日本代表 女子サッカー

なでしこジャパン、パリ五輪メダル獲得へ暗雲。スペインに見透かされた守備戦術

アイタナ・ボンマティ 写真:Getty Images

先制後も守備修正できず

何とか先制点をもぎ取ったものの、なでしこジャパンはこれ以降もスペイン女子代表の2インサイドハーフ、ボンマティとプテジャスを捕まえきれない。この2人がなでしこジャパンの2ボランチ長谷川と長野の斜め後ろから現れ、味方からのパスを引き出そうとしていたのが苦戦の原因だった。

スペイン女子代表の両サイドバックに対し、なでしこジャパンの両サイドハーフ清家と宮澤がそのままアプローチしていたが、これにより開いたなでしこジャパンのサイドハーフとボランチ間をボンマティやプテジャスに狙われる場面もちらほら。長谷川と長野が懸命にボンマティとプテジャスを捕まえようとしたものの、そもそも自身の背後を突かれているため、寄せがワンテンポ遅れていた。

スペイン女子代表にボールを保持され自陣で釘付けにされると、前半22分になでしこジャパンの撤退守備が崩壊。同代表2トップの脇でボールを受けたプテジャスを起点にスペイン女子代表のパスワークが始まると、これにボンマティとギハーロが関わり、ボールが右サイド(なでしこジャパンの左サイド)へ展開される。その後デルカスティージョのラストパスを受けたボンマティがペナルティエリアへ侵入し、GK山下杏也加との1対1を制している。この場面ではなでしこジャパンの南とDF熊谷紗希の2センターバック間が開き、ここをボランチの長野が埋めようとしたものの、同じスペースを狙っていたボンマティの動き出しが勝った。


後半開始直後の両チームの布陣

実らなかった布陣変更

なでしこジャパンを率いる池田太監督は、後半開始前に清家を下げFW浜野まいかを投入。さらに基本布陣を[4-4-2]から[3-4-2-1]へ変更した。

相手ボール時には浜野と藤野の2シャドーがサイドへ降り、[5-4-1]の守備隊形をセット。自陣や中盤を徹底的に埋め、スペイン女子代表のパスワークを停滞させる意図が窺えたが、逆効果の感が否めなかった。

[5-4-1]の隊形のデメリットは、1トップの周辺で相手にボールを保持されやすいうえ、攻撃の起点を多く作られてしまうこと。この弱点が顕著に表れ、なでしこジャパンは前半以上に自陣で耐え忍ぶ展開に。三菱重工浦和レッズレディースに所属した2023/24シーズンで自慢の快足からチャンスやゴールを量産し、得点女王とリーグ最優秀選手に輝いた清家(現ブライトン・アンド・ホーブ・アルビオン女子)を交代させてしまったことで、ボールを奪った後の速攻の威力も落ちてしまった。

迎えた後半29分、なでしこジャパンはスペイン女子代表FWマリオナ・カルデンティとボンマティのパス交換を止められず、自陣右サイドからピンチを迎える。最終的にはペナルティエリアへ侵入したカルデンティにシュートを放たれ、勝ち越しを許した。


清水梨紗 写真:Getty Images

2023W杯の再現とはならず

2023FIFA女子ワールドカップ(W杯)のグループステージ第3節で、なでしこジャパンはスペイン女子代表と対戦。この試合におけるなでしこジャパンの基本布陣も[5-4-1]、速攻を軸とする戦い方で最終スコア4-0と勝利したものの、最前線を起点とする守備が機能していたわけではない。相手2センターバックから中盤の底へのパスを遮断しきれず、危ない場面をいくつか作られており、最終スコアとは裏腹に試合内容は拮抗していた。

[4-4-2]と[3-4-2-1]。この2つの布陣で昨年のW杯覇者スペイン女子代表に挑んだが、どちらも守備の練度や機能性が低く、弱点も相手に見透かされていた感が否めない。今回の初戦で浮き彫りとなった漫然とした守備を改善できなければ、グループステージ敗退という最悪のシナリオも現実味を帯びてくる。パリ五輪黒星スタートのうえ、かねてよりなでしこジャパンの攻守を支えてきたDF清水梨紗がこの試合で負傷交代。大会メンバーからの離脱が発表されている。2012年のロンドン五輪以来となるメダル獲得を目指す同代表が、早くも窮地に立たされた。

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名前:今﨑新也
趣味:ピッツェリア巡り(ピッツァ・ナポレターナ大好き)
好きなチーム:イタリア代表
2015年に『サッカーキング』主催のフリーペーパー制作企画(短期講座)を受講。2016年10月以降はニュースサイト『theWORLD』での記事執筆、Jリーグの現地取材など、サッカーライターや編集者として実績を積む。少年時代に憧れた選手は、ドラガン・ストイコビッチと中田英寿。

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