Jリーグ アビスパ福岡

売上高は浦和の3分の1。アビスパ福岡を強くした長谷部監督のマネジメント術

アビスパ福岡 長谷部茂利監督 写真:Getty Images

モチベーターとしての伝達術

今季、福岡は開幕前から「リーグ戦8位以上、カップ戦ベスト4以上」という目標を打ち出していた。天皇杯はベスト4、ルヴァン杯は優勝、そしてリーグ戦もあと3試合を残す現時点8位と全ての目標を達成し得る状況だ。現状を正確に分析して立てた目標であると同時に「J1に居続け、ベスト4に入り続けたらカップ戦で優勝するチャンスが必ずあります。それが今回です」と目標を定めた狙いを語っている。

天皇杯、ルヴァン杯ともに勝ち進んでも、長谷部監督は優勝という言葉をなかなか発しなかった。ようやく選手たちにその言葉を伝えたのは、ルヴァン杯と天皇杯ともにベスト4という当初の目標を達成したあとのタイミングだ。川森会長も「(長谷部監督は)モチベーターですね。全ての物事はチームが勝つために、という軸があります。発する言葉は全て勝つための発信だと思っています」と語っており、常に選手のモチベーションを考えて発言していることが分かる。


アビスパ福岡 MF井手口陽介 写真:Getty Images

限られた経済状況での工夫

2022年度の各クラブごとの売上高を見ると、福岡はJ1リーグ18クラブ中16位で約28億円。前年度と比べると約7億円増加しているものの、リーグトップで決勝戦の対戦相手でもあった浦和の約81億円と比べると3分の1ほどに留まる。長谷部監督は「資金が乏しいとは思っていない。他のビッグクラブに比べると少ないだけ」と語るが、一方で「我々は5億も6億もする選手を獲ったりはできない。Jリーグの中で大活躍した選手にはなかなか来ていただけません。そういう中でどうしたらいいか、選手編成を含めて考えています」と工夫を明かす。

実際に、ルヴァン杯の決勝戦で2アシストの活躍をみせたMF紺野和也はFC東京時代レギュラーを掴めなかった選手であり、ピッチを縦横無尽に駆け巡り勝利に貢献したMF井手口陽介もセルティック(スコットランド)で不遇の時を過ごしていた選手。その他にもJ1で出場機会を得られなかったり、J2で過ごしていた選手がほとんどだ。経験値が少なくてもチーム戦術に合致する選手を獲得し、個々の特長を伸ばしてきた長谷部監督。

ビッグタイトルを獲得したことで、今後他チームからの警戒心は増すだろう。サイドに追い込むプレスを剥がす術や、コンパクトな守備ブロックを突き破る方法も分析されるはずだ。現在も続く守備のベースを作った2020シーズン、強度を上げ守り勝った2021シーズン、速攻以外の構築を目指すなかコロナ渦に巻き込まれながらも残留を掴んだ2022シーズン、昨年のリベンジをしてビルドアップを磨いた2023シーズン。今後も良い結果を残すためにさらなる進化を求められるが、特別何かを大きく変えることはないだろう。ベースはあくまでも身体を張った泥臭い守備。祝勝会で次の目標を訊かれたキャプテンのDF奈良竜樹が「アウェイでガンバ(大阪)に勝つ!」と力強く誓ったように、チームの意識はリーグ次戦に向けられている。偉業を成し遂げてなお、これまで通り1試合1試合を全力で戦っていく福岡から目が離せない。

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名前椎葉 洋平
趣味:サッカー観戦、読書、音楽鑑賞
好きなチーム:アビスパ福岡、Jリーグ全般、日本のサッカークラブ全般

福岡の地から日本サッカー界を少しでも盛り上げられるよう、真摯に精一杯頑張ります。

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