
遅咲き選手の欧州移籍成功例
1994年、FW三浦知良(現福島ユナイテッド)は27歳でイタリア・セリエAのジェノアへ移籍した。ただし、ヴェルディ川崎からの期限付き移籍であり、ブラジルでの海外プレー経験も持っていた。25歳でヴェネツィアへ期限付き移籍した名波浩、31歳でオランダのユトレヒトへ期限付き移籍した藤田俊哉など、実力者でも短期間で帰国した例は少なくない。藤田については、クラブ側が残留を望みながらも、完全移籍に必要な移籍金を用意できなかったとされる。中村俊輔がレッジーナへ完全移籍したのは24歳。川島永嗣は27歳でベルギーのリールセSKへ完全移籍したが、GKというポジション特性もあり例外的なケースと見なされてきた。
こうした前例から、「25歳を超えた日本人フィールドプレーヤーが欧州の移籍市場に本格参入するのは難しい」との見方が長く存在してきた。
その中で、安藤の26歳での欧州初挑戦は注目に値する。類似例として挙げられるのが伊東純也だ。1993年3月9日生まれの伊東は、神奈川大学からJ2ヴァンフォーレ甲府でプロ入りし、柏レイソルを経て、2019年2月に25歳でベルギーのKRCヘンクへ移籍。2018年の期限付き移籍を経て完全移籍へ移行し、リーグ優勝に貢献した。2022年7月には29歳でフランス・リーグ・アンのスタッド・ランスへ完全移籍。2025年8月に32歳でヘンクへ復帰している。移籍金は約280万ユーロと報じられたが、これは欧州での実績を積んだ結果といえる。
もう一例が大橋祐紀だ。1996年7月27日生まれ。中央大学卒業後に湘南ベルマーレでプロ入りし、サンフレッチェ広島でブレーク。2024年7月、28歳でイングランド・チャンピオンシップのブラックバーン・ローバーズへ完全移籍した。開幕から得点を量産し、2桁得点を記録。クラブ月間MVPも受賞している。代表出場は2試合にとどまるが、J1での実績が評価された形だ。
これらのケースに共通するのは、大学を経てプロ入りし、Jリーグで確かな実績を積んだうえでピーク年齢に欧州へ挑戦している点である。伊東はスピード、大橋は決定力という明確な武器を持ち、即戦力として評価された。安藤もまた身体能力と対人守備を武器とする。年齢だけでは測れない「完成度」を基準とした移籍が、近年は現実味を帯びつつある。
新たなモデルケースとなる可能性
安藤の移籍が新たなモデルケースとなるかは、ブンデスリーガでのパフォーマンスにかかっている。日本人選手の欧州移籍は依然として10代から20代前半が主流だが、Jリーグの競技レベル向上と欧州クラブのスカウティング拡大により、J2・J3や大卒選手にも目が向けられつつある。コストパフォーマンスと即戦力性を兼ね備えた選手は、年齢にかかわらず評価対象となり始めている。
その参考例が遠藤航だ。1993年生まれの遠藤は2018年、25歳でベルギーのシント=トロイデンVVへ移籍。その後シュツットガルトを経て、2023年にはプレミアリーグのリバプールへ加入した。国内で実績を築き、段階的に評価を高めながらステップアップしたキャリアは、安藤の歩みと重なる部分がある。
もっとも、27歳での挑戦には即応性が求められる。安藤は2023年に右足肉離れを経験したが、それ以外に大きな故障歴はない。福岡在籍最終年の2025シーズンはリーグ戦36試合出場4得点と主力としてフル稼働した。まずはこの稼働率をブンデスリーガでも維持できるかが一つの基準となる。
190cmのフィジカルと対人強度が1部の舞台で通用すれば、「段階的昇格型」の欧州挑戦は現実的なキャリアパスとしてより説得力を帯びる。安藤の挑戦は、単なる個人の移籍にとどまらず、日本人選手の新たな進路を示す試金石ともなり得る。
安価な移籍金での流出を防ぐためには
遅咲き移籍の課題は移籍金の低さだ。安藤のケースでも、契約満了間近だったため、福岡の移籍金収入は安価だった可能性がある。これはJリーグ全体の契約戦略の見直しを促す問題でもある。欧州クラブが日本人選手を評価する背景には、「移籍金が比較的安い」という側面も含まれている。この状況が続けば、人材流出は加速しかねない。
欧州ではシーズン中でも活躍した選手との契約を見直し、複数年契約へ移行する例がある。スタジアムで契約延長が発表されることも珍しくない。一方、日本ではシーズンオフの契約更改が一般的だ。この慣行に拘泥すれば、有望な選手を低額で手放す事態は今後も起こり得る。
今後の展望として、安藤の活躍は後進の励みとなる。高校や大学で無名でも、プロで成長すれば欧州挑戦は可能であることを示した。岡崎城西高校や愛知学院大学での経験が基盤となったように、部活動の役割も大きい。将来的にこのモデルが定着すれば、日本人選手の選択肢はさらに広がるだろう。安藤の欧州での成功が、新たな道を切り開く契機となるか注目される。
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