敵陣でのパスミスから失点
なでしこジャパンは後半開始直後も縦に速い攻撃を主体に戦い、試合をコントロールしていたが、敵陣でのミスから失点してしまう。後半11分、右サイドでボールを受けた古賀が田中にパスを出すも、同選手が相手に寄せられていたためボールを奪われてしまう。この場面では古賀の斜め後ろに長野が立っていたため、そこにボールを渡して攻撃を作り直すのが望ましかったが、マークされていた田中へのパスを選んだためにブラジルに速攻のチャンスを与えてしまった。
この直後にセンターサークル付近でマルタに攻撃の起点を作られ、ブラジルの速攻を浴びると、これを後半から出場したMFジェニフェルに物にされる。ここまで試合を掌握できていただけに、注意力に欠けるパスミスだった。
ブラジルに先制されてからも、なでしこジャパンは最前線の田中を起点とする守備からチャンスを作る。後半23分にもこの守備を繰り出し長谷川がボールを奪うと、左ウイングバックの守屋がゴール前へクロスを送る。このパスをコントロールした田中が右足で強烈なシュートを放ったが、相手GKロレナの好セーブに阻まれる。前半のPKストップに加え、ここでもロレナが田中やなでしこジャパンに立ちはだかった。
清家、谷川がもたらしたダイナミズム
グループステージ連敗危機に陥ったなでしこジャパンの池田太監督は、失点直後にFW植木理子、同25分にMF清家貴子(現ブライトン・アンド・ホーブ・アルビオン女子)を投入する。三菱重工浦和レッズレディースに在籍した2023/24シーズンのWEリーグで自慢の快足からゴールやチャンスを量産し、得点女王とリーグMVPに輝いた清家。スペイン戦では左サイドハーフで起用され不完全燃焼に終わったが、浦和時代に慣れ親しんだ右サイドで今回起用されたことで、プレーの窮屈さが解消されることに。後半32分には浦和時代のチームメイト、DF高橋(現浦和)のロングパスに反応し、右サイドを疾走。早速チャンスを作った。
後半35分には19歳MF谷川萌々子とFW千葉玲海菜が投入される。右ウイングバックで起用された快足MF清家、そして正確なロングキックや球際での強さに定評があり、2ボランチの一角に入った谷川は、途中出場組のなかでも持ち味を遺憾なく発揮。谷川の二手三手先を読んだプレーと、敵陣ペナルティエリア両隅(ハーフスペース)への侵入が得意な清家の特長が絡み合ったのが後半38分の攻撃シーンで、ここでは谷川から清家のパスが繋がりかけている。谷川と清家の持ち味により、なでしこジャパンの攻撃にダイナミズムがもたらされた。
迎えた後半44分、清家のクロスボールを受けた谷川が敵陣ペナルティエリア内でドリブルを仕掛けると、これをスライディングで止めようとしたDFヤスミムの腕にボールが当たる。これがハンドの反則と判定され、なでしこジャパンに再びPKが与えられると、キッカーを務めたキャプテン熊谷がこれを落ち着いて物にした。
このまま引き分け決着と思われた後半アディショナルタイム6分、自陣からパスを回そうとしたブラジルの最終ラインへ長谷川がプレスをかけ、パスミスを誘発。このボールを回収した清家がドリブルを仕掛け、これは不発に終わるも、同選手が相手DFラファエレに素早く寄せたことでまたもパスミスを誘う。このこぼれ球に反応した谷川が相手GKロレナの頭上を越えるロングシュートをワンタッチで放ち、決勝ゴールを挙げた。
日本女子サッカー史に深く刻まれるであろう19歳谷川のスーパーゴールで、なでしこジャパンは逆転勝利。グループステージ突破に望みを繋いだ。
なでしこジャパンの真の問題点は
スペイン戦から戦い方を切り替えたのが功を奏したとはいえ、グループステージ突破やメダル獲得に向け不安が無くなったわけではない。今回のブラジル戦では、前述の通り自陣後方からパスを回す際(ビルドアップ時)の攻撃配置の悪さを棚上げしたにすぎず、ゆえに戦術の幅が広がったとは言い難い。現状では相手チームがロングパスでなでしこジャパンのハイプレスを掻い潜る、もしくは前線からの緻密な守備で同代表のビルドアップを妨害してきたときに、攻守が崩壊する可能性が高い。ハイプレスからの縦に速い攻撃の一本槍に切り替えたことが吉と出るのか。また、これを封じられた際の攻撃オプションをなでしこジャパンの選手たちや池田監督が編み出せるのか。この2点が今後の見どころであり、なでしこジャパンの命運を左右するポイントとなりそうだ。
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