Jリーグ

元国際審判員、佐藤隆治氏が総括。2023年JリーグのVARの問題点は

2018 FIFAワールドカップ 佐藤隆治氏 写真:Getty Images

なぜ「サポート」という言葉を排除したのか

「(主審の判定が)間違っているとは言い切れない。だからサポートしますよ。この言葉を(主審とのやり取りのなかで)VARが使うとどうなるか。ある判定をレフェリーが下した。これを正しいとするのか、改善(VARが介入)しなければならないのかを決断するときに決めきれない」

「(現場の審判団とVARは)同じ審判仲間です。場合によっては先輩と後輩が組みます。キャリアの上下や経験年数など、様々な事情があります。自分の仲間がピッチ上で判断しているものをフォロー(尊重)してあげたい。こうしたマインドに当然なるんです。なので、心を鬼にしてサポートという言葉を使うなと、(VAR担当審判員には)言いました」

「(佐藤氏が招集された2018年の)FIFAワールドカップ・ロシア大会で、(主審と)同国の審判員がVARで失敗したのを目の前で見てきました。これは介入しなきゃダメなのではと、頭の中では思いつつも、何とかサポート(フォロー・尊重)できるんじゃないかと。この結果、正しい判定ができなかった。なのでサポートという言葉を使わないと、この場で宣言します」

「主審と話してはいけない(交信してはいけない)とは言いません。ただ、『(主審は)どう見たの?』という話をすればするほど、サポートしたいという気持ちになる。これは人や世の流れ(自然な感情)だと思います。ただ、話すことでVARが本当にコンファームかレビューかの決断をできますか。あと、時間はどうですか。結果として正しいジャッジになっても、レビューに3分も4分も5分もかかったら、選手やベンチスタッフ、サポーターの皆さんが納得してくれますか。僕らの判定を受け入れてくれますか。なので、(無駄な)時間はかけないようにしましょうと。決断のための最小限の交信は良いですが、『原則喋るな』と(VAR担当審判員には)言っています」


Jリーグのフェアプレーフラッグ 写真:Getty Images

佐藤氏「僕の味付けが濃すぎた」

主審による「はっきりとした明白な間違い」をなくす。これがVAR制度の根本精神であり、佐藤氏もこの大前提をモニタリングを担う審判員に強調したことを明かしたが、これによる弊害が今2023シーズンのJリーグで生じていたようだ。

「どこの国や大陸かは言いませんが、『はっきりとした明白な間違い』という言葉を使わない(考慮していない)リーグがあります。なぜかと言うと、『はっきりとした』というのは、結局(各々の)主観だから。これは明らかな間違いだと思う、けど別の人にとってはそうは思えない(という議論が起こる)。なので、この言葉をVAR介入条件に使うなと徹底しているリーグがあります」

「でも、それで何が起こるかと言えば、VAR介入のバー(ハードル)が下がるんです。VARとしては、『もう、主審に映像を見せればいいじゃん』、『(何でもかんでも)主審が映像を見て、それで判断してもらえば良い』という流れになる」

「VARの介入回数が増えるほど、判定の正しさは保証されるかもしれない。けど、流れ(プレーの連続性や、プレーが途切れない様子)が大事なサッカーというスポーツで、15分おきに試合が止まる。これは望まれた形ではないと思います」

「我々(JFA)は、『はっきりとした明白な間違い』という言葉をVAR介入条件に残しています。ただ、VARがコンファームかレビューかを決断する際に、この言葉を意識しすぎてしまった。それによって、(本来VARが)介入しなければならない場面でできなかったものがあった。僕自身のメッセージの味付けが濃すぎたなと。彼ら(VAR担当審判員)が決断するときに、ぶれてしまったことの原因のひとつは僕にある。これが僕個人の反省です」

佐藤氏の報告によれば、2023シーズンのJリーグで、VARに関するエラーが24件あったとのこと。このうち16件が、本来であれば主審にオンフィールドレビュー(※)を進言すべきものであった。このエラー数が、来年以降減少することに期待したい。

(※)VARの提案をもとに、主審が自らリプレイ映像を見て最終の判定を下すこと。

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名前:今﨑新也
趣味:ピッツェリア巡り(ピッツァ・ナポレターナ大好き)
好きなチーム:イタリア代表
2015年に『サッカーキング』主催のフリーペーパー制作企画(短期講座)を受講。2016年10月以降はニュースサイト『theWORLD』での記事執筆、Jリーグの現地取材など、サッカーライターや編集者として実績を積む。少年時代に憧れた選手は、ドラガン・ストイコビッチと中田英寿。

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