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コン・フオン獲得で注目度急上昇。ベトナムクラブ初日本人CEO足達氏インタビュー

グエン・コン・フオン(左)足達勇輔氏(右)写真:Truong Tuoi Binh Phuoc FC

日本でプレーしてきたコン・フオン

ートップチームの強化面について伺います。ビンフオックは今季移籍市場で、現役ベトナム代表や元代表クラスを多数獲得し、特に横浜FCから加入したグエン・コン・フオンの電撃移籍は大きな話題になりました。コン・フオン獲得の狙いは何でしょう?また新戦力たちにはどんな期待を寄せていますか?

足達:まず多数の選手を獲得した理由の1つとして、昨季クラブを譲り受けた際にレンタルで選手を獲得していたことがあります。半数以上がレンタルした選手でした。そういった選手を育てても翌年にはいなくなってしまいます。今季はレンタルの選手は1人だけ。成長した選手のレンタルを延長したいと打診しても、断られてしまいました。育てても結局、他チームの強化を手伝っていることになり、自チームの安定には繋がらない。CEO就任時から、今季はとにかくレンタル比率を減らすんだと決意し、お金がかかるかもしれないけど、自分たちの選手を獲得して、昇格後を見据えた2~3年安定したチーム力を担保できる移籍になるよう心がけました。

そんな中、コン・フオンを獲得することになりましたが、ビンフォックFCが日本式クラブ作りをしているということは彼の耳にも入っていました。彼自身、現役生活の終盤に差し掛かっており、引退後のことも考えて育成の重要性を痛感していたようです。彼は日本でのプレー経験もありますので、選手の母数を増やさないことには国力が強まらないと理解しています。そのために彼は国内でスクールも立ち上げていますし、我々の取り組みにも非常に興味を持ってくれました。

我々が目指すのは彼がこれまで触れてきた日本スタイルのサッカーであり、外国人助っ人の個に頼らずに、グループで崩してグループで守るという、ベトナムサッカーが将来に向けて絶対に取り組んでいかなければならないもの。アタッキングサードの狭いエリアで彼の高い技術は生きますし、チームのラストピースになると考えています。実際、ここまでの3試合(カップ戦1試合、リーグ戦2試合)でチーム全得点となる3得点をコン・フオンが挙げています。

ー現在トップチームを率いているグエン・アイン・ドゥック監督は、足達CEOにとってAFCインストラクター時代の教え子でもあります。2部ロンアンFCで選手兼コーチを経て、昨季から本格的に監督としてのキャリアをビンフオックでスタートさせ、昨季3位という好成績を残しています。かつての教え子の成長をどう見ますか?

足達:ものすごく柔軟な思考を持つ男だと思います。どうしても過去の実績や経験があると、それが正しいと信じ込んで、どんどんハマっていく傾向があるのですが、彼は新しいものをどん欲に吸収する姿勢を持っている。今季から上野タクティカル&フィジカルコーチ、小原テクニカルコーチを迎えましたが、戦術行使には技術が必要ということで、多くの時間を技術練習に割いたり、原理原則を守らないサッカーはないという考えから全ての戦術を落とし込んでいく。指導者が選手に一方的に押し付けるのではなく、選手が理屈を説明できるようにトレーニングを進めています。こういった日本式指導のノウハウも吸収していて、今ではミーティングを聞いていても、タクティカルコーチより監督の方が原理原則に拘っている印象すらあります。

ベトナムサッカーの未来に絶対に必要となるものを、彼は今まさに身につけようとしていますので、どこまで成長していくのか楽しみです。他人を見る目、周囲の空気を感じ取る力、学び取る力というのを持っていますし、末恐ろしいですよ。彼のような新しい世代の指導者が国内で力を持つようにならないと、ベトナムサッカーは変わっていかないと思います。


チュオントゥオイ・ビンフオックのサポーター 写真:Truong Tuoi Binh Phuoc FC

「選手を“探す”よりも“育てる”ということ」

ー開幕前のキックオフイベントでは、アカデミーのお披露目もありました。就任会見での足達CEOの発言や先程のお話でもそうですが、今後は特に育成に力を入れるという意思を感じます。新たに発足したアカデミーの理念やビジョンをお聞きかせください。

足達:やはり選手を“探す”よりも“育てる”ということ。国内アカデミーやVリーグクラブの下部組織においてU-12年代で純粋に育成されている選手数というのは非常に限定的です。例えば、今後U-17代表を選ぶにあたっても、その限られた母数の中からしか選べないという現状があります。タレントは全国にいて、どこかにかたまっているわけではないと思うんです。

ビンフオック省にもタレントはいるはず。でも、それを見過ごしていて、機会が与えられていない。タレントがサッカーを目指すような取り組みができていない。だから、ビンフオック省にはタレントが少ないという現状になっています。これはかつての日本も同じだったかもしれませんが、タレントは場所を選んで生まれてくるわけではありません。ベトナムには1部・2部合わせて25のプロクラブがありますが、それぞれが地域で育成の取り組みをすれば、確実に母数は変わってきます。そのロールモデルになるというのが、我々がアカデミーを作る上での一番の理念。このことがベトナムサッカーの分岐点になって欲しいと思います。

しかし、12歳の選手がトップチームに上がるには約8年という時間がかかります。ベトナムの課題として、この中期ビジョンに堪えられるのか、目標を見失わずに進めるのか、というのがあります。見えない目標に向かって、地域とクラブが一丸となって努力し歩んでいけるのかというのが、私の挑戦。これに成功すれば、このクラブは間違いなくベトナムのロールモデルになると確信しています。

ー足達氏がクラブCEOになったこと、そして日本式アカデミー誕生により、日越サッカーの繋がりにはどんな影響が出てくるでしょうか?

足達:アカデミーの方針の一環として、“学業かサッカー”ではなく“学業とサッカー”というのを掲げており、両方できる人材を育てることを目指しています。ありがたいことに、クラブには日本人スタッフと通訳合わせて10人の日本語話者がいますので、子供たちへの日本語教育も始めています。通常の学業についても科目ごとに家庭教師を雇って成績を落とさないよう勉強時間を設けています。宿舎内に教室も作りましたし、学業にはサッカーと同じぐらい力を入れています。

日本サッカーには、他の国には見られないユニークなパスウェイとして、部活動だったり、大学サッカーだったり、または社会人、アカデミーなど色々な道筋があります。日本語力をつけたベトナム人選手が日本の大学でサッカーをしながら学士を取得して、Jリーグを目指すとか、あるいはVリーグに戻ってくるのでもいいですし、サッカーと学業を両立できる環境が日本にはあるので、そういうところに選手を送り出したい。これは一つの例ですけど、日本とのかかわりという意味では多岐にわたります。Jクラブとの育成提携を結んで、選手を派遣するというのも考えています。


グエン・コン・フオン 写真:Getty Images

指導者養成、スポンサー集めも

ー元Jリーガーとしてコン・フオンが加入したわけですが、今のところJリーグで成功したと言えるベトナム人選手は出ていません。今後Jクラブでプレーするベトナム人選手は増えると思いますか?

足達:指導者のクオリティが上がらない限り、ベトナムサッカーは現在の域から抜けられないと思います。指導者のクオリティというのは、グラウンドで指導するのにとどまるものではなく、例えば母数が足りないなら、増やすための組織作りをするというのも育成年代の指導者の仕事になります。サッカーに理解のある指導者が増えていく、あるいはそういった指導者養成を行っていかないと、越僑選手や帰化選手を探すという方向に向かってしまうと思います。

育成というのは草の根から始まりますので、コミュニティサッカーがVリーグクラブの傘下に入って良い影響を受けたり、カリキュラムを共有したりして、選手を育てていくとか、育成と普及で大きな変革がない限り、ベトナムから世界で活躍する選手が出てくることはないでしょう。そういう意味で、我々のクラブが一つのロールモデルにならなければならないと強く感じています。

ー経営面について伺います。多くのベトナムクラブは力がある一部のオーナー企業に依存している状態ですが、ビンフオックの現状はいかがでしょう?

足達:ソン会長が省から譲り受けて、設立間もないクラブということで、現状では他のVリーグと同じような状況です。ただ、私が考えるクラブ作りはそういうものではないので、こちらも改革には着手しています。町田運営部長が赴任したことで、既にセールスシートを作成してスポンサー集めに動き出しているところです。我々クラブにとっては、選手やサッカーの試合が商品に当たるため、今季はチケットも販売しましたし、ユニフォームの販売も始めました。移籍金に関しては10年後になってしまうかと思いますが、スポンサー収入とチケット販売、マーチャンダイジング、移籍金という収入の4つの柱を少しずつ拡大させているところです。

ー例えば、サイゴンFCでは日本化を契機に日系スポンサーが急増しました。ビンフオックは育成面では、地域密着という話でしたが、スポンサー集めも地域にこだわっていくのでしょうか?

足達:そこはビンフオック省の企業にこだわってはいません。我々日本人のスタッフがいて、1部昇格するとなったら、日本人選手を獲得(2部は外国人選手登録が禁止)しようという流れになるでしょうし、日系企業にも興味を持っていただいて、日本とベトナムの懸け橋となれるようなクラブになりたいと考えています。教育分野であったり、地方農業であったり、あるいは日越を繋ぐ活動の分野など大きな視点でスポンサーは探していきたいです。我々の取り組みに共感していただける企業には、是非協力をお願いしたいです。


チュオントゥオイ・ビンフオック 写真:Truong Tuoi Binh Phuoc FC

今季の目標は優勝しての1部昇格

今季はもちろんのこと、ビンフオックは昨季も集客面では他クラブを上回る観客動員があったかと思います。集客方法やスタジアムのエンタメ化についてのお考えを聞かせていただけますか?

足達:集客に関しては、まだ我々の考えていることが反映されているとは言い難いですが、ファンサービスの仕方などの部分では少しずつ日本式を取り入れています。集客では、コアサポーターの中心メンバーの方々が非常に積極的に動いてくださり、情報告知などで協力してもらっています。

スタジアムの遊園地化については、つい先日の定例会議でも案が出たところです。サッカーを観たいお父さんがサッカーを観るだけの場所じゃなく、家族で楽しめる場所、子供も楽しめる場所にしていきたい。キックターゲットやミニゲームで所属選手と触れ合う機会を作ったり、それ以外にも日本食デーやタイ料理デーといったイベントを企画したりするなどの案が出ており、将来のアリーナ化に向けて動き出しているのは確か。スタジアムには潜在的に活用できるキャパシティがあると思っていて、今はまだ競技場の色が強いですが、それをスタジアムに、ゆくゆくはアリーナへと進化させたいと考えています。

ー現在2部を戦っているビンフオックですが、近いところで今季の目標と、将来的に目指すクラブ像を教えてください。

足達:ズバリ今季の目標は1部昇格。プレーオフではなく、優勝しての1部昇格です。昇格後はVリーグの中位ぐらいに安定して定着すること。そこからはACLに向けてシフトアップしたいです。5年後ぐらいには、ACLにチャレンジできるところまで持っていきたいと思っています。

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名前USAMI JUN
趣味:サッカー観戦、映画鑑賞
好きなチーム:ソンラム・ゲアン、名古屋グランパス、アーセナル

1981年生まれ、愛知県出身、ベトナム・ホーチミン在住の翻訳家兼ライター。2005年に日本語教師としてベトナムに渡り、語学センターや大学で教壇に立った後、2011年にベトナム情報配信サイトの運営会社に就職して編集長を務める。2013年にベトナムサッカー専門サイト「ベトナムフットボールダイジェスト」を立ち上げ。日本のサッカー媒体向けにベトナムサッカー関連記事を細々と寄稿中。

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