
FIFAの見解と現実のギャップ
一方、セカンドオピニオンを禁止する契約条項を、FIFA(国際サッカー連盟)は認めていない。FIFAは選手の健康管理に関するガイドラインの中で、選手が自身のケガについてセカンドオピニオンを受ける権利を尊重すべきであるという見解を示している。これは、選手のフィジカル面とメンタル面の健康を最優先するという基本理念に基づくものだ。
しかし、これには強制力も罰則規定もない。欧州人権条約第8条(プライバシー権の保護)も壁となり、あくまで推奨事項に過ぎないため、クラブと選手の契約にまで介入することはできない。
その結果として、クラブと選手の力関係や契約交渉の過程で、選手のセカンドオピニオンを受ける権利が制限されてしまう状況が生まれてしまう。クラブは、莫大な移籍金や高額な年俸を支払って獲得した選手の資産価値を守ろうとし、一方で、選手は自身のキャリアを守るために、時としてクラブの方針と対立することになる。
冨安とアーセナルのケースも、この「選手の権利」と「クラブの方針」の間で対立があった可能性がある。そうでなければ、多額の移籍金を費やして獲得した選手をフリーで放出することなど有り得ないだろう。

冨安の今後の展望とキャリアへの影響
無所属状態の冨安は、現在は治療とリハビリに専念している。しかし、ケガを負っている身でありながら、ミラン(セリエA)やアイントラハト・フランクフルト(ブンデスリーガ)、ブライトン・アンド・ホーブ・アルビオン(プレミアリーグ)などが獲得に興味を示していると報じられている。
次の所属クラブ選びは、来年に迫ったFIFAワールドカップ(W杯)北中米大会に臨む日本代表に選出されるか否かにも直結してくる。日本代表にとっても冨安は守備の要であり、9月に行われたアメリカ遠征の2試合(メキシコ戦0-0、アメリカ戦0-2)を見ても、その穴の大きさを実感したファンは多いはずだ。
よって、クラブ選択は慎重に行われるだろう。単に条件面だけでなく、医療体制やケガの管理に対するクラブの姿勢、そして選手の意見を尊重する文化があるかどうかが重要な判断基準となるのではないだろうか。
例えば、ブンデスリーガのクラブは医療体制が充実していることで知られており、選手個々のリハビリやコンディション調整に一日の長がある。日本人選手も多いドイツであれば、冨安が安心してプレーに集中できる環境を見つけられる可能性もある。
冨安の代理人は「欧州残留を希望しており、医療体制の整ったクラブを優先させる」との意向を示していることが英メディアで伝えられているが、次にどのクラブと契約し、どのようなキャリアを歩むのかは、彼のケガの回復状況や移籍先クラブの考え方次第だ。この一件はサッカー選手が直面するキャリアの複雑さと、クラブとの間で生じる医療に関する問題の難しさを改めて浮き彫りにしたと言える。
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