Jリーグ 浦和レッズ

埼スタでのクルド人騒動からJクラブが学ぶべきこととは

浦和レッズ 写真:Getty Images

明治安田J1リーグ第4節の浦和レッズ対柏レイソル(3月2日/埼玉スタジアム2002)。試合は柏が2-0で制し2022年の第2節以来1099日ぶりに首位に浮上した一方、浦和は未だ勝利がなく2分け2敗となり19位に転落したこの一戦。スタンドではある騒動が起きていた。

埼玉県川口市に住むクルド人難民のサッカーチーム「FCクルド」のメンバー20人が、チームカラーのシャツを着用し、浦和サポーターエリアの北ゴール裏自由席で「クルド」と書かれた旗を掲げようとした。旗などの掲示については、事前にクラブ側に申請して許可を取るというのがJリーグの統一ルールだが、このグループはこれを無視。浦和の運営担当が使用できない旨を再三にわたって伝えたものの聞き入れず、逆ギレした果てに「クルド人を差別するのか」「差別、差別」などと騒いだという。

ゴール裏が騒然となる中、浦和の運営担当は、本来は自由席券では入れないメインスタンドの指定席を20席用意した上で移動を頼んだが、グループはこの提案も拒否。アウェイ側自由席への移動も拒み、観戦せずに「ありがとう浦和レッズ」「人種差別チーム」などといった暴言を吐きながら退場したという。

その後、グループの子息と思われる子ども9人が、前半30分頃に再入場を希望したため、浦和の運営担当はメインアッパー指定席に案内し、子どもたちは試合終了まで観戦した。


クルド人 写真:Getty Images

多くの来日クルド人の状況

元々はトルコの少数民族であるクルド人。「祖国を持たない世界最大の民族」とも呼ばれている。トルコ東部のジズレを中心に生活していたが、2015年からトルコ軍が非合法武装組織「クルド労働者党(PKK)」の掃討作戦を行い、市民も犠牲になったことで避難を余儀なくされた。

この一部は日本に流れ着き、いつしか埼玉県川口市や蕨市周辺に集まるようになった。特に蕨市には「ワラビスタン」と呼ばれるクルド人街を築き、埼玉県南部だけで、難民認定申請中の仮放免者と不法滞在者含め2,000人以上が暮らしていると言われている。

来日したクルド人の多くは、難民認定申請をすることで一時的に日本での居住が認められているのだが、日本政府は難民を受け入れる法整備が整っていないため、その身分は“宙ぶらりん”の状態を強いられている。

本来であれば、政府が彼らに寄り添い市民権を与え、納税義務を課した上で住民サービスを提供すべきなのだが、国にも自治体にもそうした動きは見られない。“棄民”扱いされた彼らは一部が不良化し、日本の法律やモラルを無視し、ゴミの不法投棄や騒音、迷惑駐車などで苦情が自治体に相次いでいるほか、無免許でのひき逃げや性的暴行などの事件も起こしている。


サッカーボール 写真:Getty Images

不遇な状況にある民族同士エールも

現在、ジズレにおけるトルコ軍によるクルド人迫害は小康状態にあり、街も平穏を取り戻しつつあるという。しかしながら、トルコに強制送還されれば迫害を受ける可能性がある中で、平和な日本での生活を選び、根を降ろしたクルド人が仲間を来日させ、ネズミ算式にその数を増やしているようだ。恐らく彼らはどれだけ説得されても日本での生活を捨て、死の恐怖を抱えながらトルコに戻ろうとはしないだろう。

埼玉県草加市に本社を置く株式会社小川不動産のホームページを覗くと、川口市について「埼玉県内で住みたくない街ランキング」で2位となった株式会社コレクの調査結果と、「埼玉県内で最も刑法犯認知件数が多い」という綜合警備保障株式会社(ALSOK)の調査結果を引用した上で、川口市一部地域の地価下落の原因をクルド人流入による治安の悪化にあると結論付けている。

そんなクルド人だが、不良ばかりではなかった。あえて過去形にしたのは、今回問題を起こした「FCクルド」は先月、群馬県に多いミャンマーのイスラム教徒少数民族のロヒンギャとの交流サッカー大会を開催し、不遇な状況にある民族同士エールを送り合い、心温まるニュースとして広く報じられた。これが2月9日の出来事であり、たった1か月の間で“変節”したとはとても考えられない。

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名前:寺島武志

趣味:サッカー観戦(Jリーグ、欧州5大リーグ、欧州CL・EL)、映画鑑賞、ドラマ考察、野球観戦(巨人ファン、高校野球、東京六大学野球)、サッカー観戦を伴う旅行、スポーツバー巡り、競馬
好きなチーム:Jリーグでは清水エスパルス、福島ユナイテッドFC、欧州では「銀河系軍団(ロス・ガラクティコス)」と呼ばれた2000-06頃のレアルマドリード、当時37歳のカルロ・アンチェロッティを新監督に迎え、エンリコ・キエーザ、エルナン・クレスポ、リリアン・テュラム、ジャンフランコ・ゾラ、ファビオ・カンナヴァーロ、ジャンルイジ・ブッフォンらを擁した1996-97のパルマ、現在のお気に入りはシャビ・アロンソ率いるバイヤー・レバークーゼン

新卒で、UFO・宇宙人・ネッシー・カッパが1面を飾る某スポーツ新聞社に入社し、約24年在籍。その間、池袋コミュニティ・カレッジ主催の「後藤健生のサッカーライター養成講座」を受講。独立後は、映画・ドラマのレビューサイトなど、数社で執筆。
1993年のクラブ創設時からの清水エスパルスサポーター。1995年2月、サンプドリアvsユベントスを生観戦し、欧州サッカーにもハマる。以降、毎年渡欧し、訪れたスタジアムは50以上。ワールドカップは1998年フランス大会、2002年日韓大会、2018年ロシア大会、2022年カタール大会を現地観戦。2018年、2022年は日本代表のラウンド16敗退を見届け、未だ日本代表がワールドカップで勝った試合をこの目で見たこと無し。
“サッカーは究極のエンタメ”を信条に、清濁併せ吞む気概も持ちつつ、読者の皆様の関心に応える記事をお届けしていきたいと考えております。

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