Jリーグ

J3全クラブ監督通信簿&続投可能性【2025シーズン総括】

沖田優監督(右)大熊裕司監督(中)石丸清隆監督(右)写真:Getty Images

2025シーズンのJ3リーグは11月29日に全日程を終了し、優勝の栃木シティと2位のヴァンラーレ八戸が来季J2昇格を決めた。残る1枠を懸けたJ2昇格プレーオフでは、4位のテゲバジャーロ宮崎が12月14日の決勝(Axisバードスタジアム/4-0)で3位のFC大阪を下し、J3から昇格した3クラブすべてが“初のJ2”を果たしている。

昇格クラブに限らず、J3全体ではすでに来季を見据えた監督人事やチーム編成の動きが本格化している。プロ初指揮の若手から百戦錬磨のベテランまで、多彩な指揮官が揃った2025年のJ3リーグ。ここでは監督人事に焦点を当て、各クラブのシーズンを総括するとともに、続投・退任の背景や来季への課題を整理する。


石﨑信弘監督(モンテディオ山形所属時)写真:Getty Images

ヴァンラーレ八戸:石﨑信弘監督

評価:★★★★★/続投可能性:0%

1995年、当時JFLのNEC山形(現モンテディオ山形)で指揮を執り始めて以来、北は札幌から南は宮崎まで、のべ12クラブを率いてきた石﨑信弘監督。2023年に八戸の監督に就任し、7位、11位と中位に甘んじていたが、3季目にして待望のJ2復帰という歴史的快挙をもたらした。

最終勝点71で2位を確保し、自動昇格を達成。リーグ最少失点22という鉄壁の守備が最大の武器で、コンパクトなブロック形成と迅速なカウンターが相手を圧倒した。序盤の苦戦も早々に立て直し、後半戦は11勝3分1敗の驚異的な安定感を発揮。得点45は上位チームとしては控えめだが、前線のアタッカーを生かした効率的な攻撃が光り、選手のポジショニング管理も秀逸だった。豊富なJ2経験がチームに安心感を与え、若手選手の成長を促した点も高評価の理由だ。

しかしながら、石﨑監督は「家庭の事情」により退任が決定し、松本山雅の新監督に就任。後任には、3シーズンにわたってヘッドコーチを務めた高橋雄菊氏が昇格すると報じられている。


寺田周平監督 写真:Getty Images

福島ユナイテッド:寺田周平監督

評価:★★★★☆/続投可能性:100%

10月25日、契約延長が発表された寺田周平監督。就任2年目の2025シーズンは10位に終わり、2年連続の昇格プレーオフ進出には届かなかった。

攻撃面では中央突破を武器にリーグ4位タイの60得点を挙げた一方、失点67はリーグワースト。しかしこれはクラブの哲学によるものであり、ある程度失点に目をつぶって攻撃重視を貫いた結果でもある。福島の試合はとにかく得点が多く、シーズンを通してスコアレスドローはゼロ。得点シーンを数多く見せることで、サポーターを増やすことよりもまず、「サッカーを好きになってほしい」という思いが垣間見える。

寺田監督の若手育成の手腕は光り、他クラブから育成型期限付き移籍で加入した選手や大卒ルーキーも積極的に起用。その一方で、経験豊富なベテラン選手とのバランスも取れたチームを作り上げた。資金面では依然として厳しく、毎オフのように主力選手が引き抜かれる中でも、的確な補強で中位以上の成績を収めている点は賞賛されるべきだろう。


小林伸二監督 写真:Getty Images

栃木SC:小林伸二監督

評価:★★★☆☆/続投可能性:0%

10月30日、退任が発表された小林伸二監督。1シーズンでのJ2復帰に失敗した責任を取る形となった。6位と勝ち点1差の7位と、最後まで上位争いに食らいついたものの、昇格プレーオフ進出には届かなかった。

リーグ3位(総失点36)の堅牢な守備は大きな武器で、若手とベテランの融合にも成功したが、得点力(総得点42)の低さが昇格を阻む最大の要因となった。連敗を最小限に抑え、終盤に盛り返す粘り強さは見せたものの、FW陣の決定力不足が最後まで響いた。基本的には【3-4-2-1】のフォーメーションを軸としながら、試合の流れに応じたシフトチェンジも効果的で、選手からの信頼も厚かった。一方で、補強の遅れがシーズン終盤に影を落としたのも事実だ。

来季はクラブOBで宇都宮市出身でもある米山篤志氏を次期監督に迎えることが濃厚と報じられているが、小林監督が築いた堅実な土台を基盤に、J2復帰への道筋は見えている。今季は成績面でも話題性でも同県の栃木シティの陰に隠れてしまったが、的確な補強が実現すれば、来季は捲土重来を期すシーズンとなるだろう。


今矢直城監督 写真:Getty Images

栃木シティ:今矢直城監督

評価:★★★★★/続投可能性:100%

今矢直城監督のルーキーイヤーは、栃木シティにJ3初優勝とJ2昇格という快挙をもたらした。早稲田大学ア式蹴球部のOBチーム「早稲田ユナイテッド」の監督として指導者キャリアをスタートさせ、横浜F・マリノスでの通訳、清水エスパルスでのコーチ兼通訳を経て、2022年、当時関東リーグ1部に所属していた栃木シティの監督に就任。2023年から3年連続昇格で、クラブをJ2の舞台へと導いた。

2位に勝ち点5差をつける77ポイント、得失点差+32という圧倒的な数字で、J3初昇格即優勝を達成。コンパクトな守備からFW田中パウロ淳一の突破、FWピーター・ウタカのフィジカルを生かした速攻を徹底し、失点37の堅守も大きな基盤となった。得点69はリーグ1位タイで、前線の連動から生まれる爆発的な攻撃力が際立った。

選手の潜在能力を最大限に引き出した手腕が高く評価され、10月30日に続投が発表されている。課題はJ2への適応だが、その攻撃力は十分で、上のカテゴリーでも通用する可能性は高いだろう。


沖田優監督 写真:Getty Images

ザスパ群馬:沖田優監督

評価:★★☆☆☆/続投可能性:100%

J3降格1年目を任された沖田優監督だが、2025シーズンは第24節から第28節まで5連敗、第30節から第32節まで3連敗を喫し、降格が現実味を帯びる時期もあった。しかし、第33節から最終節までを5連勝で締めくくり、最終順位は14位。攻撃面では総得点56と一定のポテンシャルを示した一方で、総失点59と守備の綻びも目立ち、シーズンを通して安定感を欠いた。47歳の新人監督にとっては、収穫と課題の両方がはっきりと見えた1年だったと言えるだろう。

若さゆえの経験不足が露呈した側面は否めないが、クラブOBで元日本代表MFの細貝萌氏が社長を務めるクラブは、沖田監督の続投を選択。来季に向けては、まず守備の再構築が最優先課題となるだろう。攻撃陣のポテンシャルは高く、攻守が噛み合えば上位進出を狙えるだけの戦力は備えている。就任2年目を迎える沖田監督にとっても、真価が問われる試金石のシーズンとなりそうだ。


シュタルフ悠紀リヒャルト監督 写真:Getty Images

SC相模原:シュタルフ悠紀リヒャルト監督

評価:★★★☆☆/続投可能性:70%

2025シーズン、天皇杯では16強に進出する健闘を見せたシュタルフ悠紀リヒャルト監督率いるSC相模原だったが、リーグ戦では12位にとどまった。シーズン中盤には一時、降格圏にまで沈む苦しい時期もあった。終盤にかけて粘り強さを発揮したものの、総得点38は試合数と同数にとどまり、この数字では昇格争いに加わるのは難しかったと言わざるを得ない。

ドイツ国籍を持つ同監督らしく、ポゼッション重視のサッカーを志向したが、今季のレフェリング傾向の変化により中盤で潰される場面が頻発。シーズン最終戦後には、同監督自身も「トレンドを読み間違えた」と語り、戦術面での反省を口にしている。

Jリーグ史上最年少の34歳でY.S.C.C.横浜の監督に就任して以来、3クラブ7シーズンにわたってJ3クラブを率いてきた“J3マスター”でもあるシュタルフ監督。欧州流のポジショナルプレーはチームに新風を吹き込み、若手選手の台頭を促した点は評価できる。来季の飛躍に向けては、明確な課題である攻撃陣の補強が鍵となるだろう。また、レフェリングの変化を踏まえ、現在のスタイルをどこまで修正・進化させていくのかも、大きな注目点のひとつだ。

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名前:寺島武志

趣味:サッカー観戦(Jリーグ、欧州5大リーグ、欧州CL・EL)、映画鑑賞、ドラマ考察、野球観戦(巨人ファン、高校野球、東京六大学野球)、サッカー観戦を伴う旅行、スポーツバー巡り、競馬
好きなチーム:Jリーグでは清水エスパルス、福島ユナイテッドFC、欧州では「銀河系軍団(ロス・ガラクティコス)」と呼ばれた2000-06頃のレアルマドリード、当時37歳のカルロ・アンチェロッティを新監督に迎え、エンリコ・キエーザ、エルナン・クレスポ、リリアン・テュラム、ジャンフランコ・ゾラ、ファビオ・カンナヴァーロ、ジャンルイジ・ブッフォンらを擁した1996-97のパルマ

新卒で、UFO・宇宙人・ネッシー・カッパが1面を飾る某スポーツ新聞社に入社し、約24年在籍。その間、池袋コミュニティ・カレッジ主催の「後藤健生のサッカーライター養成講座」を受講。独立後は、映画・ドラマのレビューサイトなど、数社で執筆。
1993年のクラブ創設時からの清水エスパルスサポーター。1995年2月、サンプドリアvsユベントスを生観戦し、欧州サッカーにもハマる。以降、毎年渡欧し、訪れたスタジアムは50以上。ワールドカップは1998年フランス大会、2002年日韓大会、2018年ロシア大会、2022年カタール大会を現地観戦。2018年、2022年は日本代表のラウンド16敗退を見届け、未だ日本代表がワールドカップで勝った試合をこの目で見たこと無し。
“サッカーは究極のエンタメ”を信条に、清濁併せ吞む気概も持ちつつ、読者の皆様の関心に応える記事をお届けしていきたいと考えております。

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