AFCチャンピオンズリーグ(ACL)2023/24決勝の第1戦が、5月11日に横浜国際総合競技場にて行われた。この試合でアル・アイン(アラブ首長国連邦)を本拠地に迎えた横浜F・マリノスが、最終スコア2-1で勝利。現地時間5月25日に開催予定の、敵地での第2戦を前に優位に立っている。
ここではアル・アインの戦術を解説しながら、今回の第1戦を振り返る。現地取材で得たアル・アインのエルナン・クレスポ監督や横浜FMのFW植中朝日の試合後コメントも紹介したうえで、アウェイチームの特長やホームチームの第2戦に向けた課題に言及したい。
19年ぶりに再会のクレスポとキューウェル
アル・アインをACL決勝の舞台へ導いたクレスポ監督は、かつてアルゼンチン代表やイタリア・セリエAの名門パルマ、ラツィオ、インテル、ミランのFWとして活躍。ミランに在籍した2004/05シーズンには欧州最強クラブを決めるUEFAチャンピオンズリーグ決勝に出場しており、このときの対戦相手リバプールの選手として同じピッチに立っていたのが、現在横浜FMを率いるハリー・キューウェル監督だ。
そのUEFAチャンピオンズリーグ決勝では、ミランがクレスポの2ゴールを含め前半に3点のリードを確保したものの、リバプールも後半に3ゴールを挙げるという怒涛の展開に。スコア3-3のまま延長戦でも決着せず、PK戦の末リバプールがこの激闘を制している。
3点ビハインドからビッグイヤー(※)を手に。このリバプールの偉業は決勝の開催地にちなみ、「イスタンブールの奇跡」として世界中のサッカーファンに語り継がれている。19年前に名勝負を繰り広げたクレスポとキューウェルが、横浜の地で監督として再会した。
(※)UEFAチャンピオンズリーグのトロフィー。取っ手の形が人間の耳(イヤー)に似ており、この異名がついた。
クレスポ戦術が威力を発揮
お馴染みの[4-1-2-3]の基本布陣でこの大一番に臨んだ横浜FMに対し、アル・アインのクレスポ監督は[4-4-2]や[4-2-3-1]の守備隊形で応戦。横浜FMの中盤の底、MF喜田拓也のマーク役をFWアレハンドロ・ロメロ(2トップの一角やトップ下)に担わせた。
これに加え、パク・ヨンウとヤヒア・ナデルの両MF(2ボランチ)が、横浜FMの2インサイドハーフ植中とMFナム・テヒを捕捉。「相手の身体能力の高さをこの試合で痛感しました。普段であれば、自分の特長であるボールを収めるプレーができる場面でも、相手の(足の)リーチが長くてボールを失いました」と植中が試合後の会見で明かした通り、ほぼマンマークの守備にホームチームの2インサイドハーフは手を焼いていた。
また、パクとナデルの2ボランチは適宜味方センターバックとサイドバック間へ降り、自軍の守備を引き締め。4バックの泣きどころであるこのスペースを埋められたことで、横浜FMは攻めあぐねた。
アル・アインの速攻が結実
[4-4-2]や[4-2-3-1]の布陣での撤退守備、なおかつ横浜FMの2インサイドハーフをほぼマンツーマンで捕捉。これに加え奪ったボールを素早く前線へ送り、高く保たれた横浜FMの最終ライン背後を突くというクレスポ監督のゲームプランが、アル・アインの選手たちに浸透していた。
迎えた前半12分、アル・アインは自陣でスローインを獲得すると、このこぼれ球が横浜FMのDFエドゥアルド(センターバック)の背後に落ちる。エドゥアルドとの走り合いを制したMFソフィアン・ラヒミが横浜FMのGKポープ・ウィリアムと1対1の状況となり、同選手のシュートはポープに防がれたものの、セカンドボールをMFモハンメド・アルバルーシが横浜FMが守るゴールへ押し込んだ。
幸先良く先制したアル・アインは、前半29分にも自陣からのロングパスが前線で収まり、ここからの速攻でMFマティアス・パラシオスが横浜FMの最終ライン背後を突く。パラシオスのシュートはGKポープの股下を抜け、ゴールマウスに吸い込まれた。
このゴールはオフサイド判定により取り消されたものの、アル・アイン陣営の狙い通りの攻撃だったと言える。「我々はこのやり方(速攻)でACLを戦ってきましたし、決勝の舞台にたどり着きました。このやり方にはクオリティーが伴っていて、我々はこれに自信を持っています。今日に関してはなかなか得点機会がありませんでしたが(追加点には至りませんでしたが)、効果的な機会は作れたと思います」。このクレスポ監督の試合後会見コメントの通りに、試合は推移していた。
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