
欧州ではどう対策されているのか
不正転売とのいたちごっこは欧州でも続いている。プレミアリーグ、ブンデスリーガ、ラ・リーガはいずれも、①法的規制の整備、②デジタル技術の活用、③公式リセール(再販)チャネルの強化を軸に対策を進めてきた。背景にあるのは、高額転売が一般ファンの排除やスタジアム周辺の混乱を招き、リーグブランドを毀損しかねないという危機感だ。
イングランド:法規制とクラブ主導の“締め付け”
イングランドでは、1994年刑事司法・公衆秩序法により、サッカーの指定試合に関して無許可転売が禁止されている(主にイングランドとウェールズが対象)。違反者は罰金等の対象となる。さらに近年は、スポーツイベントの転売価格を定価以上に制限する新たな規制や、リセール事業者の手数料上限設定などを巡る議論も進む。
クラブレベルではデジタル化が加速。暗号化バーコード付きのモバイルチケット、多要素認証、ボット検知システムの導入により大量購入を遮断する。リバプールは不正アカウントの大規模凍結や入場禁止措置を公表し、抑止力を示した。
同時に、公式リセールの整備が重要な柱だ。シーズンチケット保有者が定価で再販できる仕組みを整え、クラブ管理下で流通させることで高額転売を抑える。もっとも、海外拠点の二次流通サイトを通じた取引は依然として課題に残る。
ドイツ:会員制文化と“50+1”の論理
ドイツでは、無許可転売や会場周辺でのダフ屋行為は厳しく取り締まられる。法規制に加え、クラブの販売約款(AGB)で転売禁止や無効化条項を明確化し、違反時の入場停止を徹底するケースが多い。
特徴的なのは、会員優先販売の徹底だ。50+1ルールのもと会員基盤を重視するブンデスリーガでは、シーズンチケット保有者→会員→一般販売の順で販売するのが一般的。慢性的な完売状況も相まって、会員登録が“正規ルート”の前提となる。
バイエルンなどは公式二次市場を運営し、定価再販に限定。未承認プラットフォームでの出品チケットは無効化する方針を明示する。電子チケットや本人確認の強化も進み、「公式チャネル以外はリスクが高い」という認識を浸透させている。
スペイン:ブロックチェーンとEU規制
ラ・リーガでは、クラブごとに公式アプリでの本人確認やモバイルチケットの標準化が進む。人気カードは抽選制や厳格な転売禁止条項を設け、違反時は無効化する。
また、二次市場の透明化を目的にブロックチェーン技術を活用する動きもある。取引履歴の追跡性を高め、詐欺防止や所有権の明確化を図る構想だ。
法的枠組みとしては、EUのデジタルサービス法(DSA)が2023年から適用され、違法商品・サービスの流通抑止やプラットフォームの責任強化が進む。額面超過販売の表示方法や広告の扱いも監視対象となり、検索露出の抑制など一定の効果が指摘されている。
欧州の共通点と課題
欧州各国に共通するのは、「全面禁止」ではなく「公式管理下への取り込み」という発想だ。完全排除を目指すより、定価再販の受け皿を整備し、利益目的の高額転売だけを締め出す。一方で、規制が強まるほど地下化や海外サイト経由の流通が生じるリスクは残る。デジタル技術の導入は有効だが、コスト増や個人情報管理の課題とも隣り合わせだ。
鹿島の一手はモデルケースとなるか
デジタル対策が進みネット上の高額転売が抑制される一方、会場周辺での対面型ダフ屋が再浮上する懸念は欧州でも指摘されている。イングランドでは国内法の適用範囲が海外サイトという“抜け穴”を生み、裏市場で定価の数倍に達する取引も報告された。ドイツやスペインでも、ビッグマッチ開催時の非公式売買は根絶には至っていない。規制強化と地下化のせめぎ合いは、いまも続いている。
対抗策の鍵を握るのは、法規制と技術の統合だ。EUのデジタルサービス法(DSA)によるプラットフォーム責任の強化、違法出品の迅速削除、クラブによるID検証の徹底、そして定価再販を原則とする公式リセールの拡充。価格上限や手数料規制を組み合わせることで、流通を「排除」ではなく「管理」する発想が主流になりつつある。
対照的にアメリカでは契約自由の原則が強く、高値取引は比較的容認される。ただし州法や公式リセール制度による一定の統制は存在する。北中米W杯を控え、二次流通市場がどう動くのかは世界的な関心事だ。
鹿島の措置は、こうした世界的潮流の中で見れば決して孤立した動きではない。問われるのは「発表」ではなく「継続」である。不正転売との戦いは、一度の摘発で終わるものではない。クラブが本気で“管理型流通”へと舵を切り、リーグや行政、ファンと連携しながら市場を健全化できるか。鹿島の取り組みは、その試金石となる。
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