
鹿島アントラーズが2025年11月、入場チケットの不正転売対策を強化すると発表した。対象はJ1第36節・横浜FC戦および第38節・横浜F・マリノス戦。ファンクラブ先行販売で完売後、外部サイトでの転売が確認されたことを受け、クラブは不正転売チケットの無効化に加え、該当会員の無期限資格停止、JリーグIDの利用停止という厳格な措置に踏み切った。
さらに注目すべきは、購入者からの情報提供を呼びかけ、「自主申告分は無効化しない」と明言した点だ。転売被害者を“処罰対象”ではなく“協力者”へと転じさせるこの手法は、悪質業者の摘発を狙う実践的アプローチといえる。
2019年施行のチケット不正転売禁止法は、主催者の同意なく定価を超えて転売する行為を禁じ、違反者に1年以下の懲役または100万円以下の罰金を科す可能性がある。それでも、転売サイトやSNSを通じた取引は後を絶たないのが現実だ。鹿島の対応は、法制度の枠内にとどまらず、クラブ自らが実効性を高めようとする“踏み込んだ一手”として位置付けられる。
ここでは、鹿島の対策の実効性を検証するとともに、日本および欧州におけるチケット転売規制の最前線を整理し、不正転売根絶への課題を考察する。
デジタル技術は“万能”なのか
転売撲滅策として、顔認証や電子チケットの高度化が注目されている。顔認証は入場時の本人確認を徹底し、なりすましを防ぐ有効な手段だ。加えて、AIによるボット検知も進化しており、販売開始直後に行われる大量の自動購入を遮断する技術も普及しつつある。テクノロジーは確実に、転売市場の“入口”を狭め始めている。
さらに、ブロックチェーンやNFTを活用し、取引履歴を改ざん不可能にする仕組みも模索されている。二次流通の履歴を可視化し、転売時の手数料を主催者へ還元する設計が実現すれば、過度な利益目的の売買を抑制できる可能性がある。チケットを「所有物」ではなく「管理される権利」として再定義する発想だ。
もっとも、技術強化はコスト増や個人情報管理という新たな課題を伴う。厳格な本人確認は不正防止に有効な一方で、入場手続きの煩雑化や心理的ハードルを高める側面も否めない。完全防止を目指すほど、一般ファンの利便性とのバランスが問われる。デジタル技術は強力な武器ではあるが、それだけで“万能”とは言い切れない。
チケット不正転売の現状とダフ屋復活の懸念
ネット上での転売規制が強化される一方で、懸念されるのが“アナログ回帰”だ。電子チケットや本人確認の厳格化によりオンライン転売が難しくなれば、会場周辺での対面式取引、いわゆるダフ屋行為が再び活発化する可能性は否定できない。2019年施行のチケット不正転売禁止法は、興行主の同意なく定価を超える価格で転売する行為を禁じたが、実効性は監視体制と運用次第という側面もある。
象徴的だったのが、1月12日に国立競技場(MUFGスタジアム)で行われた全国高校サッカー選手権決勝(鹿島学園対神村学園)だ。準決勝第1試合が行われていた1月10日午後1時14分には決勝チケットの完売が発表され、その後、転売プラットフォームやSNS上で売買投稿が確認された。大会は歴代最多の6万142人を動員したが、プロ興行ではない大会ゆえの管理上の“盲点”があったとも指摘できる。同様の現象は、夏の甲子園大会決勝などでも散見されてきた。
チケット不正転売問題に取り組むACPC(一般社団法人コンサートプロモーターズ協会)は、インターネット転売サイトの普及によって問題が広範囲化したと指摘する。一方で、対面型のダフ屋行為は各都道府県の迷惑防止条例で禁止されているものの、取り締まりが徹底されなければ復活の余地は残る。デジタル規制を強めるほど、地下化・分散化するリスクも高まる。転売対策は単一の手法では完結しない、いたちごっこの様相を呈している。
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