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Jリーグ観客ガイドラインの線引きはどこにあるか。中指立て無期限入場禁止

Jリーグ 写真:Getty Images

一方で、YouTube撮影はOKに

一方で、Jリーグ側が緩めたルールも存在する。Jリーグは2022シーズンに「Jリーグ公式試合における写真・動画のSNSおよびインターネット上での使用ガイドラインについて」というリリースを出し、それまで禁止していた試合会場で撮影した写真や動画のSNS投稿を認め、試合シーンや大型ビジョンを写さないという条件付きながら、YouTube撮影も認めたのだ。

これによって、GoPro(アクションカメラ)を片手に観客席を回るサッカー系YouTuberが続出し収益を得ている。このルール運用でも、再生回数に応じた収益を認めた上で「クラブに対して愛の無い投稿は禁止」という非常に曖昧な線引きをしている。

中指を立てる行為は「ファックサイン」と呼ばれる米国由来のものだ。元々は「侮辱」というよりも「挑発」の意味合いが強いジェスチャーで、悪役のプロレスラーが対戦相手や観客に向けて行われることも多い(テレビ中継ではモザイク処理をかけられるのが一般的)。日本に上陸したのは1980年代で、テレビアニメの『ドラゴンボールZ』や『ジョジョの奇妙な冒険』などの作中でも描かれている。所詮は海外の真似事でしかないのだ。

これが例えば親指であれば、日本や欧米各国であれば「サムズアップ」と呼ばれ、良い意味で使用されるが、中東や中央アジア、アフリカなどでは侮辱的な意味を持つ。また、手の甲を表にした「裏ピースサイン」も英国では「死ね」「くたばれ」と受け取られる。これらの例は一部に過ぎず、あらゆるハンドサインの意味や使ってはいけない国を調べ、片っ端から禁止にしていたらキリがないだろう。


久保建英 写真:Getty Images

取り組むべきは「差別の撲滅」

Jリーグ側や各クラブはそんな些末な事象よりも、より取り組むべきは「差別の撲滅」ではないか。歴史を紐解けば、Jリーグ史上初の無観客試合となった原因も、2014年3月8日のJ1第2節、浦和対サガン鳥栖戦(埼玉スタジアム2002/0-1)で、浦和サポーターがゴール裏スタンド入り口に掲げた「JAPANESE ONLY(日本人以外お断り)」と書かれた差別的な横断幕が原因だった。

Jリーグのみならず、欧州では差別を深刻な問題として受け止められており、日本代表MF鎌田大地(クリスタル・パレス)も被害に遭っている。

さらに、レアル・ソシエダに所属する日本代表MF久保建英は、2月23日のレガネス戦(レアレ・アレーナ/3-0)で後半3分にスーパーゴールを決めた直後の後半16分、ゴール前での競り合いで倒れ込むと、レガネスDFレナト・タピアから何やら言葉を掛けられ激昂。タピアのシャツを掴んで引き倒そうとするなど、これまで見せたことのない怒りを見せた。

それはレガネスGKマルコ・ドミトロビッチが仲裁に入るほどで、興奮冷めやらぬとみたイマノル・アルグアシル監督は、後半20分に久保をベンチに下げた。結果、久保は警告を受け、3月2日に行われるバルセロナ戦は累積警告(通算5枚目)で出場停止となってしまった。

現地ジャーナリストが読唇術を用いて分析したところ、タピアが放った言葉は「maldito chino(クソ中国人)」だったことが判明。人種差別として告発したものの、久保の出場停止処分が覆されることはなかった。

選手同士でもこの有り様なのだから、観客からのヤジはもっと酷いものであることは想像に難くない。特にレアル・マドリードのブラジル人FWヴィニシウス・ジュニオールに対する「モンキーチャント(黒人選手に対し、サルの鳴き真似で蔑む行為)」はスペインで社会問題となった。

Jリーグにおいても2010年9月11日のJ1第22節、川崎フロンターレ対横浜F・マリノス戦(等々力陸上競技場/1-3)において、横浜FMサポーターから「ウッウッウッ」といった掛け声が起き、これが川崎FWジュニーニョとMFヴィトール・ジュニオールを標的としたモンキーチャントではないかと物議を醸した。

当時、モンキーチャントへの理解が薄く、確たる証拠もなかったためお咎めなしとされたが、何かと欧州の真似事が好きなJリーグのサポーターが、この行為を“輸入”する可能性も否定できないだろう。

現在、不良サポーターの取り締まりは“木を見て森を見ず”といった状況だ。中指を立てた者を締め出すのも結構だが、さらに重大な事象を見落とすことがないよう、Jリーグ側やJクラブの運営担当は注意深く、サポーターを監視し続けることが求められているのではないだろうか。

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名前:寺島武志

趣味:サッカー観戦(Jリーグ、欧州5大リーグ、欧州CL・EL)、映画鑑賞、ドラマ考察、野球観戦(巨人ファン、高校野球、東京六大学野球)、サッカー観戦を伴う旅行、スポーツバー巡り、競馬
好きなチーム:Jリーグでは清水エスパルス、福島ユナイテッドFC、欧州では「銀河系軍団(ロス・ガラクティコス)」と呼ばれた2000-06頃のレアルマドリード、当時37歳のカルロ・アンチェロッティを新監督に迎え、エンリコ・キエーザ、エルナン・クレスポ、リリアン・テュラム、ジャンフランコ・ゾラ、ファビオ・カンナヴァーロ、ジャンルイジ・ブッフォンらを擁した1996-97のパルマ

新卒で、UFO・宇宙人・ネッシー・カッパが1面を飾る某スポーツ新聞社に入社し、約24年在籍。その間、池袋コミュニティ・カレッジ主催の「後藤健生のサッカーライター養成講座」を受講。独立後は、映画・ドラマのレビューサイトなど、数社で執筆。
1993年のクラブ創設時からの清水エスパルスサポーター。1995年2月、サンプドリアvsユベントスを生観戦し、欧州サッカーにもハマる。以降、毎年渡欧し、訪れたスタジアムは50以上。ワールドカップは1998年フランス大会、2002年日韓大会、2018年ロシア大会、2022年カタール大会を現地観戦。2018年、2022年は日本代表のラウンド16敗退を見届け、未だ日本代表がワールドカップで勝った試合をこの目で見たこと無し。
“サッカーは究極のエンタメ”を信条に、清濁併せ吞む気概も持ちつつ、読者の皆様の関心に応える記事をお届けしていきたいと考えております。

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