
2025年11月1日、国立競技場で行われたJリーグYBCルヴァンカップ決勝で、サンフレッチェ広島が柏レイソルを3-1で下し、3年ぶり2度目の優勝を果たした。この試合で特に注目を集めたのが、広島DF中野就斗によるロングスローからの2得点だ。スローインをゴール前まで正確に放り込み、味方が競り勝って得点に結びつける。この“ロングスロー作戦”が試合の流れを決定づけた。
観戦に訪れていた日本代表の森保一監督は、試合後の取材でこの戦術を高く評価。「(セットプレーの)形を増やしたいと思っている。ただ、投げられる選手がいるのかということがある」と語り、ロングスローを代表チームに導入する可能性を示唆した。森保監督がこの発言をした背景には、世界的にも“ロングスローの再評価”が進んでいる潮流がある。
ここでは、ロングスロー戦術の概要と国際的な広がり、森保監督の発言内容の実現性を精査。また代表招集経験のある選手の中から、ロングスローを武器とする候補者を挙げ、各選手の特長や代表での活用可能性を分析する。

世界で広がる「ロングスロー再評価」の波
ロングスローとは、サイドラインからのスローインを長距離でゴール前まで飛ばすセットプレーの一種だ。かつては高校サッカーなどで多用されていたが、近年ではデータ分析の進化により「直接得点につながる確率の高い攻撃手段」として再注目されている。
プレミアリーグではブレントフォードやニューカッスル・ユナイテッドが積極的に採用し、欧州選手権(ユーロ)予選でもウェールズ代表やデンマーク代表が戦術に組み込んでいる。Jリーグでは2024シーズン、町田ゼルビアがロングスローを武器に快進撃を見せ、一部から“アンチフットボール”との批判を受けながらも結果で黙らせた。いまや「スローインも立派な攻撃手段」という認識が定着しつつある。
日本代表はこれまで、コーナーキックやフリーキックのパターン構築には熱心だったが、スローインを得点機に変える発想は薄かった。森保監督が新たなセットプレーの可能性としてロングスローに注目したことは、代表戦術の幅を広げるうえで大きな意味を持つ。
森保監督の狙いと現実的な課題
森保監督は「投げられる選手がいるかどうかがポイント」と語る通り、残り7か月となったFIFAワールドカップ北中米大会(2026年6月開幕)に向けて、今から新戦術を練り上げる時間的余裕は少ない。限られた合宿期間で新たな戦術を浸透させるのは容易ではない。
そこで有力なのが、“ロングスローを得意とする選手を招集する”というアプローチである。森保監督は「海外の試合を見ていても、ゴール前でのスローインが増えている。戦術的にも世界的にも変わってきている」と述べており、選考基準にもその意識を反映させる可能性がある。
以下では、現代表や招集経験者の中から、ロングスローを武器にできる選手を取り上げる。

相馬勇紀:強肩と攻撃センスを兼ね備えた切り札
町田ゼルビアのMF相馬勇紀は、名古屋グランパス時代の2022シーズンから約30メートルのロングスローを武器としてきた。早稲田大学時代に身につけたこの技術は、ペナルティエリア中央に正確に届く精度を誇る。
身長166センチと小柄ながら、投げ終えた後のポジショニングでセカンドボールを拾い、2次攻撃につなげるセンスも光る。代表では19試合5得点と実績があり、突破力・キック精度も兼ね備える万能型だ。サイドハーフの位置から戦術的に柔軟に対応できる点でも、森保監督の構想にマッチする。

町野修斗:弾丸スローを誇るストライカー
ブンデスリーガのボルシア・メンヘングラートバッハに所属するFW町野修斗も、ロングスローを得意とする数少ないフォワードだ。ホルシュタイン・キール時代からスローインを直接チャンスに変える場面が多く、コーナーキックに匹敵する弾道でゴール前にボールを届ける。
今2025/26シーズン、負傷や体調不良もあり序盤戦ではなかなか本領を発揮できないでいたが、10月末のポカール2回戦では移籍後初ゴール、11月1日のブンデスリーガ第9節のザンクトパウリ戦(ミラントア・シュタディオン/4-0)ではリーグ戦初得点をマーク。ようやく本来の調子を取り戻しつつある。
上田綺世(フェイエノールト)や小川航基(NECナイメヘン)らと競うポジション争いの中で、町野が「ロングスロー」という特異な武器を持つことは、選考上の差別化につながるだろう。
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