敵地でブラジルにミドル2発の大金星
その後、田中が闘争心と向上心をもって、その成長ぶりを最も強烈に印象づけたのは、Jリーグの舞台ではない。トゥーロン決勝時に大きな課題を突き付けられた相手セレソン(ブラジル代表の呼称)を、敵地ブラジルの地で下した一戦である。
2019年10月14日、ブラジル遠征をしていたU-22日本代表は、U-22ブラジル代表と強化試合を行い、3-2の大金星を挙げた。試合は2014年のブラジルW杯で日本がコートジボワールに逆転負けを喫したアレナ・ぺルナンブーコにて行われた。
強化試合とはいえU-22ブラジル代表には、レアル・マドリードでゴールを量産し始めていた18歳のFWロドリゴ・ゴエスや、この直後にフランスのオリンピック・リヨンへ移籍しUEFAチャンピオンズリーグでベスト4へ進出する原動力となった攻守の要のMFブルーノ・ギマラエスがいた。さらに同試合の先制点を決めたのは、昨今の移籍市場を賑わす東京五輪代表FWマテウス・クーニャである。むしろ日本の方が、フル代表に招集されていたDF冨安健洋、板倉滉、MF堂安律、久保が欠場してベストではなかったくらいだ。
同試合に90分間フル出場した田中は、前半27分にワントラップからの右足で狙いすましたコントロールショット、後半7分にはこぼれ球からの強烈な右足シュートを、どちらもミドルレンジから豪快に決めて2得点。決勝点も中山雄太による左足ミドル弾となり、これを機に日本のミドルシュートは「弱点」から「武器」へと変身した。
しかしこの時も、田中は自身の2ゴールよりも「ボールを失う回数が多過ぎた」と、課題を口にする。それにしても、U-22という世代別のカテゴリーとはいえ、敵地でのブラジル戦で勝利する日本代表やミドルシュートを2本決めるような日本人選手は現れるだろうか?
田中碧のドイツ2部での挑戦を観よ!
もちろん2020シーズンのJ1リーグでも数々の記録を打ち立てる独走優勝の川崎で主役となった田中は、今季も無敗で首位を快走する同チームを牽引。東京五輪本大会でも主力としてベスト4進出に大きく貢献した。2年前は「Bチーム」だった頃から考えれば想像できないほどの成長ぶりだが、「サッカーを知らなすぎる」と常に次のステージを見ている田中からすれば当然のことなのかもしれない。
田中は五輪前に、川崎からドイツ2部のフォルトゥナ・デュッセルドルフへ買い取りオプション付きの期限付きで移籍することを発表。ドイツ2部はすでに五輪期間中に開幕していたため、大会終了後にはすぐに新天地へ合流した。デュッセルドルフは欧州最大級の日本人街があり、近年でも宇佐美貴史や原口元気といった日本代表も在籍するなど多くの日本人がプレーしてきた場所だ。瀬田元吾氏のようにフロントで働く人物もいた。現在は昨季6ゴールを挙げた日本人とドイツ人のハーフであるMFアペルカンプ真大も在籍している。
デュッセルドルフは開幕3試合を1勝2敗の14位という不本意なスタートとなったが、8月20日にホルシュタイン・キールをホームに迎えた第4節の59分に「新司令塔」田中がデビュー。[4-1-4-1]のインサイドMFと終盤は[4-4-2]のダブルボランチの1角としてプレー。相手にボールを奪われない技術の高さが光り、任されたコーナーキックでは2-2の同点弾に繋がる正確なキックも披露した。
引き分けるも上々のデビューを果たした田中は、次節以降は先発起用となることが濃厚だ。次節は東京五輪で共に戦った板倉が加入したシャルケと対戦する日本人対決となる。そんな田中のドイツ2部での挑戦は、第8節までがTwitterの「スカパー!ブンデスリーガ公式アカウント」、第9~34節は「スカパー!オンデマンドサービス」で無料ライブ配信されることが発表されている。
司令塔タイプのMFが不足しがちな日本代表にとっても、今後は主軸になることが予想される田中。東京五輪で新たな課題を見つけ、新天地でどのようなプレーを見せてくれるのか?楽しみにしたい!
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