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ユーロ2024の感動的な敗退エピソード3選

イワン・ハシェック監督 写真:Getty Images

チェコ代表:史上最多のカードが飛び交った大乱戦

チェコ代表は、選手時代から日本にもゆかりがあるイワン・ハシェック監督が率いた。1994年から96年までサンフレッチェ広島とジェフユナイテッド市原でプレーし、2004年にヴィッセル神戸の監督を務めている。

グループFのチェコは、後がなくなりトルコ代表を相手に勝つしかなくなった3試合目で壮絶な試合を繰り広げた。まずはMFアントニン・バラーク(フィオレンティーナ)が11分にユニフォームを引っ張り、20分には踏みつけ行為で2枚のイエローカードを受けて退場処分となったことで、この試合の運命が決定的なものになる。

51分についに失点すると、そのプレーでGKが負傷した。1人少ない上に、アクシデントがなければベンチに下げることはほとんどないGKに貴重な交代枠を使ってしまった。もはや、絶体絶命かと思われた。しかし、ここから10人のチェコによる一世一代の反撃が始まる。

守備を固めるトルコに対して果敢に攻めると、66分にゴール前に上がったボールに競り合ったGKがファンブル(一度はボールをキャッチしたものの、落としてしまうこと)。そのこぼれ球をキャプテンのFトマーシュ・ソーチェク(ウェストハム・ユナイテッド)が拾ってシュートを決め、1-1の同点に追いつく。ハシェック監督は、ベンチを飛び出して両拳を握って渾身のガッツポーズだ。

チェコは、ここでさらに攻め続ける。10人相手に当然、勝たなければならないトルコも攻めに転じたため、ノーガードの打ち合いになった。満身創痍のチェコは、簡単にクリアするのではなくディフェンスラインからドリブル突破して数的不利をどうにか克服し、逆転のチャンスも訪れた。

しかし、身体の現実を気持ちが越えてしまい、脚が痙攣しコントロールミスも出はじめた。そして90+4分にトルコが勝ち越すと万事休した(1-2)。

チェコ代表 写真:Getty Images

ボールポゼッションはトルコの62%に対してチェコが38%。シュート数は17本に対して12本だった。走行距離は110.5kmに対して109.8kmと遜色ない。ボールはトルコが支配しながら、1人少ないチェコは動き回り、しっかりとシュートを打った。チェコが辛抱強く耐えて、いざボールを持ったら躍動し深く刺すような攻撃を仕掛けたことをこのデータは示している。

退場者が出てチームにいいことは何一つない。ユーロ史上最多となるイエロー16枚、レッド2枚のカードが飛び交った大乱戦となった。あの退場のレッドカードが提示された瞬間にサッカーの魔物が目覚めたような気がした。

壮絶な試合を終えて挨拶に行ったチェコの選手たちに、サポーターは大きな拍手を送った。「あんな物凄い戦いを魅せてくれたら勝ち負けなんか、もうどうでもいい…」そんなスッキリした心持ちだったことだろう。サッカーは頭数ではなく、ハートと熱量でプレーするものだということを、この試合は教えてくれた。

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名前Takuya Nagata
趣味:世界探訪、社会開発、モノづくり
好きなチーム:空想のチームや新種のスポーツが頭の中を駆け巡る。世界初のコンペティティブな混合フットボールPropulsive Football(PROBALL)を発表。

若干14歳で監督デビュー。ブラジルCFZ do Rioに留学し、日本有数のクラブの一員として欧州遠征。イングランドの大学の選手兼監督やスペインクラブのコーチ等を歴任。アカデミックな本から小説まで執筆するサッカー作家。必殺技は“捨て身”のカニばさみタックルで、ついたあだ名が「ナガタックル」。2010年W杯に向けて前線からのプレスを完成させようとしていた日本代表に対して「守備を厚くすべき」と論陣を張る。南アでフタを開けると岡田ジャパンは本職がMFの本田圭佑をワントップにすげて守りを固める戦術の大転換でベスト16に進出し、予言が的中。

宇宙カルチャー&エンターテインメント『The Space-Timer 0』、アートナレッジハブ『The Minimalist』等を企画。ラグビーもプレーし広くフットボールを比較研究。

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