決定(静岡市は来年度中に背もたれ付き観客席を5,000席とする改修費用などとして1億8,300万円を計上/出典:NHK静岡NEWS WEB)。観客席の屋根でも、アクセス面(JR清水駅から直行バスで約20分)でも課題が多い。
ここでは、清水の新スタジアム構想について、“Jリーグを観戦するためだけのスタジアム”としないための提言を交えて、地域活性化の核となる在り方を考察する。
清水の新スタジアム構想と課題
ここ数年、浮かんでは消えていた新スタジアム構想だったが、8月8日に『日経新聞電子版』が「ENEOSと静岡市が合意へ」と報じ、15日には難波喬司静岡市長が会見を開いた上で、ENEOSとの間で「静岡市清水区袖師地区を中心とした地域づくりの推進に係る合意書」を締結したことを発表。建設予定地がJR清水駅前の、およそ14haにも上るENEOSが所有していた製油所跡地でほぼ固まった。
鈴木康友静岡県知事は「駅前に大きな集客施設ができることは、街作りの観点、街の活性化でも大変効果のあることだと思っている。ただ、非常に建設コスト等が上昇する中で、これからどのように開発していくかという開発手法も含めて、そこはしっかり静岡市で検討されると思うが、基本的な部分では私は良いと思う」と前向きに語った(出典:静岡朝日テレビ)。
一方、難波市長は、「参考になるのは広島のスタジアム(2024年開場の「エディオンピースウイング広島」)」と語り、その総事業費286億円のうち、国の補助金や企業と個人からの寄付金が約6割で、広島県と広島市の負担を合計約80億円にとどめたことに対し「上手におやりになりましたね」と評価した上で、官民連携で建設を進めたい考えを示した(出典:テレビ静岡)。
難波市長も鈴木知事も「民間資金の活用」という点では一致していることから、新スタジアム建設に伴う投資をいかに呼び込むかがこれからの課題となる。2氏ともに明言こそ避けているが、内心では清水のオーナー企業であり、約140社のグループ全体で総売上高5,310億円(2023年8月期)を誇る鈴与グループからの出資を待ち望んでいるのではないだろうか。街作りを主導する事業主体が地元企業であれば、自治体も市民も安心してエリアマネジメントを任せられるだろう。
そしてもう1つの課題は、「試合日以外の活用法」だ。IAIスタジアム日本平ではほぼ清水の“独占的使用”が許されていたが、街中スタジアムとなればそうもいかない。額の大小にかかわらず公金が投入されるのであれば、「税リーグ」などと言われないために市民のための場でなければならない。

海外の先進事例から学ぶ多目的活用
海外のサッカースタジアムでは、多目的利用が収益安定と地域貢献の鍵となっている。
例えば、フランスのリーグ・アンのASモナコの本拠地であるスタッド・ルイ・ドゥは、1985年に開場した収容人数約1万8,500人のスタジアムだが、サッカーのリーグ戦や国際試合だけでなく、陸上競技最高峰のリーグ戦「ダイヤモンドリーグ」やコンサートなどに活用されている。2024年、年間のイベント数はサッカー試合以外だけで約20回を超え、周辺のプールや体育館と複合化することで、日常的なスポーツ施設として機能している。
モナコ公国自体が狭小であるため、スタジアムの下層部分を多機能化し、観光資源としても活用。結果、年間来場者はサッカー観戦者以外で約10万人と推定されている(具体例として、1998年から2012年まで15年連続でUEFAスーパーカップが開催され、多くの収入を生んだ)。
このアプローチは、土地の制約が厳しい日本のサッカースタジアム建設の参考になる。モナコ公国が施設を運営し、ASモナコのオーナーのドミトリ・リボロフレフ氏が投資を主導したことで、非試合日の収益を上げた。
また、セルビアのベオグラードにあるスタディオン・ヴォジュドヴァツは、FKヴォジュドヴァツ(セルビア2部)のホームで、2013年に完成した収容人数約5,175人の小さいスタジアムだが、その特徴は4階建てショッピングセンターの屋上に建設されている点で、商業施設との一体型開発を実現している。ピッチは人工芝だが、試合日以外には屋上イベント等で活用され、2024年は試合日以外でもショッピングセンターの来客をスタジアムイベントに誘導することで、相乗効果を生んでいる。
この屋上ピッチの活用は、空間を垂直に活かす革新的な方法だ。民間デベロッパーとクラブの連携で建設され、ショッピングセンターの運営会社がスタジアムの維持費を一部負担。結果、クラブの負担を軽減し、地域住民の日常利用を促進している。
これらは、清水の新スタジアムが“駅前スタジアム”として計画される中で、大いに参考になるのではないだろうか。
難波市長は8月21日の会見で、新スタジアムを3万人規模とした上で、津波対策として「土地のかさ上げをする」と明言したが、そのかさ上げ部分を活用する方法が考えられる。新スタジアムは南海トラフ地震の際の防災拠点としても生かされる計画だが、そこにテナントを作り、鈴与の本社が入居するのも1つの手だ。
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