
毎年の夏の風物詩、全国高等学校総合体育大会サッカー競技大会(インターハイ)が、7月26日から8月2日に、福島県のJヴィレッジスタジアムはじめ6会場で開催される。 Jクラブ入りを目指す高校サッカー部員にとっては、“就職活動”ともなる重要な舞台でもある。
今年の大会では、県予選の段階から大波乱が起きた。青森県予選24連覇、県内418連勝を誇り、2021年にはインターハイ、高円宮杯U-18プレミアリーグEAST、全国高校サッカー選手権で優勝を果たし3冠という偉業を達成した高校サッカー界の“絶対王者”青森山田高校が、6月2日の県予選決勝で八戸学院野辺地西高校に1-1からのPK戦で敗れ、出場を逃したのだ。
夏のインターハイでも冬の全国高校サッカー選手権大会でも、県予選で何度も相まみえた青森山田と野辺地西。野辺地西の地道な強化により年々その実力差は埋められ、今回PK戦とはいえ青森山田に土を付けたニュースは、衝撃をもって高校サッカー界に伝えられた。
ここでは、今夏のインターハイを中心に、高校サッカー界で起きつつある「地殻変動」について、すなわち新たな勢力の台頭や伝統校の変貌、そして戦術や育成環境の進化について考察する。

インターハイに出場する全51校
インターハイは、全国高等学校体育連盟と日本サッカー協会が主催し、各都道府県の予選を勝ち抜いた強豪校が集結する。全国高校サッカー、高円宮杯U-18プレミアリーグと並び、高校年代における3大大会の1つとされる。酷暑対策として、2024年からは福島県で固定開催されるようになった。
今年のインターハイでは51校が出場し、トーナメントで優勝を争う。注目すべきは、強豪校だけでなく、新興勢力や地方の公立校が台頭している点だ。まずは、2025年度(令和7年度)インターハイに出場する高校は下記の通りである。
<北海道・東北>
- 北海道:札幌大谷(2大会連続8回目)
- 青森:野辺地西(初出場)
- 岩手:盛岡商(6大会ぶり26回目)
- 秋田:秋田商(5大会ぶり35回目)
- 宮城:聖和学園(3大会ぶり5回目)
- 山形:山形中央(3大会ぶり13回目)
- 福島:尚志(15大会連続17回目)、学法石川(初出場)
<関東>
- 茨城:鹿島学園(2大会連続11回目)
- 栃木:佐野日大(9大会ぶり10回目)
- 群馬:前橋育英(2大会ぶり20回目)
- 埼玉:昌平(2大会連続6回目)
- 千葉:流通経済大柏(4大会ぶり16回目)
- 東京:帝京(2大会連続35回目)、修徳(12大会ぶり10回目)
- 神奈川:桐光学園(3大会連続17回目)、桐蔭学園(13大会ぶり11回目)
- 山梨:山梨学院(4大会連続9回目)
<東海・北信越>
- 新潟:帝京長岡(4大会連続9回目)
- 長野:東京都市大塩尻(2大会連続7回目)
- 富山:富山第一(4大会連続32回目)
- 石川:金沢学院大附(2大会ぶり2回目)
- 福井:丸岡(6大会連続36回目)
- 静岡:浜松開誠館(初出場)
- 愛知:愛工大名電(22大会ぶり2回目)
- 岐阜:帝京大可児(4大会連続10回目)
- 三重:四日市中央工(3大会ぶり31回目)
<関西>
- 滋賀:立命館守山(初出場)
- 京都:京都橘(5大会ぶり6回目)
- 大阪:阪南大高(2大会連続7回目)、大阪産大附(初出場)
- 兵庫:滝川第二(8大会ぶり24回目)
- 奈良:奈良育英(2大会ぶり21回目)
- 和歌山:近大和歌山(2大会連続13回目)
<中国・四国>
- 鳥取:米子北(17大会連続20回目)
- 島根:立正大淞南(5大会連続18回目)
- 岡山:岡山学芸館(2大会ぶり8回目)
- 広島:瀬戸内(2大会連続10回目)
- 山口:高川学園(5大会連続27回目)
- 香川:藤井学園寒川(初出場)
- 徳島:徳島市立(11大会連続23回目)
- 愛媛:松山北(10大会ぶり3回目)
- 高知:高知中央(4大会ぶり4回目)
<九州・沖縄>
- 福岡:飯塚(4大会ぶり2回目)
- 佐賀:佐賀東(2大会ぶり18回目)
- 長崎:長崎総科大附(3大会ぶり6回目)
- 熊本:大津(7大会連続25回目)
- 大分:大分鶴崎(3大会ぶり6回目)
- 宮崎:日章学園(2大会連続19回目)
- 鹿児島:神村学園(8大会連続11回目)
- 沖縄:那覇西(2大会連続19回目)

強豪校支配に風穴を空けた2024年度の昌平V
昨2024年のインターハイでは、元日本代表FW玉田圭司氏(現名古屋グランパストップチームコーチ)が監督を務めていた埼玉県の昌平高校が初優勝を飾り、従来の強豪校支配に一穴を開けた。近年急速に力をつけてきた新興勢力の代表例であり、高校サッカー界における勢力図は刻一刻と変化している。
昌平の成功の背景には、Jリーグクラブとの連携や、プロ選手を輩出する育成システムの確立がある。特に、監督就任1年目にして結果を出した玉田前監督の戦術的アプローチは、組織的な守備と速攻を軸にした現代サッカーに適している。
また、地方の公立校の台頭も見逃せない。今年は茨城県予選で私立の鹿島学園高校が優勝した(6月15日)が、古豪として知られる県立の古河一高校や日立一高校といった公立校も上位になを連ね、競争が激化していることが伺えた。
公立校は予算や施設面で私立校に劣る場合が多く、指導教師(監督)の人事異動も含めたハンデを背負いながらも、地域のクラブチームとの連携やスカウティングの強化により、好選手の確保に力を入れている。実績のある「公立の雄」とも言えるのは、大津高校(熊本県代表)、松山北高校(愛媛県代表)、丸岡高校(福井県代表)、佐賀東高校(佐賀県代表)などで、今年も出場を決めた。
このような新興校や公立校の台頭は、長年高校サッカー界の頂点に君臨してきた青森山田のみならず、静岡学園高校、流通経済大学付属柏高校といった従来の強豪校に対する挑戦状とも言える。
青森山田は、2024年大会では準優勝で連覇を逃し、今大会は出場すら逃した。2022年まで監督を務めた黒田剛氏(現町田ゼルビア監督)が植えつけた厳格な規律とフィジカルを重視したスタイルに支えられてきたが、現代サッカーではテクニックや戦術の柔軟性がより求められるようになっている。
伝統校も変革を迫られ育成方針を見直し、攻撃的なスタイルや選手の創造性を重視する方向へシフトしつつある。
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