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ルール改正の度に強まるゴールキーパー受難の歴史。今度はピッチクロック?

鈴木彩艶 写真:Getty Images

国際サッカー評議会(IFAB)は3月1日に年次総会を開催。2025/26シーズンから発効される競技規則中、GK(ゴールキーパー)が6秒以上手でボールを保持した場合に相手に間接フリーキックが与えられる「6秒ルール」について、時間制限を8秒に延長するとともにこれまでよりも厳格に計測し、違反した場合は相手チームのCK(コーナーキック)で再開する改正点を承認した。早ければ、アメリカで開催される6月14日開幕のFIFAクラブワールドカップから適用されるという。

これまでは「6秒ルール」を主審が厳格に計測することは少なかった。筆者も数多くの試合を観戦しているが、このルールが適用された場面に遭遇したのはただの1度だけだ。しかもJリーグ創設間もないはるか昔のことで、選手はもちろん観客も「今の何?」といった微妙な空気に支配されたことだけは覚えている。

IFABは、アクチュアルプレーイングタイム(APT)増加の一環として、新ルールの試験導入を2024年7月から実施していた。GKがボールを持つことで時間が浪費されている現状を踏まえ、一部の国の下部リーグで制限時間を8秒に増加させた上でこれを厳格に計測し、8秒を超えた場合は相手のCKかペナルティーマークの延長線上からのスローインでの再開とされる。テストは効果があったと結論付けたIFABは、新競技規則から「8秒ルール」に変更するとともに再開方法はCKとすることを正式決定したのである。

このルール変更に際し、主審は残り5秒から片手を挙げつつ指でカウントダウンする方式が採用されるという。まるでプロレスのレフェリーが行う反則カウントのようだ。メジャーリーグベースボール(MLB)が試合時間短縮のために採用している「ピッチクロック」にも似ている。ここではルール変更の度に不利益を被り続ける、GKの受難の歴史について考察していきたい。


フランク・モス 写真:Getty Images

1992年の「バックパスルール」の変更

信じられないかも知れないが、サッカー黎明期の1882年に結成されたIFABは、1912年までGKがピッチ上の自陣全体で手を使うことを許していた。フィールドプレーヤーとのバランスを取るため、このルールが改訂され、手を使える範囲がペナルティエリア内に限定された結果、GKの守備範囲が大幅に狭められている。DFの重要性が増し「守備戦術」が生まれる契機となった。

そしておそらくGKにとって最も劇的な影響を及ぼしたルール変更が、1992年の「バックパスルール」の変更だろう。それまではリードしている展開ともなれば、勝っているチームが足でGKにボールを戻し、GKが手で拾って時間を稼ぐことが当然のように行われており、サッカーの魅力を削ぐとして問題視されていた。これを解消するため、IFABは「味方から意図的に足で蹴られたボールをGKが手で扱うことを禁止する」とルールを変更した。

これにより、GKに足元の技術が求められるようになり、それまで手で対応していた状況で足を使わざるを得なくなった。足元の技術に問題のあるGKは、ミスが即失点に繋がるリスクが高まり、徐々に淘汰され、加えて時間稼ぎも難しくなったことで、DFとの連携がより重要になった。


鈴木彩艶(左)ストラヒニャ・パヴロビッチ(右)写真:Getty Images

1997年に廃止された「キーパーチャージ」

1997年に廃止された「キーパーチャージ」もGK泣かせのルール変更といえよう。フィールドプレーヤーによるゴールエリア内でのGKへの過度な接触を禁止する「キーパーチャージ」が廃止され、GKに対してもフィールドプレーヤーと同じ基準での競り合いが認められるようになった。

これにより、GKがボールをセーブ、あるいはキャッチする際に相手からの激しいチャージを受ける。失点のリスクが高まると同時に、負傷するGKが続出する結果を招いているのも事実だ。

2000年には、前述した「6秒ルール」が明文化された。GKがボールを手で保持できる時間を「6秒以内」に制限するもので、それまでは「4歩まで歩くことが可能」という曖昧な基準があったが、時間稼ぎを防ぐためのルールとして明確な秒数が設けられた。

これにより、GKはボールを手にした瞬間に素早くプレーを再開する必要に迫られる。特に試合終盤では、6秒を超えると間接フリーキックが相手に与えられるため、プレッシャーが増大することになるはずだった。しかし実際には、このルールが厳格に適用されるケースは少なかった。

近年では、ディフェンスラインが高いことも一般的で、GKにもフィールドプレーヤー並みの足元の技術も求められているだけではなく、広い視野と戦術的判断力が不可欠となっている。

これらのルール変更は、時間稼ぎの防止やゲームのスピードアップなどを目的とし、全体としてはサッカーの魅力を高めたかも知れない。しかしながらGKにとっては窮屈なプレーが求められ、さらに足元の技術における要求の増大、負傷するリスクの増加という形で不利益を被っている。特にバックパスルールの改正以降、GKは単なる「ゴールを守る人」から「攻撃の起点」としての役割も担うようになり、ポジションの難易度が飛躍的に上昇した。

歴史を振り返ると、GKはルール変更のたびに新たな挑戦に直面し、そのたびに進化を遂げてきたと言えるだろう。現代の一流GKは卓越した足技と判断力を備えた選手が多く、ルール変更がGKの役割を多様化させた一面もある。

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名前:寺島武志

趣味:サッカー観戦(Jリーグ、欧州5大リーグ、欧州CL・EL)、映画鑑賞、ドラマ考察、野球観戦(巨人ファン、高校野球、東京六大学野球)、サッカー観戦を伴う旅行、スポーツバー巡り、競馬
好きなチーム:Jリーグでは清水エスパルス、福島ユナイテッドFC、欧州では「銀河系軍団(ロス・ガラクティコス)」と呼ばれた2000-06頃のレアルマドリード、当時37歳のカルロ・アンチェロッティを新監督に迎え、エンリコ・キエーザ、エルナン・クレスポ、リリアン・テュラム、ジャンフランコ・ゾラ、ファビオ・カンナヴァーロ、ジャンルイジ・ブッフォンらを擁した1996-97のパルマ、現在のお気に入りはシャビ・アロンソ率いるバイヤー・レバークーゼン

新卒で、UFO・宇宙人・ネッシー・カッパが1面を飾る某スポーツ新聞社に入社し、約24年在籍。その間、池袋コミュニティ・カレッジ主催の「後藤健生のサッカーライター養成講座」を受講。独立後は、映画・ドラマのレビューサイトなど、数社で執筆。
1993年のクラブ創設時からの清水エスパルスサポーター。1995年2月、サンプドリアvsユベントスを生観戦し、欧州サッカーにもハマる。以降、毎年渡欧し、訪れたスタジアムは50以上。ワールドカップは1998年フランス大会、2002年日韓大会、2018年ロシア大会、2022年カタール大会を現地観戦。2018年、2022年は日本代表のラウンド16敗退を見届け、未だ日本代表がワールドカップで勝った試合をこの目で見たこと無し。
“サッカーは究極のエンタメ”を信条に、清濁併せ吞む気概も持ちつつ、読者の皆様の関心に応える記事をお届けしていきたいと考えております。

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