Jリーグ アビスパ福岡

売上高は浦和の3分の1。アビスパ福岡を強くした長谷部監督のマネジメント術

アビスパ福岡 長谷部茂利監督 写真:Getty Images

11月4日に開催された浦和レッズとのYBCルヴァンカップ(ルヴァン杯)決勝に2-1で勝利し、クラブ初タイトルを獲得したアビスパ福岡。長い間、昇降格を繰り返しJ1に定着できず「エレベータークラブ」と呼ばれていた。昨2022シーズンのクラブ予算はJ1リーグ18チーム中16位だったチームが、なぜタイトルを獲れるまでに成長したのか。要因は様々だが、間違いなく大きな割合を占めるのは2020年からチームを率いる長谷部茂利監督の手腕だろう。

ここでは、選手からもサポーターからも愛される長谷部監督の偉業と手腕について紐解いていく。


アビスパ福岡 長谷部茂利監督 写真:Getty Images

卓越したマネジメント力

2019シーズンの福岡は、J2で16位に沈んでいた。ところが、長谷部監督就任1年目の2020シーズンはJ2を2位で終えJ1に昇格、2年目はJ1で8位の成績を残し、3年目もJ1に踏みとどまりルヴァン杯ではベスト4、そして4年目の今2023シーズンは第31節終了時点の現在J1で8位。さらに先日手にしたルヴァン杯での優勝と着実なステップアップを遂げてきた。

柳田伸明強化部長は、水戸ホーリーホックを率いていた長谷部監督を福岡に招聘した理由をこう明かす。「勝ち点を持っている監督だからオファーしました。加えて言葉のかけ方や起用法など、選手をものすごくリスペクトをされている方だと思っています」

長谷部監督は常に丁寧な言葉遣いで選手に接し、チームでは「監督」ではなく「シゲさん」と呼ばれている。全員を平等に扱い、出場機会の多くない選手が「控え」と呼ばれるのを嫌う。それは自身の選手時代「自分がそういう立場の選手だった」という苦しい経験が影響しているようだ。選手たちからの信頼が非常に厚く、チームの雰囲気が良いことは、複数の選手が「アビスパは本当に選手同士の仲が良い」「監督への不満を一切聞いたことがない」と語っていることからも明らかだ。

ルヴァン杯決勝戦では、優勝が決まった瞬間、ベンチにいた選手たちが監督のもとへと駆け寄る姿が見られた。長谷部監督がマネジメント力を発揮する相手は、選手たちだけにとどまらない。コーチやスタッフ全てをフラットに見て信頼を寄せる監督は「選手もスタッフも何ら変わりない。私もコーチもアシスタントコーチも通訳も1人。奈良(竜樹)は大事なキャプテンだけれども、それでも選手の1人」と語っている。

チームに関わる全員を信頼している監督と、その信頼を感じながら個々人が良い仕事をするなかで現在のチームが形成されている。信頼関係があるからこそ練習時はある程度コーチに任せ、自身は他の準備や片付け、そして選手たちを見ることに集中。日々の細かな変化を逃さない観察力が、柔軟なマネジメントへと繋がっている。


アビスパ福岡 長谷部茂利監督 写真:Getty Images

勝利へのこだわりとフェアプレー精神

時には際どい発言をして他クラブのサポーターから批判を浴びることもある長谷部監督だが、チームが勝利するためには矢面に立つことを厭わない。というより「彼は未だにガラケーだから、選手がSNSで上げているものを何も見ていないし、何も気にしていない」(川森敬史会長)という発言から想像するに、匿名で発せられる喧騒はおそらく知りもしない。

通常、アウェイでの試合は前日移動が多く見られるが、浦和との決勝戦に向けては2日前から東京に入っていた福岡。これは1%でも勝つ可能性を上げたいという考えの表れであり、勝利へのこだわりを感じる。守備をベースにした戦い方も勝利を求めるがゆえだ。「自分の理想的なプレースタイル、プレーモデルはありますが、自分たちに最適なものを、できるものを、監督やコーチングスタッフ、選手で何ができるのかというところから選んでいる」と語っており、優先順位がブレることはない。

勝利のためなら何でもするかといえばそうではない。昨2022シーズンの第28節、名古屋グランパス戦(2-3)で起きた事案がそれを象徴している。判断ミスなどによる疑惑のプレーで福岡がゴールを挙げると、長谷部監督が選手に指示し、名古屋に「お返しゴール」として1ゴールを献上した。その際「何が何でも勝ちたいです。だけども、そういうことしてまでというのはちょっと違うと思う」と語り、フェアプレー精神とリスペクトを欠かさない姿勢を貫いた。

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名前椎葉 洋平
趣味:サッカー観戦、読書、音楽鑑賞
好きなチーム:アビスパ福岡、Jリーグ全般、日本のサッカークラブ全般

福岡の地から日本サッカー界を少しでも盛り上げられるよう、真摯に精一杯頑張ります。

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