Jリーグ 町田ゼルビア

町田ゼルビアの大物顧問弁護士招聘は“大補強”か“悪手”か

町田ゼルビア 写真:Getty Images

10月5日の明治安田J1リーグ第33節で、3位につける町田ゼルビアは、ホーム(町田GIONスタジアム)で川崎フロンターレに1ー4で敗れ、今2024シーズン初の連敗を喫した。

町田は前半13分、チーム最年長40歳のベテランFW中島裕希の美しいミドルシュートで先制したが、川崎のパス回しに翻弄されミスを連発し、シュート24本を許す完敗劇。逆転負けも今季初で、Jリーグ初の「J1初昇格即優勝」が遠のいた。

黒田剛監督の代名詞ともいえる「最短距離で得点を狙う」形で幸先よく先制し、前節の上位対決サンフレッチェ広島戦(9月28日エディオンピースウイング広島)での敗戦(0-2)のショックを払拭したかに見えた町田だが、前半28分、川崎DF三浦颯太のインナーラップに付いていけずに同点に追いつかれると、38分には日本代表GKでもある谷晃生のミスキックをMF脇坂泰斗に拾われ、FW山田新が逆転ゴール。

町田はハーフタイム明けに2トップを交代し、FW藤尾翔太、FWオセフンを投入したが、試合の流れは変わらず。後半5分には、FWエリソンにPKを決められ、後半26分にもFWマルシーニョにゴールを許すなど守備陣が崩壊。終わってみれば今季最多の4失点を喫した。

ここでは町田の敗因や状況を振り返ると共に、同試合翌日に公開された大物顧問弁護士就任について、それにまつわる今2024シーズンを通じた町田の騒動について考察する。


望月ヘンリー海輝 写真:Getty Images

町田の敗因と救いは

敗因を挙げればキリがないが、本来、サイドバックの日本代表DF望月ヘンリー海輝をCBの位置で起用せざるを得なかった選手層の薄さ、リーグ戦も佳境に入り二回り目の対戦となったことで、黒田サッカーへの対策されてきたこともあるだろう。

実際、町田の十八番のロングスローも、この試合では3回しか出せなかった。川崎DFが安易にタッチラインにクリアすることを避けたのだ。また、町田が得意とするフィジカル勝負に対し、川崎が持ち前のパスサッカーでかわし続け、個人技の差をまざまざと見せ付けたようなゲームだった。

救いがあるとすれば、ここで代表戦ウィークに入り、リーグ戦は2週間の空きがある点だ。ここで立て直さないと中断後に待ち受けるのは、10月19日の第34節柏レイソル戦(三協フロンテア柏スタジアム)と、11月3日の第35節サガン鳥栖戦(駅前不動産スタジアム)。ともにJ1残留を懸けて一戦必勝の戦いを挑んでくる相手で、しかもアウェー戦だ。一筋縄ではいかないだろう。

4位の鹿島アントラーズとの勝ち点差は6だが、連敗が続けば優勝はおろか、ACL出場権も危うくなる。


町田ゼルビア 写真:Getty Images

試合翌日の町田のあるリリース

そんな町田だが、翌6日、あるリリースを公式HPに公開した。「弁護士加藤博太郎氏の顧問就任及び誹謗中傷に関する情報提供窓口設置のお知らせ」と題するそのリリースは、「弊クラブ及び所属選手・スタッフに対する誹謗中傷についてにおける対応方針」として示されたものだ。

確かに町田に対する批判的なSNS上での他クラブのファンの投稿やネットニュースは、今季のJ1リーグの話題を独占している感がある。それは鹿島のランコ・ポポヴィッチ監督の電撃解任のニュースも霞んでしまったほどだ。

今季、初のJ1での戦いで快進撃を見せていた町田。しかし、徐々にその称賛の声は消え失せ、逆にそのプレースタイルへの批判が目立つようになっていく。ぶつかり合いも辞さない選手のフィジカルを生かしたサッカーは、時に“アンチフットボール”と揶揄されることがある。


ペペ・ボルダラス監督 写真:Getty Images

ロングボールとフィジカルを重視した監督

スペインのラ・リーガ1部ヘタフェのペペ・ボルダラス監督(2016-2021、2023-)は、ロングボールとフィジカルを重視し、結果、中盤でのゲームコントロールを無視した戦術の犠牲となったMF柴崎岳は活躍の場を失い、2部(現3部)のデポルティーボ・ラ・コルーニャへの移籍(2019-2020)を余儀なくされた。

それでもボルダラス監督は2021年、バレンシアに引き抜かれて低迷していた名門を立て直し、リーグ戦9位、スペイン国王杯では準優勝という成績を残した。翌2022年6月に成績不振で解任されると、2023年4月、古巣ヘタフェの指揮官に再就任している。

こうしたタイプの監督はいつの時代にもいるもので、後に世界的名将となったジョゼ・モウリーニョ監督(現フェネルバフチェ)も、ポルトで2003-04シーズンのUEFAチャンピオンズリーグ(CL)を制した頃は、このタイプの監督だった。

黒田監督は、青森山田高校で全国制覇を果たした高校サッカー指導者という経歴に加え、初めてプロチームを指導するなり、前年2022シーズン15位だったチームに改革をもたらし、圧倒的な強さで2023シーズンのJ2を制した“異分子”としてJ1に迎えられた。J1他クラブのサポーターは総じて“さて、お手並み拝見”といった気持ちだったことだろう。

しかしその強さは本物で、町田は2月24日のJ1開幕戦・ガンバ大阪戦(町田GIONスタジアム)で退場者を出しながら1-1で凌ぐと、その後、名古屋グランパス、鹿島、北海道コンサドーレ札幌、サガン鳥栖を相手に4連勝。一気に台風の目となる。


黒田剛監督 写真:Getty Images

黒田監督のイメージを決定付けた出来事

しかし、ロングスローを多用するスタイルや、セットプレーとカウンターに頼った戦術は他クラブのサポーターから色眼鏡で見られ、“面白くない”との評価を受け始める。そこに、黒田監督へのイメージを決定付ける出来事が起こる。

6月12日に行われた天皇杯2回戦の筑波大学戦。町田は終了寸前に追いつかれ、1-1からのPK戦で敗れると、同監督は自らのふがいなさを反省する一方で、4人もの負傷者を出したことに触れ主審への不満をぶちまけただけでなく、相手の筑波大学の選手に対して「非常にマナーが悪い」、さらにジュビロ磐田に入団が内定しているMF角昂志郎を名指しした上で「タメ口で、大人に向かっての配慮に欠ける」、小井土正亮監督に対しても「指導も教育もできていない」とまくしたてたのだ。

「批判は覚悟の上」と前置きしていたものの、アマチュア、しかも学生相手へのあまりにも大人げない発言は、下剋上が起きた試合以上にクローズアップされた。

さらにその翌週の6月15日に行われたJ1第18節、横浜F・マリノス戦(日産スタジアム/3-1)で逆転勝利した後のインタビューでは、出場した選手をねぎらうと同時に、筑波大学戦後の発言について問われると、「我々が正義。ダメなものはダメと訴えていく」と発言。自らが焚きつけた火に油を注いだのだ。

ここから黒田監督、および町田はJリーグ史上、類を見ない“悪役”イメージが定着してしまう。

その後は、ロングスロー時のタオル使用や、PK時のFW藤尾翔太のボールへの水掛け行為。8月17日の第27節ホーム磐田戦(4-0)において、藤尾に水掛け行為を見た高崎航地主審がボールを交換し、それに対し、町田イレブンが主審を囲んで猛抗議を行った。

また、首位攻防戦となった9月28日の第32節アウェイ広島戦(0-2)では、広島の控え選手にボール拭き用のタオルに水を掛けて濡らされた行為について“逆ギレ”。町田の原靖フットボールダイレクターがJリーグと広島側に「要望書」と称した抗議文を突きつける事態になった。

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名前:寺島武志

趣味:サッカー観戦(Jリーグ、欧州5大リーグ、欧州CL・EL)、映画鑑賞、ドラマ考察、野球観戦(巨人ファン、高校野球、東京六大学野球)、サッカー観戦を伴う旅行、スポーツバー巡り、競馬
好きなチーム:Jリーグでは清水エスパルス、福島ユナイテッドFC、欧州では「銀河系軍団(ロス・ガラクティコス)」と呼ばれた2000-06頃のレアルマドリード、当時37歳のカルロ・アンチェロッティを新監督に迎え、エンリコ・キエーザ、エルナン・クレスポ、リリアン・テュラム、ジャンフランコ・ゾラ、ファビオ・カンナヴァーロ、ジャンルイジ・ブッフォンらを擁した1996-97のパルマ、現在のお気に入りはシャビ・アロンソ率いるバイヤー・レバークーゼン

新卒で、UFO・宇宙人・ネッシー・カッパが1面を飾る某スポーツ新聞社に入社し、約24年在籍。その間、池袋コミュニティ・カレッジ主催の「後藤健生のサッカーライター養成講座」を受講。独立後は、映画・ドラマのレビューサイトなど、数社で執筆。
1993年のクラブ創設時からの清水エスパルスサポーター。1995年2月、サンプドリアvsユベントスを生観戦し、欧州サッカーにもハマる。以降、毎年渡欧し、訪れたスタジアムは50以上。ワールドカップは1998年フランス大会、2002年日韓大会、2018年ロシア大会、2022年カタール大会を現地観戦。2018年、2022年は日本代表のラウンド16敗退を見届け、未だ日本代表がワールドカップで勝った試合をこの目で見たこと無し。
“サッカーは究極のエンタメ”を信条に、清濁併せ吞む気概も持ちつつ、読者の皆様の関心に応える記事をお届けしていきたいと考えております。

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