
日本各地で、サッカー専用スタジアムの建設計画が暗礁に乗り上げている。要因のひとつとして挙げられるのが、Jリーグのクラブライセンス交付規則に定められた「スタジアム基準」だ。
原則としてJ1で1万5,000人以上、J2で1万人以上の収容人員数(芝生席は不可)を求めるほか、全席個席化、新設・大規模改修時は全観客席を屋根で覆うこと(B等級では3分の1以上)、ピッチは天然芝またはハイブリッド芝であることなどが義務付けられる。2023年12月19日のJリーグ理事会で一部緩和を認める例外規定が設けられたものの、自治体への財政負担の大きさと実際の動員実績との乖離から、計画が停滞しているケースは依然として多い。
ここでは、こうした現状を踏まえ、Jリーグのスタジアム基準を欧州5大リーグ(プレミアリーグ、セリエA、ブンデスリーガ、ラ・リーガ、リーグ・アン)と比較・検証する。収容人数や設備などの観点から各リーグの基準を整理し、Jリーグの規定が実態として著しく厳しいのかどうかを考察する。

Jリーグのスタジアム基準
Jリーグは2013シーズンからクラブライセンス制度を本格運用し、AFCクラブライセンス規則との整合性とプロリーグとしての品質向上を目的にスタジアム基準を定めた。Jリーグ規約第34条の「理想のスタジアム」を基礎とする2026年度用基準では、J1で1万5,000人以上・イス席1万席以上、J2で1万人以上・イス席8,000席以上の収容を求め、サッカー専用(陸上トラック禁止)、全席個席化、観客席の3分の1以上を覆う屋根(B等級)、平均1,500ルクス以上の照明、天然芝またはハイブリッド芝のピッチなどを義務付けている。
2023年12月の理事会では、ホームタウンの人口規模や増設可能性を考慮した上で5,000人以上全個席を認める例外規定が新設された(2024年度より適用)。ただし「理想のスタジアム」の4要件(アクセス、全席屋根、ビジネスラウンジ・大容量通信設備、サッカー専用)を満たすことが前提で、地方の中小クラブには依然として高いハードルだ。
基準と現実の乖離を象徴する事例が、J2ブラウブリッツ秋田のスタジアム問題だ。2025年11月の三者(市・クラブ・Jリーグ)非公開協議でJリーグ側が「志が低い」と発言したことが情報公開請求で明らかになり、秋田市の沼谷純市長は2026年1月8日の記者会見で「極めて常識がなさすぎる」と反発した。後の報道では発言の「切り取り」だったとも報じられたが、2025シーズンの平均観客動員が4,953人(J2・20チーム中17位)の同クラブに対し、J1基準の1万5,000人収容を前提とした議論が成り立つのかという本質的な問いは残ったままだ。

プレミアリーグのスタジアム基準
プレミアリーグ(イングランド)はUEFAスタジアム基準(カテゴリー4:最低8,000席以上)を基本とするが、リーグ独自の収容人数に関する最低基準は設けていない。必須とされているのは、1989年4月15日に発生し最終的に97名の犠牲者を出したヒルズボロの惨事を受けて設置された、スタジアムの安全性に関する調査報告書「テイラー・レポート」(1990年)に沿った安全・施設基準だ。この報告書の勧告に基づき、1994年から上位2部のクラブでゴール裏を含む全席座席化が義務付けられた。
イングランドでは、スタジアム建設はクラブが主導し、公的負担に頼らない民間投資によって進めるのが一般的だ。プレミアリーグでの収容人数の最低ラインは事実上なく、現に降格圏や小クラブには1万人台のスタジアムを本拠地とするクラブも存在する。

セリエAのスタジアム基準
セリエA(イタリア)ではUEFAのカテゴリー基準を適用しており、リーグ単独での厳格な最低収容人数の義務規定は設けていないが、1万2,000人程度が実質的な目安となっている。しかし多くのスタジアムが自治体所有であり、陸上競技のトラックを備えた兼用施設が今も多い。UEFA最高格付けに相当する水準のスタジアムは2025年時点で数えるほどしかなく、老朽化が深刻な課題だ。
2032年の欧州選手権(UEFA EURO 2032)はイタリアとトルコの共催が決定しており、スタジアム整備の動向が注目されている。現在、新スタジアム建設を公表しているのはASローマ、SSラツィオ(それぞれ単独で建設予定)、そしてミランとインテルが共同でサン・シーロ・スタジアムの建て替えを予定している案件などがある。ただし、いずれも欧州選手権の開催に間に合うかは不透明な情勢だ。いずれにせよ、これらは民設・民営で計画されており、公営の陸上競技場からの脱皮を図る点では、ようやく欧州のスタンダードに近づきつつあると言えるだろう。
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