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バロンドールは誰が決めているのか? 毎年論争を呼ぶ世界最高の個人賞の裏側

バロンドール 写真:Getty Images

毎年10月、パリでの華やかな授賞式でスポットライトが1人の選手を照らし歓声が沸き起こる一方で、SNSでは「これでいいのか?」という声が飛び交う。それが「バロンドール(世界年間最優秀選手賞)」の現状だ。サッカー界の最高峰の個人賞として、世界中で議論の対象となる。

ここでは、バロンドールがどのように選ばれ、誰が投票し、なぜ毎年論争になるのかを、歴史や近年の事例を交えて紐解いていく。


サッカー記者のメモ帳 写真:Getty Images

バロンドールとは何か。誕生と変遷

バロンドールは1956年にフランスの老舗サッカー専門誌『フランス・フットボール』が創設したもの。当初は欧州出身の選手に限定されていたが、1995年から世界中の選手が対象となった。2010年から2015年まではFIFAと統合され「FIFAバロンドール」として共同開催されたが、2016年に再び『フランス・フットボール』の単独運営に戻り、FIFAは独自の「ザ・ベスト・FIFAフットボールアウォーズ」を立ち上げている(2020年は新型コロナウイルスの影響で中止)。

こうした制度変更の歴史が、「どこまで公平か」をめぐる議論の火種となってきた。


リオネル・メッシ 写真:Getty Images

誰が、どうやって決めているのか

バロンドールの選考を左右するのは、各国のジャーナリストによる投票だ。男子はFIFAランキング上位100か国から各1名、女子は上位50か国から各1名が選ばれる。各国のサッカージャーナリストが投票者として参加し、その選出と管理は『フランス・フットボール』が行う。

日本からは、著書多数のベテランジャーナリスト・田村修一氏が投票権を持っている。国や地域ごとに選出された記者が投票を行うため、世界的な多様性を保つ一方で、ナショナリズムや地域的な偏りが議論の的となることも少なくない。

投票システムはシンプルだ。主催者がまず30名の候補者リストを発表し、投票者はその中からトップ5を選ぶ。配点は1位6点、2位4点、3位3点、4位2点、5位1点で、合計得点の最も高い選手が受賞する。

投票期間は毎年8月下旬から9月上旬に実施され、授賞式は秋にパリで開催される。2025年は9月22日にシャトレ劇場で行われた。

評価基準は以下の4点に整理されている。

  1. シーズンを通じた個人のパフォーマンス(ゴールやアシストなど)
  2. 所属クラブや代表でのチーム貢献
  3. 技術的能力やフェアプレー精神を含む総合的評価
  4. 投票者が抱く「印象」や「影響力」

これらを総合的に判断し、前年8月から同年7月までのシーズンを対象期間として選出される。たとえば、2023年のリオネル・メッシは、アルゼンチン代表としてFIFAワールドカップ(W杯)カタール大会制覇を達成したことが最大の後押しとなった。


クリスティアーノ・ロナウド 写真:Getty Images

歴代受賞者の系譜と2強時代

現在の形となったバロンドールの歴代受賞者は以下の通りだ(※2010~2015年はFIFAとの統合期間)。

  • 2010年:リオネル・メッシ(バルセロナ/アルゼンチン代表)
  • 2011年:リオネル・メッシ(バルセロナ/アルゼンチン代表)
  • 2012年:リオネル・メッシ(バルセロナ/アルゼンチン代表)
  • 2013年:クリスティアーノ・ロナウド(レアル・マドリード/ポルトガル代表)
  • 2014年:クリスティアーノ・ロナウド(レアル・マドリード/ポルトガル代表)
  • 2015年:リオネル・メッシ(バルセロナ=アルゼンチン代表)
  • 2016年:クリスティアーノ・ロナウド(レアル・マドリード/ポルトガル代表)
  • 2017年:クリスティアーノ・ロナウド(レアル・マドリード/ポルトガル代表)
  • 2018年:ルカ・モドリッチ(レアル・マドリード/クロアチア代表)
  • 2019年:リオネル・メッシ(バルセロナ/アルゼンチン代表)
  • 2021年:リオネル・メッシ(バルセロナ/アルゼンチン代表)
  • 2022年:カリム・ベンゼマ(レアル・マドリード/フランス代表)
  • 2023年:リオネル・メッシ(パリ・サンジェルマン/アルゼンチン代表)
  • 2024年:ロドリ(マンチェスター・シティ/スペイン代表)
  • 2025年:ウスマン・デンベレ(パリ・サンジェルマン/フランス代表)

長年にわたり、リオネル・メッシとクリスティアーノ・ロナウドが受賞を分け合った「2強時代」が続いたが、それに終止符を打つ形で2018年に、当時レアル・マドリードのルカ・モドリッチが受賞。ロシアW杯での活躍などが評価された。近年の受賞者には、個人として能力と所属クラブや代表チームでの貢献度といった「個人と集団」双方での成功が求められることが分かる。

2020年代は、スターの多極化が進み、誰が頂点に立ってもおかしくない群雄割拠の時代へと突入している。

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名前:寺島武志

趣味:サッカー観戦(Jリーグ、欧州5大リーグ、欧州CL・EL)、映画鑑賞、ドラマ考察、野球観戦(巨人ファン、高校野球、東京六大学野球)、サッカー観戦を伴う旅行、スポーツバー巡り、競馬
好きなチーム:Jリーグでは清水エスパルス、福島ユナイテッドFC、欧州では「銀河系軍団(ロス・ガラクティコス)」と呼ばれた2000-06頃のレアルマドリード、当時37歳のカルロ・アンチェロッティを新監督に迎え、エンリコ・キエーザ、エルナン・クレスポ、リリアン・テュラム、ジャンフランコ・ゾラ、ファビオ・カンナヴァーロ、ジャンルイジ・ブッフォンらを擁した1996-97のパルマ

新卒で、UFO・宇宙人・ネッシー・カッパが1面を飾る某スポーツ新聞社に入社し、約24年在籍。その間、池袋コミュニティ・カレッジ主催の「後藤健生のサッカーライター養成講座」を受講。独立後は、映画・ドラマのレビューサイトなど、数社で執筆。
1993年のクラブ創設時からの清水エスパルスサポーター。1995年2月、サンプドリアvsユベントスを生観戦し、欧州サッカーにもハマる。以降、毎年渡欧し、訪れたスタジアムは50以上。ワールドカップは1998年フランス大会、2002年日韓大会、2018年ロシア大会、2022年カタール大会を現地観戦。2018年、2022年は日本代表のラウンド16敗退を見届け、未だ日本代表がワールドカップで勝った試合をこの目で見たこと無し。
“サッカーは究極のエンタメ”を信条に、清濁併せ吞む気概も持ちつつ、読者の皆様の関心に応える記事をお届けしていきたいと考えております。

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