Jリーグ

「2024年問題」がJリーグのスタジアムアクセスに落とす暗い影を考察

FC東京 サポーター 写真:Getty Images

そもそもなぜ「2024年問題」が?

シャトルバスでのアクセスが主となっている多くのスタジアムは、「2024年問題」により運転手の確保が難しくなった。サッカー場へのシャトルバスに限らず、各地の路線バスも減便せざるを得ない状況を生んでいる。

そもそも論となるが、なぜバスやトラックなどの運転手の時間外労働に上限が設けられたのか。それは運転手の過労と思われる事故が頻発し、犠牲者が出たことがきっかけだ。

しかし、そのほとんどが長距離高速バスの事故だった。高速バスと路線バスの違いで、どれだけ運転手の疲労度が変わるのかは運転手でなければ分からないが、画一的に労働時間を制限したことで、スタジアムへのシャトルバスのみならず、路線バスの減便や廃線、修学旅行用のバス確保にまで支障が出てきている。都市部か否かに関係なく問題は起こり、特に人口が少なく高齢化率が高い地域では生活面でも不便を強いられている。

また、バス運転手の労働条件改善と同時に、人件費や運行コストも上昇。Jクラブやスタジアムを管理する自治体がこの費用を負担する場合、財政的な問題も出てくるだろう。特に地方クラブではアクセス改善のための予算を捻出することは難しい。

試合日でもシャトルバスの本数を増やすことができず、運行頻度が減少するケースも実際に出てきている。これにより、スタジアムへの到着が遅れたり、帰宅時の混雑が悪化するのだ。


サポーターの観戦意欲に影響

このアクセスの悪化は、サポーターの観戦意欲にも影響を及ぼしてくる。Jリーグを初観戦した観客が、試合終了後にシャトルバスに乗るため大行列に並ぶ羽目になれば、「また来てみたい」と思うだろうか。これはクラブにとって重要な収入源である観客動員数の減少につながりかねない問題だ。

もちろん「安全第一」を否定するつもりはないが、この「2024年問題」は針を逆に振り過ぎたせいで起きた。この規制によって、時間外手当が減ったバス運転手は賃金を押し下げられ、タクシーや物流業界に転職する人材が相次ぐという皮肉な状況を生み、さらなる人手不足が深刻化しているという。

2030年にはバス運転手が3万6,000人不足するという試算も出ている。「もっと働いて稼ぎたい」運転手と、「シャトルバスを増やして観客を呼び込みたい」Jクラブや、「スタジアムへの足を便利にしてほしい」ファンの思いを阻んでいるのが、「2024年問題」がもたらした結果とはいえないだろうか。

ここ数年に竣工されたサッカー専用スタジアムの多くは鉄道駅近くにあり、バス要らずの便利さを誇るが、そんな恵まれたクラブばかりではない。

特に2002年の日韓W杯や、国体のために建設されたスタジアムは市街地から離れた郊外にあることが多く、バスによる来場が前提であることも多い。一部クラブは、タクシー会社やライドシェアサービスとの提携を進めることで、バス以外の選択肢を提供しようと模索しているが、それでも限界があるだろう。

バス業界の働き方改革というポジティブな目的から生まれたはずの「2024年問題」は、Jリーグのスタジアムアクセスはじめ、路線バスに頼る地方都市の交通網を脆弱にさせる新たな課題を浮き彫りにした。クラブや自治体がこの問題にどう対応し、またスタジアム来場者の声をどう反映させていくかが、今後の観客動員やリーグ全体の発展に影響を与えるだろう。特に地方クラブにとっては、限られたリソースの中でアクセスの利便性とコストのバランスを取ることが喫緊の課題となっている。

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名前:寺島武志

趣味:サッカー観戦(Jリーグ、欧州5大リーグ、欧州CL・EL)、映画鑑賞、ドラマ考察、野球観戦(巨人ファン、高校野球、東京六大学野球)、サッカー観戦を伴う旅行、スポーツバー巡り、競馬
好きなチーム:Jリーグでは清水エスパルス、福島ユナイテッドFC、欧州では「銀河系軍団(ロス・ガラクティコス)」と呼ばれた2000-06頃のレアルマドリード、当時37歳のカルロ・アンチェロッティを新監督に迎え、エンリコ・キエーザ、エルナン・クレスポ、リリアン・テュラム、ジャンフランコ・ゾラ、ファビオ・カンナヴァーロ、ジャンルイジ・ブッフォンらを擁した1996-97のパルマ

新卒で、UFO・宇宙人・ネッシー・カッパが1面を飾る某スポーツ新聞社に入社し、約24年在籍。その間、池袋コミュニティ・カレッジ主催の「後藤健生のサッカーライター養成講座」を受講。独立後は、映画・ドラマのレビューサイトなど、数社で執筆。
1993年のクラブ創設時からの清水エスパルスサポーター。1995年2月、サンプドリアvsユベントスを生観戦し、欧州サッカーにもハマる。以降、毎年渡欧し、訪れたスタジアムは50以上。ワールドカップは1998年フランス大会、2002年日韓大会、2018年ロシア大会、2022年カタール大会を現地観戦。2018年、2022年は日本代表のラウンド16敗退を見届け、未だ日本代表がワールドカップで勝った試合をこの目で見たこと無し。
“サッカーは究極のエンタメ”を信条に、清濁併せ吞む気概も持ちつつ、読者の皆様の関心に応える記事をお届けしていきたいと考えております。

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