川崎Fは国内屈指の万能型チームに
ジョゼップ・グアルディオラ監督時代のバルセロナを彷彿とさせる流麗なパスサッカーで、Jリーグを彩ってきた川崎F。風間八宏前監督時代からの強みである精巧なパスワークはそのままに、2017シーズンより指揮を執る鬼木監督のもとで、あらゆる試合展開に対応できる万能型チームへと変貌。同年のJ1リーグ制覇を皮切りに、多くのタイトルを手にしてきた。
鬼木体制下で培われた川崎Fのこの特長は、今回の天皇杯決勝でも発揮されることに。試合開始の笛とともに柏にロングボールを放り込まれ、その後も柏のハイプレスや速攻を浴びたが、先述の通りこれを凌いでみせた。
攻撃面では自陣後方からの丁寧なパス回し(遅攻)と、相手最終ラインの背後をダイレクトに狙う速攻。守備面では相手最終ラインを強襲するハイプレスと、自陣や中盤への撤退。今回の天皇杯決勝のような劣勢の試合でも、これらを相手の出方に応じて選び、勝機を見出していく。
このしたたか且つオールマイティーな戦いぶりは、まるで1990年代後半から2000年代前半にかけて数多の国内タイトルを勝ち取り、2007年から2009年にかけてJ1リーグ3連覇を成し遂げた鹿島アントラーズのようだった。
川崎Fに染み付いた「タイトルを獲るときの空気感」
試合後に行われた記者会見(質疑応答)で、鬼木監督は柏に主導権を握られた時間帯について反省。そのうえで、苦境を乗り越えた選手たちを称えている。
ー柏のペースで長い時間試合が進みました。自分たちのサッカーができなかった原因は何でしょう。
「選手同士の距離感が遠くなっていたと思います。2センターバックのところで(ボールを保持できる)時間はありましたけど、アンカー(中盤の底)や右サイドで、(ボールを)なかなかピックアップできない状況が続いてしまいました」
「ポジションがすべて中途半端でしたね。(中盤の選手が最終ラインへ)降りるなら降りきるとか。(最終ラインを)3枚にしてパスを回すよう、途中から指示を出しましたけれど、(強力な)カウンターがあるチームが相手でしたので、中央にパスを付けるのを怖がってしまったのかなと。どこで起点を作るのかをはっきりとさせてあげられなかったのは、自分の力(不足)だと思っています」
ー選手に鬼木監督の話を訊くと、「あんな負けず嫌いな人はいない」という答えが皆さんから返ってきます。(昨2022シーズンなど川崎Fが)無冠だった期間は、負けず嫌いの鬼木監督にとって苦しいものだったと思います。タイトルへの思いを何度も口にされていて、今回(の天皇杯決勝で)獲りました。今のお気持ちを教えてください。
「タイトルはどんな形でも獲り続けないと、獲れないことに慣れてしまいます。タイトルを獲るときの空気感という、どうしても言葉では説明できないものを選手に味わってほしい。次の世代にも伝えてほしいと思っています。それはすごく必要なことですね。(こうした意味で)タイトルを獲れたのは喜ばしいことだと思います」
「ただ、この大観衆のなかで自分たちのサッカーで勝利できたかというと、そうではありません。非常に悔しさが残っていますし、もっともっとやっていかなきゃいけない。チームの底上げのところ(必要性)を感じています」
「ただ、どんな状況でも、苦しいなかでも勝てるというのは簡単なことではありません。これは本当に説明が難しいですけど、全員が本当に細かいところにこだわって、全員が勝ちにこだわらないと優勝はないと思っているので、そこは選手の成長を感じています」
鬼木体制がスタートした2017シーズン以降、川崎FはJ1リーグを4回制覇。これに加えルヴァンカップ優勝1回、2度の天皇杯制覇を成し遂げている。かつて鹿島の選手だった鬼木監督が、川崎Fに勝者のメンタリティーや逆境を乗り越えるための忍耐力をも植え付けた。
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