
イギリス、EU離脱による変化
一方で、合法的な税金対策も存在する。例えば、選手が自身の肖像権を管理する会社を設立し、その会社を通すことで、個人所得税率よりも低い法人税率の適用を受けるケースがある。
また、クラブ側もあらゆる税務対策を駆使している。選手の移籍金を一括で支払うのではなく分割払いにすることで課税所得を平準化する手法が用いられている。
イギリスが2020年にEUから離脱(ブレグジット)したことで、EU内選手の獲得が厳しくなった。それまでEU内選手の獲得は比較的容易だったが、ブレグジット後は就労ビザの取得が必要となり、特に若手有望選手の獲得が難しくなった。
また、EU域内でのVAT還付の仕組みが変更されたことで、クラブの海外遠征や国際大会参加時のコストも増加。さらに、ポンド安の影響で海外選手の獲得コストが上昇し、クラブの財務に追加的な負担となっている。
これらの変化に対応するため、プレミアリーグのクラブは、国内若手の育成強化、南米やアフリカ、アジアなどEU外からの選手獲得、財務戦略の見直しと経費削減を行っている一方で、チケット代が高騰し、「もはやプレミアリーグのスタジアムに入れるのはお金持ちと観光客だけ」と揶揄されるまでになってしまった。
肥大化を続ける欧州サッカー界と税務当局のせめぎ合いは、今もってなお続いており、これからも続くだろう。

日本とブラジル間の租税条約
Jリーグでは、外国籍選手の出身地ナンバーワンは今も昔もブラジルだ。Jの助っ人の約6割がブラジル人選手といわれている。最も大きな理由は、日本とブラジル間の租税条約の内容にある。
ブラジルのクラブから日本のクラブへ選手が移籍した場合、日本のクラブからブラジルのクラブへ移籍金の支払いが行なわれる。当然20%の税がかかると思われるが、日本とブラジルの租税条約ではサッカー選手の輸出入(移籍金)が免税措置の対象項目となっているのだ。
この条約は二重課税を防ぐためのもので、ブラジル人選手は軽減税率や一部免税措置の対象となる。そのため、租税条約の結ばれていない国でプレーするよりも日本でプレーする方がブラジル人選手にとってメリットは大きい。
仮に100万ドルの移籍金がかかった場合、一旦は約125万ドルを支払うのだが、税として上乗せされた約25万ドルは後に還付される。また、ブラジル人選手が受け取る(クラブが支払う)年俸も軽減税率の対象となり、Jクラブにとってもメリットがある。
租税条約が適用されるのは、ブラジルのほか1、2か国しかない。EU圏選手やアルゼンチン人選手、韓国人選手がJリーグに来てもこの免税の対象にはならない。
ブラジルにはプロサッカー選手が1万人以上いるとされ、年間に800人以上が海外に移籍しているという。ブラジルでは契約書があっても給与遅配など日常茶飯事。一方、日本ではそうしたことはほぼ皆無だ。さらに入金日が土日や祝祭日だった場合、その振り込みが前倒しされることにブラジル人選手は驚くという。
加えて、ブラジル人選手の所得税は自国内では基本27.5%だが、日本に来ることでその負担が軽くなる。治安の良さも相まって、日本からのオファーを待ち、移籍が叶えば家族揃って、日本での快適な生活を送ることを望むのは自然な成り行きだろう。
一時期は中国スーパーリーグのマネーゲームに押され気味だったJリーグだが、日本の住環境や日本人の信用度、ホスピタリティーの点を勘案し、日本を選ぶブラジル人選手も少なくないのだ。

オランダ、トルコの税金面の特徴
逆に、近年日本人選手が増えているオランダの所得税は36.5~52%の累進課税になっている。しかし外国からの労働者の受け入れを積極的に行っている関係で、サッカー選手についても一定期間、収入の30%部分を免税にする制度がある。いわゆる「30%ルーリング」という。
このルールの適用には、過去2年間において、オランダ国境から150km以内で16か月以上就労していないことなどが条件だ。よって国境を接しているドイツやベルギーのチームにいた選手に対しては適用されないこともある。しかしこの「30%ルーリング」も縮小傾向にあり、先行きは不透明だ。
また、かつて日本代表DF長友佑都(ガラタサライ/2018-2020)や元日本代表MF香川真司(ベシクタシュ/2019)がプレーしたトルコ1部リーグのスュペル・リグ(現在は元U-23日本代表MF松木玖生がギョズテペSKでプレー)。
トルコの所得税率は15~35%と他の欧州諸国と比較すると若干低めだが、VATは18%と他のヨーロッパ諸国とほぼ同じだ。そもそもトルコはEU加盟国ではなく、国土の97%がアジアにあり、人口7,000万人の大半がイスラム教徒だが、サッカーではUEFA(欧州サッカー連盟)に加盟している。
トルコでプレーするサッカー選手の税金面で特徴的なのは、手取り保証契約が多い点だ。選手は手取り額が保証され、税金はクラブが立て替え払いし、手取り額から報酬総額を逆算する「グロスアップ方式」が採用されているケースが多い。
このように、サッカー界と税金は複雑に絡み合っている。脱税で検挙される選手が多いケースは、法律の立て付けと運用面での解釈の違いによるものがほとんどだ。金銭面を専門家に任せていても、こうした落とし穴にハマるケースもある。
それでもサッカー選手が高額納税者であることは変わりない。「お金」や「税金」という視点からサッカー界を覗くと、また違った光景が見られるかもしれない。
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