加藤弁護士の顧問就任に至るまで
ここまでくると、もはや子どものケンカだ。些末なことにもいちいち文句をつけ、それがニュースとなり炎上するという負のサイクルは止められず、町田のイメージは最悪となる。筆者はJリーグを創設当初からウォッチしてきているが、Jの歴史上、ここまで全方位から嫌われたクラブは記憶にない。
時代の流れからか、その批判は主にSNS上やポータルサイトのコメント欄に集まり、ついにはX上で「知り合いの勤める会社が町田のスポンサーから降りた」というポストが拡散された。
事の真偽は不明だが、町田のフロントはこれを看過できず、今回の加藤博太郎弁護士の顧問就任と誹謗中傷に関する情報提供窓口の設置に至ったわけだが、“時すでに遅し”の感は否めない。
顧問に就任した加藤氏は、週刊誌で性加害疑惑が報じられた日本代表MF伊東純也の弁護を担当し、不起訴処分に導いた。他にも、スルガ銀行の不正融資事件や、熱海市の「盛り土流出事故被害者の会」の弁護団長を務めるなど、数多くの大型案件を担当した実績がある。慶応大4年次に飛び級で大学院に合格した秀才でもある。その実績から委託料は、大物外国人選手を獲得できるほどの金額だろう。
加藤氏は「刑事告訴を含む法的措置を厳正に講じる」との声明を出し、誹謗中傷のスクリーンショットを窓口まで送るよう要請した。
町田の手法は“大補強”か“悪手”か
いきなり「刑事告訴」というパワーワードを発し、情報提供窓口を設置したことで、町田サポーターは、せっせと我がクラブへの誹謗中傷の投稿探しに血眼になっていることだろう。町田のフロントは、サポーターを“チクリ魔”として利用する手法を選んだのだ。
しかしこれには強烈な違和感を禁じ得ない。果たしてこれが、日本のサッカー文化なのかと。
もちろん、サッカーと関係のない人格攻撃は許されない。しかし、試合での行動・言動について意見することまで、自らにとって都合の悪い内容であれば一方的に「犯罪」と決め付けるようなやり方が、建設的とは思えないのだ。
この発表によって、一時的には町田への批判が止むかもしれない。しかし、それは町田への意識が好転したということではなく、悪いイメージが固定化されたことを意味するのだ。
CEO藤田晋氏の見解は?
もう1つ、疑問がある。この一連の騒動について、代表取締役社長兼CEOの藤田晋氏からのコメントが一切、聞こえてこないことだ。「口は出さぬが金は出す」と言えば聞こえはいいが、クラブの危機にトップが何の動きも見せないことにもどかしさを感じる。今さら悪役を買って出ることに二の足を踏んでいるのかもしれない。もしかしたら、町田のファンの中にも同じ思いの人がいるのではないだろうか。
邪推であることを祈るが、もはや藤田氏は、町田の経営への興味を失っているのかもしれない。2018年にクラブを買収した際にも反対の声があった上、翌2019年にはクラブ名を「FC町田TOKYO」に変更するプランが浮上し、サポーターの猛反発に遭ったことで、すぐに引っ込めたという経緯がある。
町田の買収以前の2006年に、東京ヴェルディを運営する「日本テレビフットボールクラブ」の副社長に就任したが、OBのラモス瑠偉監督を招聘しながらも成績が低迷し、クラブ内のゴタゴタが絶えない体制に嫌気が差し、わずか2年で経営から撤退した。
元々は野球好きでヤクルトファンを公言し、麻雀好きが高じて、自ら社長を務めるAbemaTV主催で、競技麻雀のプロリーグ「Mリーグ」を立ち上げたほどだ。その他にも、グループ会社のCygamesがリリースしたゲーム「ウマ娘 プリティーダービー」が大ヒットしたことへの「恩返し」として、多数のGIホースを所有する馬主という顔も持っている。
民放テレビ局とNHKが束になっても買えなかったワールドカップカタール大会の放映権を買収したほどの資金力を持つ藤田氏が、地縁もなく、悪役イメージが染みついたJクラブを所有するメリットは、日に日に減ってきているのではないか。
日本のサッカー文化の行方
アクセスが悪く、山の中にあることを逆手に取り、“天空の城”の異名を持つ町田GIONスタジアムは、ホームゲームの日には数多くの露店が並び、様々なイベントも開催されるなどアットホームな雰囲気だが、一方、クラブとサポーターの関係は決して一枚岩ではない。今回のクラブの方針に疑問を持つファンも少なくないだろう。
今回の騒動とそれに対する対応は、言葉の暴力に対し、法律という盾によって押さえつけようとする試みだ。表向きには争いは収まるかもしれないが、根本的な問題は何一つ解決することなく、禍根だけが残される。
このまま広島が優勝したとしても、2024年は町田の快進撃と数々の騒動が一番のトピックだったシーズンとして記憶されるだろう。
日本のサッカー文化をこれ以上汚されないようにするには、どうこの問題に決着をつけるべきなのか。シーズンオフに“黒田体制の一新”という大ナタが振り下ろされる可能性もゼロではないだろう。騒動の原因を作り、自ら火に油を注ぎ、“失言”を顧みる謙虚さもないのだから致し方ないだろう。
そこまで言及するのは、Jリーグが競技であると同時に、ファンを中心とした「興行」であり、エンタメであり、人気商売でもあるからだ。
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