
酒井宏樹(現オークランドFC)やフランス代表FWキリアン・エムバペ(現レアル・マドリード)の元チームメイトであるヴァレール・ジェルマン。2025シーズンにサンフレッチェ広島でプレーした後、2026年1月に現役引退したが、フランスメディア『Kampo』のインタビューで、広島移籍の舞台裏と、J1リーグへの率直な評価を語った。その言葉は、日本サッカーの現在地を問う一級資料だ。
事の発端は、マッカーサーFCでのシーズン途中だった。ジェルマンは代理人のファヒドに「オーストラリアでのシーズンが終わったら、帰国する前に経験としてアジアで4〜5ヶ月プレーしてみたい」と打ち明けた。するとファヒドが日本のクラブに連絡を取り、そのクラブ側から「7月まで待ちたくない。今すぐ(1月か2月に)欲しい」という即答が返ってきたという。
最初、彼は断った。オーストラリアでの生活への満足感、キャプテンの重責、そしてプレーオフ争いの真っ只中という状況。「途中で投げ出したくなかった」という言葉には、プロとしての矜持がにじむ。だが、複数試合の出場停止が確定し、リーグ戦の残りが6試合になった瞬間、天秤は傾いた。「この6試合のために、日本でフルシーズンを戦うという冒険を見逃していいのか? 7月に同じチャンスがある保証もない」。
そして彼はこう結論づけた。「最終的に、これが最初で最後のチャンスかもしれないと思い、少し利己的に考えた」。この一言は重い。キャプテンとしてチームに尽くしてきた男が、初めて自分の欲求を優先した瞬間の告白だ。「利己的」という言葉をあえて使った誠実さの裏に、それだけ日本行きへの衝動が強烈だったことが透けて見える。
肝心のJ1リーグの水準について、ジェルマンの評価は明快だった。「リーグアンの中位レベルは十分にある。毎試合3万から4万人のサポーターが入るスタジアムに戻り、本当の熱狂を感じた。スタッフが20〜30人いる、本当にプロフェッショナルな環境だった」。
リーグ・アン中位相当という言葉はお世辞ではない。マルセイユやモナコでプレーし、フランストップレベルを知り尽くした男の言葉である。アジアのリーグを「経験」として消費しに来た選手が、「本当のサッカーの国」と評した重みを、Jリーグ関係者は正面から受け止めるべきだろう。
文化的な衝撃についても、ジェルマンは赤裸々に語っている。「馬鹿げていると思われるかもしれませんが、横断歩道で信号が赤なら、赤なんです。午前2時で車が一台も通らなくても、日本人は待ちます。我慢できなくて渡るのはフランス人だけです!」。苦笑混じりのエピソードだが、その後の言葉に本質がある。「結局、私も青信号になるのを待つようになりました」。
日本への適応は、単なる慣れではなく、価値観の更新だった。帰国後にドイツで乗り継いだ際、列に割り込もうとするフランス人を見て「ああ、ヨーロッパに帰ってきたな」と感じたというくだりは、象徴的だ。数ヶ月の広島生活が、30年以上染みついたフランス人の感覚を書き換えていた。
「日本は本当に『共に生きる知恵』が根付いています」というジェルマンの言葉は、観光客の感想ではなく、チームメイトとロッカーを共にした者の証言だ。
引退後、代理人への転身に向けて始動したことも明かしているジェルマン。日本サッカーに対して好印象を抱いているだけに、今度は代理人として優良選手をJリーグへ送ることになりそうだ。
コメントランキング