度を越せばムショ送り?
一方、東京都のカスハラ防止条例にも厚労省のマニュアルにも、具体的な罰則規定は盛り込まれてはいない。「カスハラは違法」という意識付けを第一の目的としているからだ。しかし、この考え方が定着すれば、度を越えた悪質なカスハラは、暴行罪や傷害罪、脅迫罪などの犯罪として扱われることに繋がっていく。
これを前出のサポーターに当てはめれば、社長への謝罪要求は強要罪(刑法第223条)、威力業務妨害罪(刑法第234条)、不退去罪(刑法第130条)。クラブ関係者への度を超えた個人攻撃は名誉毀損罪(刑法第230条)、侮辱罪(刑法231条)に抵触するものだ。いずれも1年以下の懲役と30万円以下の罰金が科され、民事訴訟でも損害賠償請求される恐れがある。
今回、大分がこれだけ強いメッセージを発した。来2025シーズン以降に同様の出来事があれば、「入場禁止」などという生半可な処分ではなく、不良サポーター集団の扱いを警察権力に委ねる意思を固めたともいえる。仮に、上記のような罪状で逮捕され起訴されても、何度も同じ犯行を繰り返したり、前科でもない限り“即、ムショ送り”となる可能性は低いだろう。
しかし、刑事事件となれば実名報道され、社会的信用は地に堕ち、職を失うこともあり得る。それが地方であれば厄介者扱いされ、転居を余儀なくされるかもしれない。“たかが、スタジアムでの悪ふざけ”と甘く見ると、手痛いしっぺ返しを食らうことになるのだ。
「サポーターは神様」からの脱却
カスハラの波がサッカー界にも波及したことで、各クラブ(特に条例が施行される在京クラブ)は、早急な対応が求められる。
特にFC東京は、2023年7月12日天皇杯3回戦の東京ヴェルディ戦(味の素スタジアム)で、ゴール裏のサポーターが花火や発煙筒を大量に使用し、観客1人に火傷を負わせた。その結果として、クラブ側が罰金500万円とけん責の懲罰を受けている。
このケースでも、当該サポーターは「国内試合の無期限入場禁止処分」という大甘処分に終わっているが、不良サポーター集団を根絶させるためには、迷惑防止条例違反や軽犯罪法違反、あるいはもっと刑罰の重い火薬類取締法で摘発する必要があるだろう。犯人特定を簡略化するために、ゴール裏に監視カメラを設置するのも1つの手だ。
昭和の国民的歌手である三波春夫氏(2001年逝去)の有名なフレーズ「お客様は神様です」という言葉に長らく縛り付けられてきた日本社会。しかし、そんな“昭和の常識”は通用しない世の中だ。
サッカー界も日本社会を形作る一部であり続けるならば、「サポーターは神様」といった考えから脱却しなければならない。ひいてはそれが、Jリーグの基本理念でもある「世界一安全なスタジアム」の実現に繋がるのだ。
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