著者:津田翔汰
「Realism(現実主義)」
現代のカルチョの世界にて王朝を築き上げているユベントスの首脳陣に最も似合う言葉だ。スクデット7連覇、コッパ・イタリア4連覇と無類の強さを誇っている要因はもちろん勝者のメンタリティを根深く植え付けた前任者コンテ、そして現有戦力を最大限に生かすマネジメントをいかんなく発揮したアッレグリに因る部分が大きいものの、毎シーズンオフに開かれるメルカートで着実な“アップデート”を行う経営陣の働きぶりも見逃せない。
さて、「今シーズンはもう終わっている」と言うと少々語弊を生むかもしれない。まだキエフではレアル・マドリードとリバプールによるビッグイヤーをかけた大一番が残っており、数多くのフットボールファンの視線はこの欧州フットボール界の“総決算”に向けられていることだろう。しかしイタリアではセリエBをはじめとする下部リーグにおけるプレーオフを除けば今季の全日程は終了しており、各クラブは来季の編成に向けて様々な動きを見せている。
その最中、かつてミランでビッグイヤーを手にとり、チェルシー、パリ・サンジェルマン、レアル・マドリード、バイエルンでタイトルを総なめしていたカルロ・アンチェロッティのナポリ指揮官就任はイタリア国内を驚愕させる“サプライズ”となった。ユベントスの相手筆頭として終盤まで熾烈(しれつ)なカンピオナートの座を巡る争いを繰り広げた“南部の雄”のティフォージは、欧州ビッグクラブで成功を収めてきた“名将”の招聘(しょうへい)はスクデットという「夢」の実現へまた一歩近づいた証拠であると捉えているに違いない。同時にアンチェロッティは主力の引き留めに説得力を持たせる点で非常に重要な役割を担うこととなるだろう。
フリーでの加入が内定していると言われているリバプールのエムレ・ジャン 写真提供:GettyImages
確かにこのナポリの“アップデート”は先述したように大きな意味を持つものであることは言うまでもないが、ビアンコネーロ首脳陣も移籍市場にて相変わらずの立ち回りの巧さを武器にシーズン終了直後の“囲い込み”を披露しつつある。今夏の場合は、GKジャンルイジ・ブッフォンの退団に備え、セリエAの最前線でゴールマウスを守り、かつGKヴォイチェフ・シュチェスニーの控えとして満足できるだけのクオリティを兼ね備えているであろう、ジェノアのGKマッティア・ペリンはユベントス加入が間近に迫っていると伝えられている。
これに加え、すでにリバプールのMFエムレ・ジャンはチャンピオンズリーグ(CL)決勝終了後の加入が“内定”済みであると伝えられている。中盤センターを本職としながらも様々なポジションをこなすユーティリティ性や戦術理解度のみならず、ボール際での勝負強さや確実性のあるシンプルなパスなど、ユベントスの中盤にはうってつけの存在であるこのドイツ代表だが、パヴェル・ネドヴェド副会長が3シーズン前より動向を追い続け、かつ首脳陣がトリノへ連れてくるための巧みな“線引き”を行ってきたことが功を奏したと考えて良いだろう。そして特筆すべきは欧州の頂を目指す大舞台を経験するほどの有望株をフリーで獲得できる妙味があることだ。
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