
2024/25シーズンの日本女子プロサッカーリーグ(WEリーグ)を3位で終えた、三菱重工浦和レッズレディース。最終節を含む終盤3試合で2分け1敗と失速したことで、WEリーグ3連覇や来季のAFC女子チャンピオンズリーグ出場権を逃した。
今年1月に皇后杯を制し、3月の時点ではリーグ優勝も狙える順位につけていたものの、3月23日のAFC女子チャンピオンズリーグ準々決勝で武漢江大(中国)に敗れ、アジア制覇の夢が断たれる。この結果を受け、同クラブは3月25日付けで楠瀬直木監督との契約を解除した。
2022/23シーズン以降のWEリーグ連覇や、2023/24シーズンのAFC女子クラブチャンピオンシップ2023(Invitational Tournament)優勝など、浦和RLに複数のタイトルをもたらした楠瀬監督の解任に同クラブのサポーターたちが猛反発。この混乱のなかで堀孝史氏が後任監督に据えられたが、[4-1-4-1]の布陣を基調とする戦術の浸透に時間がかかり、これがシーズン終盤の失速の原因となった。
ここでは堀監督就任後の浦和RLの戦いぶりを振り返るとともに、同監督が解決できなかった戦術面の問題点を挙げていく。また、WEリーグ3連覇の可能性が十分に残されていた状況下で、楠瀬監督の解任に踏み切った同クラブの判断の是非も論評する。

新潟戦で問題点が浮き彫りに
堀監督就任後の浦和RLの戦いぶりから筆者が感じたのは、GKや最終ラインからのパス回し(ビルドアップ)における、各選手の立ち位置の悪さだ。
この問題が如実に表れたのが、0-1で敗れたWEリーグ第20節アルビレックス新潟レディース戦における、後半5分の失点シーン。ここでは浦和RLのDF後藤若葉(センターバック)が自陣後方でボールを受けたが、後藤に寄せた新潟の選手の両斜め後ろに浦和RLの選手が立っていなかったため、パスコースが少ない状況に。中盤の底に立つMF角田楓佳へのパスコースが新潟陣営に塞がれたうえ、後藤とDF遠藤優(右サイドバック)の距離も開いていたため、中盤から降りてきたMF塩越柚歩へのリスキーな縦パスしか選択肢が残されていなかった。
後藤から塩越への縦パスがずれたことで、新潟が敵陣でボールを回収。ここから始まった速攻を、新潟MF滝川結女が得点に結びつけている。この1点が浦和RLの選手たちに重くのしかかった。
パスコースを常に2つ以上確保するには、ボール保持者に最も近い相手選手の“両斜め後ろ”に味方が立つことが必要になってくる。前述の場面では、センターバック後藤にプレスをかける新潟の選手の両斜め後ろに、浦和RLの選手が立ちたかった。

堀監督が施すべきだった工夫は
堀監督が採り入れた[4-1-4-1]の攻撃配置では、センターバックにプレスをかける相手選手の両斜め後ろにパスコースを作りにくい。中盤の底に1人しかおらず、それゆえ2インサイドハーフのどちらかがここへ降りなければならないからだが、楠瀬前監督が採用していた[4-2-3-1]では中盤の底が2人(2ボランチ)になるため、この立ち位置をとりやすい。2ボランチに慣れていた浦和RLの選手たちにとって、基本布陣[4-1-4-1]のビルドアップは至難の業だった。

これに加え、シーズン終盤は右サイドバック遠藤のビルドアップ時の立ち位置が定まらず。高い位置をとろうとする姿勢は窺えたが、低い位置のタッチライン際でボールを受けてしまう場面もちらほら。サイドバックがここでボールを受けた場合、図2のように目の前の味方サイドハーフにしかパスを出せない状況に陥りやすい。また、味方サイドハーフも相手サイドバックに寄せられるため、相手ゴールに背を向けた状態でのプレーになりがち。こうしたビルドアップの手詰まりが、シーズン終盤の浦和RLに起きていた。

図3のようにサイドバックをペナルティエリアの横幅から出ないように立たせ、なおかつボール保持者に最も近い相手選手の両斜め後ろに味方を立たせる原則を徹底させれば、サイドバックがボールを受けたときに内側にも外側にもパスコースがある状態となる。また、この場所でボールを受けた浦和サイドバックに相手サイドハーフが寄せた場合、相手サイドハーフとサイドバック間が開くため、浦和のサイドハーフが相手ゴールを向いてプレーしやすい。こうした修正を堀監督はできず、パスが繋がりにくい選手配置を最後まで改善できなかった。
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