Jリーグ 町田ゼルビア

黒田監督処分で揺れる町田ゼルビア:サイバー社は売却に動くのか

黒田剛監督 写真:アフロスポーツ

J1町田ゼルビアの黒田剛監督が、選手やスタッフへの暴言などの不適切言動を理由に、日本サッカー協会(JFA)から厳重注意処分と指導者研修の受講を課された。本件をめぐっては、2025年12月23日付でJリーグからけん責処分を受けており、2026年2月5日に開催されたJFA技術委員会では、その処分後にあらためて指導者ライセンスの適格性が再審査された。同日の取材に応じた木村康彦指導者養成ダイレクターは「もう一度適切な指導を行っていただくためのサポートを行っていく」と説明。ライセンス停止には至らなかったものの、協会として是正と再教育の必要性を示した形だ。

一連の問題に対し、親会社である株式会社サイバーエージェント(以下サイバー社)の藤田晋社長は一貫して黒田監督を擁護してきた。これに反する報道やSNS上の発信に対しても法的措置の可能性を示唆し、強い姿勢で対抗している。しかしJリーグファンの間では、黒田監督本人の責任だけでなく、起用を決断した藤田社長の“任命責任”を問う声も上がり始めている。

黒田監督は町田をJ屈指の強豪へと押し上げ、2025シーズンにはクラブ初タイトルとなる天皇杯優勝に導いた。11月22日に国立競技場で行われた決勝(対ヴィッセル神戸、3-1)の観客動員は3万1414人だった。一方、同会場で11月1日に開催されたYBCルヴァンカップ決勝(柏対広島、6万2466人)と比べると約半数にとどまる。町田は歴史の浅いクラブであり、サポーター基盤の拡大途上にあることは事実だが、東京をホームとしながら現状では町田市中心のローカルクラブにとどまっている現実も浮き彫りになった。

成長期にあるクラブにとって、イメージの問題は無視できない。ここでは、黒田監督の存在がサイバー社および藤田社長にとって“レピュテーションリスク”となり得るのか、そして将来的にクラブ売却という選択肢が浮上する可能性はあるのかを検証する。まず処分の詳細と経緯を整理し、次にサイバー社の運営姿勢を踏まえながら、あくまで“可能性”として経営判断の行方を考察していく。


不適切言動に加え口止めもしていた黒田監督

55歳の黒田監督の処分は、選手やスタッフへの暴言や強い叱責に加え、問題の外部化を抑えようとする口止め行為が認定されたことが理由だ。自身の指導に反するプレーをした選手を「造反者」と呼んだ発言や、コーチへの大声での叱責が不適切と判断されたが、クラブ側は当初、疑惑を事実無根と主張していた。

JFAの木村康彦指導者養成ダイレクターは「本人としても正すところは正していきたいと。改善に向けて前向きな姿勢を示されていました」と説明。ライセンスの降格や停止には至らず、黒田監督はJ1開幕戦やAFCチャンピオンズリーグエリート(ACLE)でも指揮を執っている。

当初、黒田監督は取材に「ノーコメント」とし、「あえてやる必要がないというクラブの判断なので。私は指示に従う」と強調。この姿勢や処分の軽さを巡り、サポーターやJリーグファンの間で不信が広がった。通報段階で契約解除と社長退任に踏み切ったアビスパ福岡の対応とは対照的と受け止められている。

2018年に町田の運営権を取得したサイバー社は、クラブをエンターテインメント事業の一環として位置付けてきた。2025年9月期の連結売上高は約8,740億円で、町田の年間運営費は約34億円規模とされる。スポーツ事業は全体の一部だが、クラブのイメージが毀損し本業に波及する局面となれば、投資の見直し、さらには売却という選択肢が浮上する可能性も否定できない。


黒田監督の言動はサイバー社のイメージを毀損するのか

黒田監督の問題が売却の引き金となり得るとすれば、その焦点はクラブのガバナンス対応にある。パワハラ疑惑報道に対し、クラブは当初「事実無根」と主張したが、Jリーグのけん責処分により不適切行為が認定され、説明との齟齬が生じた。東証プライム上場企業であるサイバー社にとって、ESG(環境・社会・ガバナンス)評価は無視できない指標であり、監督の言動が社会問題化すれば株価や企業評価への影響も懸念される。レピュテーション管理の観点から、クラブ売却が選択肢に浮上する可能性は否定できない。

藤田社長には過去にもサッカークラブ運営から撤退した経緯がある。2006年にJ2東京ヴェルディを運営する日本テレビフットボールクラブの株式を取得し副社長に就任したが、内部混乱や成績低迷の中で約2年で撤退。2019年には町田買収直後にクラブ名を「FC町田トウキョウ」へ変更すると発表し、サポーターの反発を受けて撤回した。

さらに、完全子会社サイゲームズは2015年から3シーズン半にわたりサガン鳥栖のユニフォームスポンサーを務め、年間5億円超を投じた。鳥栖はフェルナンド・トーレスを獲得するなど大型補強を行ったが、2018年限りでスポンサー撤退。その後クラブは経営難に直面し、2024シーズンにJ2降格となった。一方で同社は2017/18シーズンから9季にわたりユベントスのユニフォームスポンサーも務め、ブランド向上も図っている。

サイバー社の株価は2021年6月24日の上場来高値2,441円から下落し、足元では1,300円前後で推移している。2025年12月12日の定時株主総会では町田の中長期計画やスタジアム問題について質問が出たが、藤田社長は「2025年までの計画の延長線上でやっていく」と述べるにとどめ、専用スタジアム構想についても「難易度が高い」と慎重姿勢を示した。こうした状況の中で黒田監督問題が企業評価に影響すると判断されれば、売却という経営判断が浮上する可能性も理論上は考えられる。

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名前:寺島武志

趣味:サッカー観戦(Jリーグ、欧州5大リーグ、欧州CL・EL)、映画鑑賞、ドラマ考察、野球観戦(巨人ファン、高校野球、東京六大学野球)、サッカー観戦を伴う旅行、スポーツバー巡り、競馬
好きなチーム:Jリーグでは清水エスパルス、福島ユナイテッドFC、欧州では「銀河系軍団(ロス・ガラクティコス)」と呼ばれた2000-06頃のレアルマドリード、当時37歳のカルロ・アンチェロッティを新監督に迎え、エンリコ・キエーザ、エルナン・クレスポ、リリアン・テュラム、ジャンフランコ・ゾラ、ファビオ・カンナヴァーロ、ジャンルイジ・ブッフォンらを擁した1996-97のパルマ

新卒で、UFO・宇宙人・ネッシー・カッパが1面を飾る某スポーツ新聞社に入社し、約24年在籍。その間、池袋コミュニティ・カレッジ主催の「後藤健生のサッカーライター養成講座」を受講。独立後は、映画・ドラマのレビューサイトなど、数社で執筆。
1993年のクラブ創設時からの清水エスパルスサポーター。1995年2月、サンプドリアvsユベントスを生観戦し、欧州サッカーにもハマる。以降、毎年渡欧し、訪れたスタジアムは50以上。ワールドカップは1998年フランス大会、2002年日韓大会、2018年ロシア大会、2022年カタール大会を現地観戦。2018年、2022年は日本代表のラウンド16敗退を見届け、未だ日本代表がワールドカップで勝った試合をこの目で見たこと無し。
“サッカーは究極のエンタメ”を信条に、清濁併せ吞む気概も持ちつつ、読者の皆様の関心に応える記事をお届けしていきたいと考えております。

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