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古い!ボロい!それでも愛される欧州のスタジアム3選

クレイブン・コテージ 写真:Getty Images

クレイブン・コテージ

場所:イギリス、ロンドン
使用クラブ:フラム(プレミアリーグ)

アーセナルのエミレーツ・スタジアム(2006年開業)、トッテナム・ホットスパーのトッテナム・ホットスパー・スタジアム(2019年開業)、ウェストハム・ユナイテッドのロンドン・スタジアム(2012年のロンドン五輪の後、サッカー専用スタジアムに改装し、2016年供用開始)といった大型かつ新しいスタジアムがひしめき合うロンドンにあって、1896年に供用が開始された古き良きイングランドサッカーの香りを残すスタジアム、クレイブン・コテージ。

ロンドン地下鉄ディストリクト線の2つ手前の駅近くには、チェルシーのホームスタジアムであるスタンフォード・ブリッジがあり、元はといえばフラムの本拠地として1896年に建てられたものなのだが、金銭面で折り合いがつかず宙に浮いてしまう。そこで1905年にチェルシーが設立され、ホームスタジアムとした経緯がある。

テムズ川沿いにあるそのロケーションは、高級住宅街にふさわしく、英国皇室がコテージ(別宅)とし、その名が現在でもスタジアム名として残されている。最寄り駅から15分ほど歩いた先に、レンガ造りの武骨なエントランスが迎えてくれる。

このクレイブン・コテージも再開発が進行中で「リバーサイドスタンド」と呼ばれるメインスタンドの拡張工事が終わると、収容人数が約3万席となり、レストランやカフェも併設したスタジアムに生まれ変わる。

雨の多いイギリスでは、屋根が地面と平行、あるいは前傾した造りになっていることも多い。雨は吹き込んでこないための設計なのだが、これによって問題が発生する。スタンド前方に支柱を立てざるを得なくなり、これが観戦のジャマになるのだ。現在であれば屋根の素材も軽量化され、前方の支柱も必要なくなる可能性もあるが、現状、支柱のあるバックスタンドとゴール裏席の改装は計画されていない。

これによって、10本近くの支柱が建てられているバックスタンドの後方から観戦すると、見切れ席が生まれることになり、場合によっては選手が放ったシュートが“消える”ことになるのだ。加えて可能な限り屋根が低く造られているため、ロングボールの蹴り合いとなると、その度に“消えるボール”を探すことになる。

しかし、メガクラブが集い、巨大スタジアムの多いロンドンの中で、最もピッチとスタンドが近いのが同スタジアムだ。移転新築計画が発表される度、サポーターの反対に遭い、今では計画そのものが白紙となっている。

2001/02シーズンの、UEFAインタートトカップ(現在は消滅)優勝という国際タイトルを持ち、2022/23から2シーズン連続でプレミアリーグ残留を果たしているフラム。今2024/25シーズンは、7節終了時点で3勝2敗2分けの8位と、まずまずの序盤戦を送っている。

NFLのジャクソンビル・ジャガーズや、新日本プロレスの元エース、オカダ・カズチカが所属している米プロレス団体AEWを所有する米国人実業家のシャヒド・カーン氏の資金力のお陰で、着々と力を付けつつある。そしてその躍進を陰で支えているのは、この古いスタジアムを愛してやまないサポーターなのだ。


スタディオ・ジュゼッペ・シニガーリャ 写真:Getty Images

スタディオ・ジュゼッペ・シニガーリャ

場所:イタリア、コモ
使用クラブ:コモ1907(セリエA)

筆者がスタディオ・ジュゼッペ・シニガーリャを訪れたのは、元日本代表MF中村俊輔(現横浜FCトップチームコーチ)が、セリエAのレッジーナに移籍した直後の2002年9月29日のコモ戦(1-1)だ。

当時は当然スマホもグーグルマップもなく、「行けば何とかなる」とばかりに電車に乗り込んだ。コモ湖(Como Lago)駅から歩くこと15分ほどで到着。しかし、そこにあったのは「練習場か?」と疑いたくなるような安普請なスタジアムだった。

ボロさでは、前述した2つのスタジアムと比べても別格である。スタンドのメンテナンスなどしていないかのような有り様だ。スタンドもほとんどが仮設で、塗装もはがれている状態。仮に、同じようなスタジアムが日本にあったとしても、耐震補強は無きに等しく使用許可は下りないであろう。

しかし、同スタジアムの魅力は、そのロケーションだ。メインスタンドのほぼ目の前といっても差し支えない場所に、イタリアを代表する観光スポットの1つであるコモ湖があり、観戦客が試合前後に湖畔で一服したり、エスプレッソを嗜みながら仲間と談笑する姿が見られるのだ。もうこれだけで贅沢なひと時を満喫でき、目的がサッカー観戦であることすら忘れてしまうほどだ。

コモはこの2002/03シーズン17位に終わり、セリエBに降格。その後、3年連続降格という憂き目に遭い、2005/06シーズンにはセリエD・ジローネB(実質4部)にまで落ちた上に財政破綻してしまう。

しかし、2019年、資産6兆円超と言われるインドネシアで最も裕福な実業家のマイケル・ハルトノ氏と、その弟ロバート・ハルトノ氏に買収されたことでV字回復する。2023/24シーズンのセリエBで2位となり、22シーズンぶりにセリエAの舞台に帰ってきた。

そして、元スペイン代表のレジェンドMFであると同時に、コモOBで、同クラブで指導歴を重ねたセスク・ファブレガス氏を新監督に据え、今2024/25シーズン7節終了時点で2勝3敗2分けの14位ながら、9月25日の5節では昨季のUEFAヨーロッパリーグ王者のアタランタを3-2で破るなど、攻撃的サッカーでサポーターを魅了している。

コモはミラノから電車で約40分。日程さえ合えば、ミラノで行われるナイター試合とのハシゴ観戦も可能だ。実際に筆者も、デイゲームだったコモ対レッジーナの後、サンシーロでのインテル対キエーヴォ・ヴェローナ(2-1でインテル勝利)を観戦した。イタリア北部にチームが集中しているセリエAだが、こんなメリットもある。

今シーズンのセリエA中継を見る限り、スタジアムは当時のままだ。しかし、久しぶりの最高峰の舞台とあって、客入りはまずまずのようだ。大富豪のハルトノ兄弟による新スタジアム建設プランもあるようだが、現在のこのロケーションは捨てがたいと感じさせる。

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名前:寺島武志

趣味:サッカー観戦(Jリーグ、欧州5大リーグ、欧州CL・EL)、映画鑑賞、ドラマ考察、野球観戦(巨人ファン、高校野球、東京六大学野球)、サッカー観戦を伴う旅行、スポーツバー巡り、競馬
好きなチーム:Jリーグでは清水エスパルス、福島ユナイテッドFC、欧州では「銀河系軍団(ロス・ガラクティコス)」と呼ばれた2000-06頃のレアルマドリード、当時37歳のカルロ・アンチェロッティを新監督に迎え、エンリコ・キエーザ、エルナン・クレスポ、リリアン・テュラム、ジャンフランコ・ゾラ、ファビオ・カンナヴァーロ、ジャンルイジ・ブッフォンらを擁した1996-97のパルマ、現在のお気に入りはシャビ・アロンソ率いるバイヤー・レバークーゼン

新卒で、UFO・宇宙人・ネッシー・カッパが1面を飾る某スポーツ新聞社に入社し、約24年在籍。その間、池袋コミュニティ・カレッジ主催の「後藤健生のサッカーライター養成講座」を受講。独立後は、映画・ドラマのレビューサイトなど、数社で執筆。
1993年のクラブ創設時からの清水エスパルスサポーター。1995年2月、サンプドリアvsユベントスを生観戦し、欧州サッカーにもハマる。以降、毎年渡欧し、訪れたスタジアムは50以上。ワールドカップは1998年フランス大会、2002年日韓大会、2018年ロシア大会、2022年カタール大会を現地観戦。2018年、2022年は日本代表のラウンド16敗退を見届け、未だ日本代表がワールドカップで勝った試合をこの目で見たこと無し。
“サッカーは究極のエンタメ”を信条に、清濁併せ吞む気概も持ちつつ、読者の皆様の関心に応える記事をお届けしていきたいと考えております。

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