
2022年から第6代Jリーグチェアマンを務める野々村芳和氏は、2022年3月に元Jリーガーとして初めて同職に就任。2024年3月に再任され、任期は2026年3月の定時社員総会で満了を迎える。クラブ代表者や外部有識者で構成される「役員指名報酬委員会」の答申を受け、臨時理事会で次期候補者として承認されていることから、野々村氏が続投し、3期目に突入することはほぼ確実な情勢だ。3月24日に予定されている総会・理事会で正式決定される見通しとなっている。
野々村氏は就任以降、リーグの基盤強化と国際化を主要テーマに掲げ、2024年9月からは女子プロサッカーリーグであるWEリーグのチェア(理事長)も兼任している。ここでは、2期目で挙げた具体的成果を数字とともに検証する一方で、秋春制移行、雪国クラブへの支援、ハラスメント問題、スタジアム基準といった構造的課題を整理し、野々村体制が3期目において「どこまで変われるのか」、そして「何を変えなければならないのか」という本質的な問いに迫る。

野々村氏2期目で示された成果と、Jリーグ成長の実像
野々村氏の2期目を語るうえで、Jリーグ全60クラブによる地域貢献活動の拡大は、一定の成果として評価されるべきだろう。2025年に公開されたインタビューで、野々村氏は「サッカーの質を高めることが最大の焦点」と語り、育成と競争環境の整備を改革の中心に据えてきた。
元選手ならではの視点を生かし、クラブ単位の成長戦略とリーグ全体の価値向上を同時に進める方針は、事業面にも表れている。2025年度のJリーグ事業計画では、放映権料と協賛金の拡大を背景に、リーグ総収益を約300億円規模へ引き上げる見通しが示された。
象徴的な施策が、野々村氏主導で決定された「U-21 Jリーグ」創設である。東西2リーグ制・11クラブ参加でスタートする同大会は、欧州のユースリーグをモデルに、2026/27シーズンから本格始動する予定だ。若手選手の実戦機会を確保し、「育成」と「競争」を両立させる狙いは明確である。
また、2025シーズンのJリーグ総入場者数は約1,350万人と過去最多を更新し、リーグ全体の関心度が着実に高まっていることも数字で裏付けられた。
一方で、若手の欧州移籍が加速した結果、「Jリーグの空洞化」を懸念する声が出始めているのも事実だ。早期渡欧を果たしたものの、出場機会を得られず埋没するケースも増え、育成と市場価値向上のバランスは、今後の大きな課題として残る。
APT方針転換とレフェリング混乱が残した禍根
評価が分かれるのが、2025シーズン直前に打ち出されたアクチュアルプレーイングタイム(APT)向上方針である。「世界水準に近づける」という大義名分のもと、判定基準が実質的に変化し、危険な接触プレーが流される場面が目立った。
野々村氏自身は「判定基準は変えていない」と説明したが、現場の選手・監督、そしてファンから疑問の声が噴出。最終的に、元国際主審の佐藤隆治審判マネジャーや小林祐三フットボール本部企画戦略ダイレクターが謝罪に追い込まれた。
JFA審判委員会も、12月17日のレフェリーブリーフィングで「振れ幅が大きかった」と総括しており、トップが方針を掲げた以上、その影響と混乱に対する説明責任を果たしたとは言い難い。この一件は、野々村体制の意思決定と現場運用の乖離を象徴する出来事だった。
秋春制移行と「雪国クラブ支援」の現実
2026/27シーズンからの秋春制移行は、野々村氏の最大の政策決断と言える。2023年12月19日の理事会で正式決定され、欧州シーズンとの連動による国際競争力強化を目的に、8月開幕・5月閉幕へと移行する。
一方で、現場からの懸念は根強い。アルビレックス新潟は2023年8月のサポーターカンファレンスで、Jクラブ60クラブ中唯一、公式に反対を表明。冬季アウェー戦増加、長期キャンプ費用、移動負担など現実的問題を指摘した(FNNプライムオンライン)。
Jリーグは2023年11月の実行委員会で、施設整備や費用補填を含む「総額100億円規模」の支援案を非公式ながら提示。練習場エアドーム設置費の70%補填、ピッチヒーター導入などが示された。
しかし、2025年10月28日の理事会で決議された「Jリーグ降雪エリア施設整備助成金」は総額50億円にとどまり、対象12クラブに対する1クラブ上限は3億8,000万円。当初示された金額から半減したことで、「十分なのか」という疑念が噴出している。新潟側が求めた観客減少分の補填も明確な形では示されていない。
こうした混乱や対立は個別の問題として処理されがちだが、3期目を迎えるJリーグを俯瞰すると、それらが偶発的な事象ではなく、リーグ運営の構造そのものに根差した課題として連なっていることが見えてくる。
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