
欧州、APTはあくまで結果論
欧州では、試合が途切れることも戦術の一部として受け入れられる傾向がある。例えば、セリエAでは選手が倒れて時間を稼ぐタイムマネジメントも伝統とされ、プレミアリーグでは激しいファウルも試合の魅力と見られている。
例えば、3月23日に開催されたUEFAネーションズリーグ準々決勝のドイツ代表対イタリア代表の第2戦(ジグナル・イドゥナ・パルク/3-3で引き分け、ドイツが2戦合計スコアを5-4として準決勝に進出)。
前半36分にドイツがコーナーキックから2点目を奪った場面で、ボールボーイを務めた15歳のドイツ人少年ノエル・アーバニアックさんは、DFと戦術面を擦り合わせるために一瞬ゴールを空けていたイタリア代表GKジャンルイジ・ドンナルンマの隙を突き、すかさずドイツ代表MFジョシュア・キミッヒにボールを渡しクイックリスタート。MFジャマル・ムシアラのゴールに繋げた。
アーバニアックさんはこの試合で初めてボールボーイを務めたというが、その働きはドイツ国中で称賛された。その機転も大したものだが、APTを意識していたドイツ代表イレブンの集中力の賜物ともいえる得点だ。
また、バルセロナ(2008-2012)、バイエルン・ミュンヘン(2013-2016)を経て、現在マンチェスター・シティ(2016-)を率いる名将ジョゼップ・グアルディオラ監督は、よくピッチサイドにいるボールボーイに声を掛け、素早くボールを渡しリスタートを促すよう“指導”する姿を見せている。
そして現役最後のバイエルン在籍時代にその姿に感化された元スペイン代表MFシャビ・アロンソ氏(2017年引退)は、現在、監督を務めるバイエル・レバークーゼンでのホームゲームにおいて、対戦相手に休む暇を与えず、APTを増やす目的でボールボーイを増やすという試みを行っているという。
しかし欧州5大リーグともなれば、メディアやファンの関心事は、スター選手のゴール数やパフォーマンスであり、APTはあくまで結果論として扱われている。それを逆利用するような戦術や指揮官もいるが、あくまで“例外”だ。

Jリーグ、APTを増やすことが目的化
対してJリーグは、その成長をアピールする目的でAPTを可視化し、発信することで試合の質を担保しようとしている。結果、APTを増やすことが目的化してしまい、ファウル基準の曖昧さを生み出すという本末転倒な現状を生んでしまっている。
JリーグにはJリーグの良さがあったはずだが、欧州に近付くための目標としてAPTを重視したことで、逆にスタイルが確立されていない“発展途上”であることが詳らかになるという皮肉な状態となっている。
Jリーグの2023シーズンの平均APTは約55~58分だったが、以降は増加傾向にある。これは審判の質向上や、選手のフィットネス面の向上によるものだ。ファウル云々の話ではない。
欧州5大リーグといってもAPTについては国ごとに異なり、プレミアリーグで50~55分、ラ・リーガで55~60分、ブンデスリーガで53~57分程度とバラつきがある。特にプレミアリーグは激しい展開で笛が吹かれる場面が多く、APTが短めになる傾向がある。
JリーグがAPTに注目するのは、試合の質と流動性を高め、国際競争力をつけるための戦略的な選択だった。しかし欧州5大リーグでは、それぞれが既に確立されたスタイルや優先事項(インテンシティ、戦術、個人能力)があるため、APTはあくまで“参考程度”の指標に留まっている。
JリーグがAPTを強調する姿勢は、成長過程にあるリーグならではの特徴であり、欧州とのギャップを埋める1つの手段に過ぎない。APTが試合の質を決めるというのはあまりにも近視眼的であり、そこに囚われるのは目的と手段を取り違えていると言わざるを得ない。APTを重視することを全否定まではしないが、選手別あるいはチーム別の走行距離や戦術の洗練度となどのバランスが今後の課題と言えよう。
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