
全38試合の長丁場を戦い抜く明治安田J2リーグは、J1昇格を目指すクラブにとって過酷な舞台だ。J1からの降格組とJ3からの昇格組が同居するこのカテゴリーは、波乱も多く予測も難しい。しかし、過去にJ1昇格を果たしたクラブには、共通するいくつかの成功要素がある。
ここでは近年の昇格クラブを例に、「守備の完成度」「主力の固定と戦術の継続」「ホームでの勝利強さ」「若手選手の育成」という4つのポイントについて解説する。

昇格の基盤となる「守備の完成度」
J1昇格を目指す上で、「堅守」は欠かせない条件だ。2020シーズンに2位で昇格を勝ち取ったアビスパ福岡は、42試合でわずか29失点と驚異的な守備力を誇り、この年のJ2最少失点を記録している。1試合平均にすると0.69失点で、その安定感は際立っていた。コンパクトな守備ブロックと前線からの素早いプレッシングにより、セットプレーを含むあらゆる局面で安定感を発揮。数字が示す通り、この守備力こそがJ1昇格への最大の武器となった。
2021シーズンに優勝し昇格したジュビロ磐田も、守備の組織力向上が大きな要因だった。この年は19戦無敗を達成し、「守備の完成度」が数字にも表れている。ディフェンスラインの間合いや中盤との連動による補完、ゴール前での人数のかけ方まで徹底されており、その結果、セットプレー時を含めた守備の安定感が向上。「失点を最小限に抑える組織力」の構築が昇格に繋がっている。
守備力の高いクラブは「1失点以内に抑える試合」を積み重ねることができる。重要なのは「負けない力=守備の完成度」であり、これが昇格への土台を築くと言えるだろう。

主力固定と戦術継続が生み出すチームバランス
J1昇格クラブに共通する大きな特徴のひとつが、戦術を継続的に浸透させ、主力選手を固定してチームの軸を確立していることだ。J2は過密日程に加え、夏場は酷暑や移籍市場の影響で戦力が変動しやすい。その中で、主力の多くがケガやコンディション不良に陥ることなく出場し続けることは、極めて重要な要素となる。
2022シーズンに優勝し昇格したアルビレックス新潟は、当時、MF伊藤涼太郎(現シント・トロイデンVV)、MF三戸舜介(現スパルタ・ロッテルダム)、MF藤原奏哉ら主力陣がチームの土台を築いた。伊藤はシーズン全42試合に出場し、藤原も41試合に出場。当時の松橋力蔵監督から寄せられた信頼は絶大だった。監督と選手のこのような信頼関係が、才能を最大限に引き出す環境を生み出していたと言える。
また主力選手の固定は、選手同士の連携や理解度を深めるうえでも大きな効果をもたらす。攻守の連動性が高まり、相手に対して優位に立ちやすくなるからだ。磐田(2021年)や町田(2023年)も、主力11人の出場時間が多く、試合を重ねるごとにチームの完成度を高めていった。これは戦術の浸透に不可欠な要素であり、J2の長丁場では特に有効な戦略と言える。逆に、補強過多で序列が不明瞭になったり、戦術が選手主導で迷走したりすると、チームバランスは崩れやすい。そうしたクラブは、昇格争いの終盤で失速する傾向がある。
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