イングランドの準決勝での戦いぶり
8月16日に行われた準決勝2戦目オーストラリアVSイングランド。イングランドは7日のナイジェリア戦でレッドカードを受けたFWローレン・ジェームズが不在。オーストラリアはワールドクラスのストライカーFWサム・カー(チェルシー・)が怪我から復帰し、今W杯初の出場となった。自国の試合であり、カー復活の準決勝という事もあり、当日の試合会場オリンピック・スタジアム(収容人数83,500)はほぼ満席状態となった。
試合前半、イングランドはキャプテンのDFミリー・ブライト(チェルシー)、DFアレックス・グリーンウッド(マンチェスター・シティ)、DFジェス・カーター(チェルシー)を中心に、怖いほどの冷静さで落ち着いた動きを見せ、その影響でオーストラリアも無駄に攻撃を仕掛けられず、互いに様子を伺うような緊張感のある展開に。
チェルシーでプレーするカーの脅威は十分に心得ているイングランドは、たとえゴール前までボールが運ばれても、危うい場合はすぐに後方のDF陣へと戻し、戦略を立て直すという動きを繰り返していた。一方のオーストラリアは、イングランドの慎重なボール運びをカットし、とにかくカーへとボールを集めようという動きだった。
前半36分、沈黙の戦いの中ようやく一手を打ったのがイングランドのMFエラ・トゥーン(マンチェスター・ユナイテッド)だ。親友でもあるFWアレッシア・ルッソ(アーセナル)からのアシストを受け、サイドバーギリギリの右上奥にループシュート。ボールは美しい軌道でゴールネットに吸い込まれ、同時にこれまで同様に慎重な動きをしていたオーストラリアに火がつき始めたが、ここで前半が終了した。
そして後半、オーストラリアのDFエリー・カーペンター(オリンピック・リヨン)が積極的にボールを奪いに行く姿や、FWケイトリン・フォード(アーセナル)、FWメアリー・ファウラー(マンチェスター・シティ)のゴール前で得点チャンスを狙う動きが目立つようになってくる。そんな中、63分にようやくカーが貫禄のロングシュートを決め同点へ。
イングランドは焦る事なく慎重な姿勢のまま、71分にFWローレン・ヘンプ(マンチェスター・シティ)がゴール前で相手守備の隙間から見事なテクニックでシュートを決めた(2-1)。オーストラリアは焦りを見せ始め攻撃を強めるが、イングランドは前半同様に安定したプレーを継続。そして86分、ヘンプからアシストを受けたルッソが王道のシンプルなシュートを決め、イングランドは結果3-1という見事な勝利で会場を沸かせた。
決勝戦のポイントは2人のFWローレン
イングランドにとって、20日のスペインとの決勝戦でポイントとなるのは、出場停止だったFWローレン・ジェームズが戻ることでサリナ・ヴィーフマン監督がどのような戦略で挑んでいくのか。また、非常に繊細な動きで足元の隙を狙ってくるスペインに対しての、FWローレン・ヘンプのテクニックが重要となりそうだ。
どちらかがW杯チャンピオンになった後
スペインでは、2021/22シーズンにラ・リーガと運営組織を同じくするリーガF(スペイン女子1部)のプロリーグ化が決定し、国を挙げて女子サッカーの繁栄に力を入れている。単にスポーツとしての取り組みを強化するだけではなく、国からの投資を戦略的に活用し、施設改善、競技自体について、メディア連携、クラブのサポートなど、女子サッカーに価値を見出す様々な取り組みを行っている。
スペインが今W杯で優勝国となった場合、リーガFにも多くのスポットが当たり、プロを目指したいという次世代の子供たちが増えることが期待されるだろう。
一方イングランドは、ユーロ2022(UEFA欧州女子選手権)での優勝経験もあって、国内では女子サッカーに対するイメージも上がり取り組みも進んでいる。なでしこジャパンのMF長谷川唯(マンチェスター・シティ)とDF清水梨紗(ウェストハム・ユナイテッド)も、今年6月に開催された女子サッカーの未来を考えるスポーツビジネスカンファレンス「Women’s Football Industry Conference 2023」にて、それぞれの所属クラブの環境の良さを絶賛していた。
既に基盤が出来上がっているイングランドが今W杯でも優勝国となった場合は、おそらく国内の女子サッカーのイメージは確固たるものと移り変わり、男女ともにサッカー発祥の地にふさわしい「サッカー大国」として堂々と名を掲げられるだろう。
どちらの国がW杯王者となった場合にも、その後の自国での変化や、その変化を感じるられるかということがとても重要となりそうだ。
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