その他 Jリーグ

DAZNの値上げとサッカーコンテンツ劣化の裏側&海外サービスとの比較

UEFAチャンピオンズリーグ 写真:Getty Images

海外版DAZNとの比較

果たして、DAZNのこの判断の決め手は何なのか。Jリーグとの大型契約は見込み違いだったのか。ここでは、日本以外でDAZNのサービスを展開するドイツ、イタリア、イギリス、スペイン、アメリカ、カナダ、ブラジルといった国との比較を示していきたい。まず料金面で、月額ベースでの料金は下記の通り。

  • DAZNドイツ:29.99ユーロ(約4,890円)
  • DAZNイタリア:29.99ユーロ(約4,890円)
  • DAZNイギリス:9.99ポンド(約1,950円)
  • DAZNスペイン:9.99ユーロ(約1,630円)
  • DAZNアメリカ:19.99ドル(約3,080円)
  • DAZNカナダ:19.99ドル(約3,080円)
  • DAZNブラジル:34.90レアル(約935円)

2022年、DAZNドイツも14.99ユーロ(約2,447円)からほぼ倍額の値上げを敢行し、同年にはDAZNイギリス、その前年にはDAZNイタリアも値上げされ、続くようにDAZNスペインも値上げされた。単純比較だけで言えば、ドイツ、イタリアとは同程度であり、日本だけ特に割高というわけではないことが分かる。

しかし、問題はその中身だ。上記のうちドイツとカナダでは、サッカーのキラーコンテンツでもあるUEFAチャンピオンズリーグ(CL)が視聴可能なのだ(カナダではUEFAヨーロッパリーグ(EL)も視聴可能)。

日本版DAZNも、欧州CLの放映権を2018/19シーズンから3年契約で獲得したものの、2020年にコロナ禍のあおりを受け2年目の途中で契約を破棄。放映権が宙ぶらりんとなってしまい、その後に「WOWOW」が放映権を再獲得するまで、日本の欧州サッカーファンはUEFAが運営する「UEFA TV」でのストリーミング中継(日本語実況なし)に頼らざるを得ない時期もあった。そして日本での欧州CL・ELの放映権は、今でもWOWOWが持っている。

また、欧州CLに続く人気コンテンツであるイングランドのプレミアリーグは、2023年に韓国の「SPOTV NOW」に奪われ、今2024/25シーズンは「U-NEXT」で独占配信されている。ドイツのブンデスリーガは「スカパー!」で長期にわたって放送されている。

現在の日本版DAZNが放送しているのは、スペインのラ・リーガ、イタリアのセリエA、フランスのリーグ・アン、ベルギーリーグに加え、イングランドのカップ戦(FAカップ、カラバオカップ)と2部のEFLチャンピオンシップ、イタリア杯(コッパ・イタリア)、フランスリーグ杯(クープ・ドゥ・フランス)、ベルギーカップなど。2部リーグやカップ戦を配信しているものの、日本代表MF久保建英(レアル・ソシエダ)がいるラ・リーガと、日本代表GK鈴木彩艶(パルマ)がいるセリエAだけでは「目玉コンテンツ」としては、やや弱い印象だ。


東京ヴェルディのサポーター 写真:Getty Images

サッカーファンの心を逆撫で?

そこに日本版DAZNは、サッカーファンの心を逆撫でするようなサービスを打ち出す。プロ野球専用の「DAZN Baseball」という安価なプランが提供されたのだ。こうしたパック料金がサッカーに関して設定されなかったことで、「DAZNはサッカーを見捨て、野球に乗り換えたのか」と反発を受けた。

DAZN側から見れば、Jリーグを視聴する術が他にないことで、応援するクラブの試合を見るという“推し行為”でもある消費者心理を巧みに突いた合理的な経営判断ともいえる。

また現在、DAZNは度重なるサービスの改悪によって、裁判に訴えられてもいる。従来「1契約につき2デバイスでの同時視聴が可能」とされていたものの「同じIPアドレスに限る」とされたためだ。簡単に言えば、自宅と外出先での同時視聴が不可能となるものだ。

これに異を唱え訴えたのは、東京ヴェルディサポーターの都内の大学生「おさしみ」氏。法学部で学ぶ同氏は弁護士も付けずに独りで、世界でサービスを展開している巨大プラットフォームと闘っている。例えDAZNがこの裁判に敗訴したとしても、IPアドレスの制限を解除し、場所を問わずに2デバイスでの同時視聴を可能にするだけで良く、金銭的賠償を伴うものではない。しかしながら、DAZNへのイメージや信用が低下することは必至で、2028シーズンまでのJリーグとの配信契約が全うされるかも疑わしくなってくる。

サッカーコンテンツの劣化の裏には、Jリーグの視聴者数の先細りが指摘されているが、コンテンツがスポーツに限られていることで、ドラマや映画、バラエティーも含む他のサブスクサービスと比べ、利用者の裾野を広げることが困難なことが一番の理由だろう。短期的に見て、値上げによって既存のユーザーから売り上げを増やしていくしかないのが、DAZNが置かれた現状なのだと思われる。

ページ 2 / 2

名前:寺島武志

趣味:サッカー観戦(Jリーグ、欧州5大リーグ、欧州CL・EL)、映画鑑賞、ドラマ考察、野球観戦(巨人ファン、高校野球、東京六大学野球)、サッカー観戦を伴う旅行、スポーツバー巡り、競馬
好きなチーム:Jリーグでは清水エスパルス、福島ユナイテッドFC、欧州では「銀河系軍団(ロス・ガラクティコス)」と呼ばれた2000-06頃のレアルマドリード、当時37歳のカルロ・アンチェロッティを新監督に迎え、エンリコ・キエーザ、エルナン・クレスポ、リリアン・テュラム、ジャンフランコ・ゾラ、ファビオ・カンナヴァーロ、ジャンルイジ・ブッフォンらを擁した1996-97のパルマ、現在のお気に入りはシャビ・アロンソ率いるバイヤー・レバークーゼン

新卒で、UFO・宇宙人・ネッシー・カッパが1面を飾る某スポーツ新聞社に入社し、約24年在籍。その間、池袋コミュニティ・カレッジ主催の「後藤健生のサッカーライター養成講座」を受講。独立後は、映画・ドラマのレビューサイトなど、数社で執筆。
1993年のクラブ創設時からの清水エスパルスサポーター。1995年2月、サンプドリアvsユベントスを生観戦し、欧州サッカーにもハマる。以降、毎年渡欧し、訪れたスタジアムは50以上。ワールドカップは1998年フランス大会、2002年日韓大会、2018年ロシア大会、2022年カタール大会を現地観戦。2018年、2022年は日本代表のラウンド16敗退を見届け、未だ日本代表がワールドカップで勝った試合をこの目で見たこと無し。
“サッカーは究極のエンタメ”を信条に、清濁併せ吞む気概も持ちつつ、読者の皆様の関心に応える記事をお届けしていきたいと考えております。

筆者記事一覧