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スタッド・ランス中村敬斗の移籍問題の背景と解決策。北中米W杯への鍵とは

中村敬斗 写真:Getty Images

日本代表のアタッカー中村敬斗(25歳)が、一時離れていたスタッド・ランスに合流し、リーグ・ドゥ(2部)降格後、9月20日に初出場。23日には初スタメンを果たし1得点1アシストを記録した。

中村が所属するランスは、2024/25シーズンにリーグ・アン16位となり、リーグ・ドゥ3位FCメスとの入れ替え戦で惜しくも敗れ、降格が決まった。チームが不調な状況でも、中村はリーグ戦11得点1アシストと気を吐いていた。

日本人最多のリーグ・アン2桁得点を決めたアタッカーが、ワールドカップを目前に2部でプレーすることなど想像できない。それが多くの日本代表ファンの心情だろう。移籍は必然と周囲が願うなか、今夏の退団は叶わなかった形だ。

FIFAワールドカップ(W杯)北中米大会まで1年を切り、サムライブルーの選手たちのなかには本大会での活躍を念頭に新天地でのプレーを選んだ者が多くいる。しかし、中村はなぜ移籍することができなかったのだろうか。その背景と解決策について探ってみよう。


中村敬斗(写真左)と伊東純也(写真右) 写真:Getty Images

スタッド・ランスの日本人トリオは三者三様

スタッド・ランスで中村とともに攻撃を紡ぎ、4得点5アシストとまずまずの数字を残したFW伊東純也は、ベルギーの古巣KRCヘンクに復帰し、移籍が実現した。中村との大きな違いは契約期間と年齢だ。伊藤とランスの契約は2026年6月までで32歳となる。降格したチームは、予算縮小への対応や次回の昇格時にチームをピークに持っていくために若返りを図る傾向がある。

現地報道によると、伊東の移籍金は280万ユーロ(約5億円)。2022年にヘンクから獲得した際にランスが支払った移籍金は推定1,000万ユーロ(約17億円)であったため、そのまま契約満了した場合、移籍金を回収することができなくなる。オファーがある時に売っておくのが得策と考えたのだろう。

柏レイソルから2025年1月にランスへと加入したDF関根大輝にとっても、降格は不運だった。しかし、まだ加入したばかりで23歳と若く、海外初挑戦で、2部であっても経験を積み成長していくビジョンを描きやすい。関根は降格決定直後にチーム残留を決意している。


カレル・ヘラールツ監督 写真:Getty Images

中村残留がスタッド・ランス新体制の条件に

現地報道によると、6月に就任したスタッド・ランスのカレル・ヘラールツ新監督は、就任の条件として中村の残留を挙げたという。その結果、中村を放出してしまうと新体制を正常に始動させることができなくなるというクラブの内情が生まれた。それだけ高く評価されているということだが、ある意味ではクラブ内政治の犠牲者とも言える。

移籍期限の間際には、ラ・リーガのビジャレアルが1,800万ユーロ(約31億円)の巨額オファーを出したが、それでもランスは中村の売却を頑なに拒んだという。

中村が2021年から2023年まで所属したLASKリンツ(オーストリア)から獲得時の移籍金が、推定1,000万ユーロ(約17億円)だったといわれているが、ランスは収益を上げる機会を棒に振ってでも中村を残すことを選んだ。

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名前Takuya Nagata
趣味:世界探訪、社会開発、モノづくり
好きなチーム:空想のチームや新種のスポーツが頭の中を駆け巡る。世界初のコンペティティブな混合フットボールPropulsive Football(PROBALL)を発表。

若干14歳で監督デビュー。ブラジルCFZ do Rioに留学し、日本有数のクラブの一員として欧州遠征。イングランドの大学の選手兼監督やスペインクラブのコーチ等を歴任。アカデミックな本から小説まで執筆するサッカー作家。必殺技は“捨て身”のカニばさみタックルで、ついたあだ名が「ナガタックル」。2010年W杯に向けて前線からのプレスを完成させようとしていた日本代表に対して「守備を厚くすべき」と論陣を張る。南アでフタを開けると岡田ジャパンは本職がMFの本田圭佑をワントップにすげて守りを固める戦術の大転換でベスト16に進出し、予言が的中。

宇宙カルチャー&エンターテインメント『The Space-Timer 0』、アートナレッジハブ『The Minimalist』等を企画。ラグビーもプレーし広くフットボールを比較研究。

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