Jリーグ 湘南ベルマーレ

見透かされた湘南のハイプレス。試合巧者の浦和に屈する【J1リーグ2023】

浦和レッズ FWホセ・カンテ 写真:Getty Images

浦和のミスに助けられただけの湘南

前半5分には、MF伊藤敦樹(ボランチ)がセンターバックの岩波と右サイドバックの酒井の間へ降り、湘南のMF平岡(インサイドハーフ)をサイドへおびき寄せる。これにより空いたセンターサークル付近へ浦和の右サイドハーフ大久保が立ち、岩波からの縦パスを捌いた。

大久保からFWホセ・カンテへのヒールパスは惜しくも繋がらず、ここから湘南の速攻が始まったものの、このホームチームの攻撃は浦和陣営のパスが僅かにずれたことによる現象。ゆえにハイプレスの成果ではない。大久保に対する湘南DF大野和成(センターバック)の寄せも遅れており、チーム全体としてのハイプレスの連動性は決して高くなかった。

伊藤の巧みなポジショニングにより、平岡がサイドに釣り出された

湘南がハイプレスでボールを奪えたのは、相手選手が技術的なミスを犯したとき、もしくは浦和の両サイドバックが自陣後方のタッチライン際でボールを受けるなど、相手の攻撃配置が悪かった場面のみ。浦和の隊形変化への準備ができていたわけではなく、時折見られた相手のミスに助けられていたにすぎなかった。

見方を変えれば、湘南がハイプレスを仕掛けてくるのを想定し、隊形変化のパターンを複数用意していた浦和の試合巧者ぶりが光った一戦と言えるだろう。


湘南ベルマーレ DF畑大雅 写真:Getty Images

改善されない湘南の悪癖

GKや最終ラインからのパス回しの際、ウイングバックが自陣後方のタッチライン際や味方センターバックとほぼ横並びの位置へ降りてしまい、相手のハイプレスの的となってしまうのが湘南が長きに渡り改善できていない悪癖。この試合の序盤こそ、杉岡大暉と畑大雅の両DF(両ウイングバック)から高い位置をとろうとする意識は窺えたが、前半の飲水タイム終了後からポジショニングが悪くなってしまった。

前半27分の湘南の攻撃シーンが、この典型例。ここではDF岡本拓也(センターバック)がボールを保持した際、右ウイングバックの畑が自陣後方のタッチライン際に降りてきてしまっている。ゆえに浦和のMF明本考浩(左サイドバック)のプレスに晒されてしまった。

MF田中聡(中盤の底)が浦和のMF安居海渡に捕捉されているにも関わらず、湘南の2インサイドハーフ(平岡とMF池田昌生)によるサポートが無かったことが、畑が自陣後方へ下がらざるを得なくなった原因。縦に速く攻める意識が強すぎたのか、ここでは湘南の陣形が前後に間延びしていた。

自陣後方でボールを受けた畑は、右サイドに流れてきた池田とのパス交換を試みたものの、岩尾にボールを回収されてしまう。その後岩波に縦パスを繰り出されてしまい、逆にホームチームが浦和の速攻を浴びた。

相手の隊形変化への準備不足と、2インサイドハーフがビルドアップに関与しないことに起因する、ウイングバックの自陣後方でのパス受け取り。この2点が改善されない限り、湘南のJ1残留は覚束ない。

ページ 2 / 2

名前:今﨑新也
趣味:ピッツェリア巡り(ピッツァ・ナポレターナ大好き)
好きなチーム:イタリア代表
2015年に『サッカーキング』主催のフリーペーパー制作企画(短期講座)を受講。2016年10月以降はニュースサイト『theWORLD』での記事執筆、Jリーグの現地取材など、サッカーライターや編集者として実績を積む。少年時代に憧れた選手は、ドラガン・ストイコビッチと中田英寿。

筆者記事一覧