Jリーグ

J2全クラブ監督の通信簿&続投可能性

レノファ山口 写真:Getty Images

レノファ山口:志垣良監督

評価:★★★☆☆/続投可能性:80%

東福岡高卒業後、イングランドに渡り選手生活を全うした後、指導者のキャリアもスタートさせた異色の経歴を持つレノファ山口の志垣良監督。日本では、ヴァンラーレ八戸(2022)、FC大阪(2023)の監督を経て、今シーズンから山口の監督に就任した。

最終的には息切れしたが、一時は昇格プレーオフも視野に入る快進撃を見せた山口。最終節では、J1昇格が懸かった横浜FCを相手に粘り強い守備を見せ、スコアレスドローに持ち込んだ。8ゴールを記録したユース育ちのFW河野孝汰や、7ゴールのFW若月大和といった若い力を生かしたチーム作りは評価されるべきで、4億円程度のチーム人件費以上の成績を残したと言えよう。

J1自動昇格を狙うにはまだ実力不足の感もあるが、優勝した清水とは1勝1敗、2位の横浜FCとは2引き分けと、昇格プレーオフを狙えるだけの力はある。志垣監督の指導によって、まだまだ伸びしろを期待できるチームだ。


下平隆宏監督 写真:Getty Images

V・ファーレン長崎:下平隆宏監督

評価:★★★★☆/続投可能性:90%

2022シーズンから指揮を執っていたファビオ・カリーレ監督が、2023年12月末突然、レアンドロコーチ、デニスコーチ、セザールコーチらスタッフを引き連れ、ブラジルのサントスFCと契約。二重契約にあたるとして、V・ファーレン長崎はFIFAに提訴するに至った(FIFA側は「裁定できないという」裁定)。

同時にヘッドコーチに就任することが内定していた下平隆宏氏が、急きょ監督に就任。柏レイソル(2016-18)、横浜FC(2019-21)、大分トリニータ(2022-23)に続き、4度目のJクラブの指揮を執ることになった。

スカウトやユース監督、強化担当、ヘッドコーチと様々なキャリアを積んだ上で監督となった下平監督。2019シーズンには横浜FCをJ1昇格に導いた実績もある。いい意味で、これといった指導方針を持たず、柔軟性があり、与えられた手駒でやり繰りするのが得意な指揮官でもある。

長崎では、15ゴールを記録したFWエジガル・ジュニオ、12ゴールのMFマルコス・ギリェルメ、10ゴールのFWフアンマ・デルガドといった強力なブラジル人選手の得点力を発揮させるサッカーに振り切り、総得点はJ2リーグで他を圧倒する「74」、得失点差も「+35」と、いずれもリーグ1位を記録。終盤、横浜FCがもたつく中、5連勝でリーグ戦を締め、惜しくも勝ち点差1で自動昇格には届かなかったが、昇格プレーオフで大本命と目されていることに異論はないだろう。

ルヴァン杯1回戦では浦和レッズを破り、天皇杯でも3回戦でアルビレックス新潟を6-1で粉砕、4回戦では横浜F・マリノスを相手に2-3で敗れたものの、一歩も引かない戦いを見せた。仮にJ1昇格できたとすれば、清水、横浜FC以上にサプライズを期待させるチームで、今2024シーズンの町田ゼルビア以上のインパクトを生み出す可能性もある。


片野坂知宏 写真:Getty Images

大分トリニータ:片野坂知宏監督

評価:★★☆☆☆/続投可能性:100%

大分トリニータは、下平隆宏監督の下で2022シーズン5位、2023シーズン9位の成績を収め、今2024シーズンは「J1昇格」を旗印に3シーズンぶりに片野坂知宏監督を復帰させた。

攻守に切れ目のない「シームレスフットボール」を掲げたものの、序盤から低迷して一時は17位にまで順位を落とし、解任も囁かれた。最終的には16位に終わったものの、降格3チームがモチベーションを失い、勝ち点を伸ばせなかったことによるもので、特に総得点は「33」と、降格した栃木SCと同じ、J2ワーストの数字だ。

既に来季続投の方針と報じられ、通算で8シーズン目の指揮が内定している片野坂監督。前政権時(2016-21)の「疑似カウンター」や、前述の「シームレスフットボール」といった、先鋭的な戦術をピッチ上で表現できる選手を揃える作業が先だろう。それが出来なければ、2015シーズン(21位)以来のJ3降格も現実となりかねない。


大木武監督 写真:Getty Images

ロアッソ熊本:大木武監督

評価:★★★☆☆/続投可能性:100%

J3時代の2020シーズンからロアッソ熊本の指揮を執る大木武監督。既に来季続投は発表され、クラブ最長記録を更新する6シーズン目の指揮が決まっている。

2021シーズンのJ3優勝のみならず、2022シーズンのJ2リーグ4位というクラブ史上最高の成績を収めた大木監督。ヴァンフォーレ甲府(2002、2005-07)、清水エスパルス(2003)、京都サンガ(2011-13)、FC岐阜(2017-19)と、Jでの指導経験が豊富なだけではなく、2007年には当時の岡田武史監督に「自分にはない考えを持っている」と言わせ、日本代表コーチにオファーされている。2010年南アフリカW杯に帯同し、16強進出に貢献した。

【3-4-1-2】あるいは【3-3-1-3】のフォーメーションを敷き、超攻撃的サッカー志向する。時には大量失点することもあるが、2023年の天皇杯ではクラブ史上初の4強に導くなど“爆発力”も備えるチームに育て上げた。来季も、そのエンタメ性に富んだサッカーでJ2を盛り上げてくれることは間違いないだろう。


浅野哲也監督 写真:Getty Images

鹿児島ユナイテッド:浅野哲也監督

評価:★☆☆☆☆/続投可能性:0%

今2024シーズン、鹿児島ユナイテッドは2019シーズン以来となるJ2挑戦となったが、再び壁に跳ね返され、19位でのJ3降格となった。シーズン途中から指揮を執る大島康明前監督の解任に伴い、浅野哲也監督が5月に招聘された。Jクラブの指揮を執るのは、長野パルセイロ(2017-18)を途中解任された2018シーズン以来だった。

それ以前には、アビスパ福岡(2011)、JFLからJ3へ昇格した当時の鹿児島(2015-16)、そして長野、加えてなでしこリーグ(日本女子サッカーリーグ)の伊賀FCくノ一三重(2013-14)の指導も経験した浅野監督。

鹿児島にとって、Jリーグ入りを果たした功労者であることは間違いないが、J2を戦うにはブランクが長すぎた印象で、8月3日の第25節藤枝MYFC戦(白波スタジアム)から9月22日の第32節栃木SC戦(栃木県グリーンスタジアム)まで8連敗を喫し、この時点で事実上、J3降格は決定的となってしまった。

来2025シーズン、J3を戦う鹿児島の上層部は、新たな監督兼GM(ゼネラルマネジャー)に相馬直樹氏が内定したと発表。しかしながら、この「監督兼GM」という役職、2016シーズンに名古屋グランパスを率いた大物OBの小倉隆史氏の大失敗例が思い起こされる。指導歴もなくいきなり大役を任されることになったものの、17戦未勝利のドロ沼にハマり、8月には早くも休養という名の事実上の解任に追い込まれ、クラブ初のJ2降格に繋がった。小倉氏はその後、名古屋との関わりも断ち、地元三重の東海社会人リーグ1部・FC.ISE-SHIMAの理事長として奮闘している。

相馬氏は、町田ゼルビア(2010、2014-19)、川崎フロンターレ(2011-12)、鹿島アントラーズ(2021)、大宮アルディージャ(2022-23)の監督を歴任してきたが、お世辞にも「成功」とは言い難い成績に終わっている。監督兼GMという大役が務まるのか、期待よりも不安の方が先に立つ。

チーム人件費が3億円にも満たない鹿児島において、多くのポストを用意できない事情もあるだろう。しかし、チーム改革を実績に乏しい監督1人に託すのはリスクが大きすぎる。サポーターはJ2復帰どころか、J3定着、あるいはJFL降格すら覚悟しておく必要があるだろう。

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名前:寺島武志

趣味:サッカー観戦(Jリーグ、欧州5大リーグ、欧州CL・EL)、映画鑑賞、ドラマ考察、野球観戦(巨人ファン、高校野球、東京六大学野球)、サッカー観戦を伴う旅行、スポーツバー巡り、競馬
好きなチーム:Jリーグでは清水エスパルス、福島ユナイテッドFC、欧州では「銀河系軍団(ロス・ガラクティコス)」と呼ばれた2000-06頃のレアルマドリード、当時37歳のカルロ・アンチェロッティを新監督に迎え、エンリコ・キエーザ、エルナン・クレスポ、リリアン・テュラム、ジャンフランコ・ゾラ、ファビオ・カンナヴァーロ、ジャンルイジ・ブッフォンらを擁した1996-97のパルマ、現在のお気に入りはシャビ・アロンソ率いるバイヤー・レバークーゼン

新卒で、UFO・宇宙人・ネッシー・カッパが1面を飾る某スポーツ新聞社に入社し、約24年在籍。その間、池袋コミュニティ・カレッジ主催の「後藤健生のサッカーライター養成講座」を受講。独立後は、映画・ドラマのレビューサイトなど、数社で執筆。
1993年のクラブ創設時からの清水エスパルスサポーター。1995年2月、サンプドリアvsユベントスを生観戦し、欧州サッカーにもハマる。以降、毎年渡欧し、訪れたスタジアムは50以上。ワールドカップは1998年フランス大会、2002年日韓大会、2018年ロシア大会、2022年カタール大会を現地観戦。2018年、2022年は日本代表のラウンド16敗退を見届け、未だ日本代表がワールドカップで勝った試合をこの目で見たこと無し。
“サッカーは究極のエンタメ”を信条に、清濁併せ吞む気概も持ちつつ、読者の皆様の関心に応える記事をお届けしていきたいと考えております。

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