Jリーグ 湘南ベルマーレ

湘南ベルマーレから窺えた攻撃の改善。逆転勝利の鹿島アントラーズ戦を検証

福田翔生(左)田中聡(中)鈴木淳之介(右)写真:Getty Images

2024明治安田J1リーグ第32節の計10試合が、9月27日と28日に各地で行われた。湘南ベルマーレは28日、本拠地レモンガススタジアム平塚にて鹿島アントラーズと対戦。最終スコア3-2で勝利している。

今節の勝利により、J2リーグ降格圏の18位ジュビロ磐田との勝ち点差を3に広げた現16位湘南。磐田は湘南よりも消化試合数がひとつ少ないため、後者としては予断を許さない状況ではあるが、J1残留に向け貴重な勝ち点3を手にした(磐田31試合、湘南32試合消化)。

鹿島に2点を先取されながらも、逆転勝利にこぎつけた要因は何か。ここでは第32節鹿島戦を振り返るとともに、この点を論評していく。J1残留に向け湘南が改善すべき問題についても併せて言及したい。


湘南ベルマーレvs鹿島アントラーズ、先発メンバー

明確な狙いがあった鹿島の守備

この試合における両チームの基本布陣は、湘南が[3-1-4-2]で鹿島が[4-2-3-1]。鹿島は湘南の自陣でのパス回しの際に、FW鈴木優磨とMF名古新太郎(トップ下)が横並びとなる[4-4-2]の守備隊形へ移行。鈴木優磨と名古の2人で湘南3センターバックにプレスをかけ、ホームチームのパス回しを片方のサイドへ追いやろうとする意図が窺えた。

鹿島の守備の段取りはこれだけでなく、基本布陣[3-1-4-2]の湘南の中盤の底を務めるMF田中聡を、鈴木優磨が適宜捕捉する。これに加えトップ下の名古が湘南3センターバックにプレスをかけることで、湘南の中央突破を防ごうとしていた。


平岡大陽 写真:Getty Images

鹿島の守備を凌駕した湘南

キックオフ直後から、湘南はロングボールで鹿島のハイプレスの回避を試みる。これに加え平岡大陽と小野瀬康介の両MF(2インサイドハーフ)が自軍の最終ライン方面へ適宜降り、自陣後方からのパス回しをサポート。福田翔生と鈴木章斗の両FW(2トップ)も、鹿島の2ボランチと4バックの間でのパス受け取りを積極的に狙った。

ハイプレスでのボール奪取を狙ったことで、鹿島の最前線、中盤、最終ラインの3列がやや間延び。ゆえにボールが互いの陣地を行き来する目まぐるしい試合展開となり、これによって生まれたスペースを湘南が巧みに突けていた。湘南としては試合の主導権を握れていただけに、福田が前半8分に放ったシュートが鹿島GK早川友基に防がれたこと、そして田中聡の縦パスから生まれた前半14分のチャンスを平岡が物にできず、前半16分のMF鈴木雄斗のミドルシュートもゴールポストに阻まれたことが痛手となった。


田中聡 写真:Getty Images

未だに脆いセットプレーの守備

湘南は試合の主導権を握っていたにも関わらず、前半20分以降に2点を先取され窮地に陥る。同22分、鹿島のコーナーキックからDF濃野公人に先制ゴールを奪われた。

ここでは鹿島の長身DF関川郁万のマークを平岡が担っていたが、ペナルティスポット付近からニアサイド(ボールから近い方のサイド)へ走り込んだ関川に振り切られたうえ、ヘディングパスも許してしまっている。このラストパスを濃野に押し込まれてしまった。

湘南は今季セットプレー(※1)から多くの失点を喫しており、最終スコア2-3で敗れた8月21日の天皇杯4回戦(ガンバ大阪戦)、0-1で敗れた8月24日のJ1リーグ第28節(名古屋グランパス戦)でも相手コーナーキックから決勝ゴールを奪われている。天皇杯では後半31分にG大阪DF中谷進之介、名古屋戦の前半7分にはDF三國ケネディエブスのヘディングシュートを浴びており、これにより湘南は連敗を喫した。

また、同クラブはJ1第29節サガン鳥栖戦でも相手DF木村誠二にコーナーキックから同点ゴールを奪われている。セットプレーの守備の脆さは深刻だ。

湘南はゾーンディフェンス(※2)を主として相手コーナーキックに備えているが、鹿島戦を含む先述の失点シーンでは守備網の外側からゴール前へ侵入してくる相手選手を捕捉できていない。ゴール前で立ち止まった状態から守備をする湘南の選手と、勢いをつけてゴール前へ侵入してくる相手選手とでは、競り合いにおいて後者に分がある。これがゾーンディフェンスの難点であり、湘南は鹿島戦でもこの問題を克服できなかった。

「今の守備のやり方は変えずに、それを磨き上げるという方針か」。先述のG大阪戦終了後、筆者はミックスゾーンにて湘南MF田中聡へこのように問い、「そうですね。もっとボールにタイトに行ければ失点は減ると思います」と同選手は答えている。ゾーンディフェンスの練度を高めることを誓っていたが、シーズン終盤に差し掛かっても同じような失点を繰り返している事実をふまえると、選手個々の注意力不足にこの問題を帰結させるべきではないと筆者は考える。少なくともコーナーキックについては、守備の段取り自体を変えるべきだ。ニアポスト(ボールから近い方のゴールポスト)付近にクロスボール弾き返し要員をひとり立たせるとともに、ゴールエリアのライン上(ゴールラインと平行な線)にゾーンディフェンス要員を2人ほど立たせる。これに加え残りの選手をマンマーク守備にあてるというように、ゾーンディフェンスとマンツーマンディフェンス要員の割り当ての工夫は急務だ。

(※1)コーナーキックやフリーキックなど、試合再開に際しボールをセットして行うプレーのこと。(※2)各選手が自分の担当区域に入ってきた相手選手をマークする守備戦術。

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名前:今﨑新也
趣味:ピッツェリア巡り(ピッツァ・ナポレターナ大好き)
好きなチーム:イタリア代表
2015年に『サッカーキング』主催のフリーペーパー制作企画(短期講座)を受講。2016年10月以降はニュースサイト『theWORLD』での記事執筆、Jリーグの現地取材など、サッカーライターや編集者として実績を積む。少年時代に憧れた選手は、ドラガン・ストイコビッチと中田英寿。

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