
日本代表の主力でもあったDF冨安健洋が、2025年7月4日付けでアーセナルを退団した。無所属となった冨安は、DAZN『内田篤人のFOOTBALL TIME』(7月17日配信)に出演した際、その理由について「自分のリハビリに向き合うため」と語った。近年右ひざの軟骨損傷に悩まされてきた冨安は、2023年3月と2025年2月に手術を受けていた。
しかし、アーセナルは2021/22シーズンに移籍金2,300万ユーロ(約30億円)で冨安を獲得し、昨年には2026年まで契約延長をしていたことから、退団を巡っては様々な憶測が流れた。東京都2部リーグのシュワーボ東京監督兼オーナーにして、サッカーYouTuberのレオザフットボール(Leo the football)氏は、9月10日に自身のチャンネルで、「アーセナルのメディカル(医療)チームがセカンドオピニオンを認めなかったからではないか」と言及した。
ここでは、なぜこのような状況が生まれてしまったのかを深堀りしてみよう。レオ氏の言及の背景となる欧州ビッグクラブにおける選手の健康に関する契約慣行や、FIFA(国際サッカー連盟)の見解について、また、冨安の今後のキャリア展望についても考察する。

セカンドオピニオン禁止条項は欧州クラブの常識か?
欧州のビッグクラブでは契約の際、選手の肖像権やスポンサー契約、移籍条項など、さまざまな項目が細かく定められる。中には、選手の健康管理やケガの治療に関する条項も含まれるのが一般的だ。
その中、アーセナルを含む一部のビッグクラブでは、自前のメディカルチームによる診断と治療を原則とし、外部の医師によるセカンドオピニオンを受けることを事実上制限、あるいは禁止する契約を結ぶケースが存在するといわれている。
これはクラブ側からすれば、少数精鋭のメディカルスタッフが選手のコンディションを統一した基準で管理し、治療のプロセスを完全に把握することで、早期復帰や再発防止を図るという目的がある。例えば、異なる医師から複数の所見が出ることによって治療方針が定まらず、選手の復帰が遅れるリスクがあるという考え方だ。
また、例えばある選手が外部の医師に従って治療を行い、それがうまくいかなかった場合、クラブは責任の所在を明確にすることが難しくなるという側面もある。そのため、クラブは専属のメディカルチームを信頼し、その指示に従うことを契約に盛り込むことで、選手の管理を一元化しようとする。さらに情報漏洩防止という観点もある。
冨安がほのめかした不満
この契約条項が、特に冨安を苦しませ続けたのではないか。アーセナル移籍後の冨安は、負傷し、完治しないまま強行出場して再負傷する繰り返しだった。前出のレオ氏はアーセナルのメディカルチームに対し直接的な表現での批判は避けたが、「冨安と猛烈に相性が悪かった」という言葉で含みを持たせた。
双方合意の上での契約解除とされたが、その裏には、度重なる怪我とそれに伴う治療方針を巡るクラブとの意見の相違があったと思われる。アーセナルの公式発表では「互いの合意による終了」とのみ述べられ、冨安に施された医療の詳細は非公開のままだった。
冨安は退団直後のDAZNのインタビュー(7月17日)で「正直に言うと、ちょっと気持ちがもうここにあらずというか、“ここに俺の未来あるのかな”というような気持ちにはなっていた」と語り、メディカルチームへと思われる不満をほのめかした。
選手にとっては、自身のキャリアを左右する重要な決断である治療法について、複数の専門家の意見を聞き、納得した上で治療を進める権利を確保したいと考えるのは自然なことだ。特に、キャリアに影響を及ぼすような重傷の場合、選手の希望する医師や治療法を選択できることは、メンタルヘルスにも繋がる。
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